3:45 PM - 4:00 PM
[S15-19] Differences in site amplification for each plain based on the ground motion prediction equation
1.はじめに
地震調査研究推進本部による全国地震動予測地図では、これまで主に最大速度や震度を指標とした地震動ハザード評価が行われてきたが、近年、工学的利活用のために応答スペクトルを指標とした評価に向けた検討が進められている。超高層建築物や免震構造は大都市の平野部に集中しており、これらの構造物の評価に重要となる長周期側の応答スペクトルの推定精度を高めるためには堆積盆地構造による地盤増幅を適切に考慮することが重要である。
地震動ハザード評価に用いられている既往の地震動予測式(例えば、Morikawa and Fujiwara, 2013やNGAプロジェクト)では長周期側の地盤増幅を考慮するために、観測点直下の堆積層の厚さをパラメータとした補正項が提案されている。しかし、堆積盆地における地盤増幅は3次元的な構造の影響を受けるため、堆積層の厚さだけでなく平野の規模や地層構成も地盤増幅に関係すると考えられる。本研究では、地震動予測式と観測値の残差を分析し、平野毎の地盤増幅の違いについて検討した。
2.回帰分析
観測点毎の地盤増幅特性を抽出するために、震源特性と伝播特性のみに対して地震毎に地震動予測式の回帰分析を行った。Matsu'ura et al.(2020)の地震動予測式の構築に用いられた地震のうち、概ね100観測点以上の観測記録が得られている85地震の27,957記録を対象とし、地震動予測式は次式のモデルを用いた。
log10 Sa = A - b Δ - β log10Δ - d min[δ, 250]
ここで、Saは水平動の加速度応答スペクトル(h=5%)としてRotD50[cm/s2](Boore, 2010)を用い、周期0.5, 1.0, 2.0, 3.0, 5.0秒の5点を対象とした。Δは断層最短距離[km]、δは観測点直下のプレート上面までの深度[km]である。A, b, β, dは回帰係数であり、地震タイプや減衰傾向を鑑みて地震毎に回帰する係数の組み合わせを調整した。地震毎の地震動予測式の回帰分析によって得られた観測値との対数残差を観測点毎に平均することで、観測点毎の地盤増幅特性を算出した。
次に、地盤増幅の平野毎の違いや、浅い地盤構造と深い地盤構造の周期による影響度の違いを明らかにすることを目的に、5記録以上得られている1,606地点の観測点毎の地盤増幅特性(観測値との残差の平均)について回帰分析を実施した。具体的には、Vs30とD1400をパラメータとした次式のモデルで、浅部の補正項(第1項)と深部の補正項(第2項)を同時に求めた。
Residual = gV log10(min[Vs30, Vth]/ V0) + gD log10(max[D1400, Dth]/D0)
ここで、Vs30はPS検層結果を基に翠川・野木(2015)の方法で推定した地表から30mの平均S波速度[m/s]、D1400は防災科学技術研究所J-SHISの深部地盤構造モデル(V3.2)においてS波速度が1400m/s以上となる深度[m]である。データセットの分布を鑑みてVth=1000m/s、V0=350m/sに固定した。gV, gD, D0は回帰係数であり、Dthはグリッドサーチにより求めた。
3.結果
地盤補正項による残差の変化について、図1に周期0.5秒と5.0秒の例を示す。補正項による残差の改善が確認でき、短周期側の周期0.5秒は浅部の補正項による改善効果が、長周期側の周期5.0秒は深部の補正項による改善効果がそれぞれ大きい傾向が見られている。浅部と深部の改善効果の大小は、周期1~2秒程度で入れ替わることが確認された。なお、中国地方では2秒以上の長周期側において深部の補正項により残差が悪化した。これは、中国地方は堆積層が薄くD1400が小さいため補正は応答を小さくする側に働くが、実際は表面波の卓越により観測の応答が大きいことが要因として考えられる。
本研究ではD1400の分布を参考に図2に示す7地域の平野(盆地・台地を含む)に着目し、地域間での残差の違いを確認した。図3に補正項の適用前後の残差を地域毎に平均して周期毎に示す。水色で示す大阪平野では周期2秒以上において、補正前の残差が他の地域に比べて大きい。補正項による改善効果は見られるが、他の地域に比べて効果が十分とは言えない。一方、青色の根釧台地では周期1~3秒において、補正前の残差が他の地域に比べて小さく、補正項により残差が悪化する場合がある。このことは、地域によってVs30やD1400と地盤増幅の関係性(補正項の傾き)が異なる可能性を示唆しており、地域毎の特性を考慮した地震動予測式の構築に向けて今後さらなる検討を進めたい。
4.謝辞
本研究は「地震調査研究推進本部の評価等支援事業」の一部として文部科学省からの委託によって実施しました。防災科学技術研究所の観測記録を利用しました。図の作成にはGMTを用いました。ここに記して感謝いたします。
地震調査研究推進本部による全国地震動予測地図では、これまで主に最大速度や震度を指標とした地震動ハザード評価が行われてきたが、近年、工学的利活用のために応答スペクトルを指標とした評価に向けた検討が進められている。超高層建築物や免震構造は大都市の平野部に集中しており、これらの構造物の評価に重要となる長周期側の応答スペクトルの推定精度を高めるためには堆積盆地構造による地盤増幅を適切に考慮することが重要である。
地震動ハザード評価に用いられている既往の地震動予測式(例えば、Morikawa and Fujiwara, 2013やNGAプロジェクト)では長周期側の地盤増幅を考慮するために、観測点直下の堆積層の厚さをパラメータとした補正項が提案されている。しかし、堆積盆地における地盤増幅は3次元的な構造の影響を受けるため、堆積層の厚さだけでなく平野の規模や地層構成も地盤増幅に関係すると考えられる。本研究では、地震動予測式と観測値の残差を分析し、平野毎の地盤増幅の違いについて検討した。
2.回帰分析
観測点毎の地盤増幅特性を抽出するために、震源特性と伝播特性のみに対して地震毎に地震動予測式の回帰分析を行った。Matsu'ura et al.(2020)の地震動予測式の構築に用いられた地震のうち、概ね100観測点以上の観測記録が得られている85地震の27,957記録を対象とし、地震動予測式は次式のモデルを用いた。
log10 Sa = A - b Δ - β log10Δ - d min[δ, 250]
ここで、Saは水平動の加速度応答スペクトル(h=5%)としてRotD50[cm/s2](Boore, 2010)を用い、周期0.5, 1.0, 2.0, 3.0, 5.0秒の5点を対象とした。Δは断層最短距離[km]、δは観測点直下のプレート上面までの深度[km]である。A, b, β, dは回帰係数であり、地震タイプや減衰傾向を鑑みて地震毎に回帰する係数の組み合わせを調整した。地震毎の地震動予測式の回帰分析によって得られた観測値との対数残差を観測点毎に平均することで、観測点毎の地盤増幅特性を算出した。
次に、地盤増幅の平野毎の違いや、浅い地盤構造と深い地盤構造の周期による影響度の違いを明らかにすることを目的に、5記録以上得られている1,606地点の観測点毎の地盤増幅特性(観測値との残差の平均)について回帰分析を実施した。具体的には、Vs30とD1400をパラメータとした次式のモデルで、浅部の補正項(第1項)と深部の補正項(第2項)を同時に求めた。
Residual = gV log10(min[Vs30, Vth]/ V0) + gD log10(max[D1400, Dth]/D0)
ここで、Vs30はPS検層結果を基に翠川・野木(2015)の方法で推定した地表から30mの平均S波速度[m/s]、D1400は防災科学技術研究所J-SHISの深部地盤構造モデル(V3.2)においてS波速度が1400m/s以上となる深度[m]である。データセットの分布を鑑みてVth=1000m/s、V0=350m/sに固定した。gV, gD, D0は回帰係数であり、Dthはグリッドサーチにより求めた。
3.結果
地盤補正項による残差の変化について、図1に周期0.5秒と5.0秒の例を示す。補正項による残差の改善が確認でき、短周期側の周期0.5秒は浅部の補正項による改善効果が、長周期側の周期5.0秒は深部の補正項による改善効果がそれぞれ大きい傾向が見られている。浅部と深部の改善効果の大小は、周期1~2秒程度で入れ替わることが確認された。なお、中国地方では2秒以上の長周期側において深部の補正項により残差が悪化した。これは、中国地方は堆積層が薄くD1400が小さいため補正は応答を小さくする側に働くが、実際は表面波の卓越により観測の応答が大きいことが要因として考えられる。
本研究ではD1400の分布を参考に図2に示す7地域の平野(盆地・台地を含む)に着目し、地域間での残差の違いを確認した。図3に補正項の適用前後の残差を地域毎に平均して周期毎に示す。水色で示す大阪平野では周期2秒以上において、補正前の残差が他の地域に比べて大きい。補正項による改善効果は見られるが、他の地域に比べて効果が十分とは言えない。一方、青色の根釧台地では周期1~3秒において、補正前の残差が他の地域に比べて小さく、補正項により残差が悪化する場合がある。このことは、地域によってVs30やD1400と地盤増幅の関係性(補正項の傾き)が異なる可能性を示唆しており、地域毎の特性を考慮した地震動予測式の構築に向けて今後さらなる検討を進めたい。
4.謝辞
本研究は「地震調査研究推進本部の評価等支援事業」の一部として文部科学省からの委託によって実施しました。防災科学技術研究所の観測記録を利用しました。図の作成にはGMTを用いました。ここに記して感謝いたします。