[S15P-01] 2023年Mw7.8トルコ地震の広帯域震源モデルと強震観測点の地盤増幅特性
2023年2月6日1時17分に発生した2023年Mw7.8トルコ地震では,震源域で甚大な被害が生じた.長周期波形や地殻変動を用いた既往研究のすべり量分布は震源の南西部では大きくないにもかかわらず,アンタキアを含むハタイ県南部周辺では大きな地震動が観測され被害も特に甚大であった.本研究では,AFADの強震記録を用いて経験的地盤増幅率を推定するとともに,アイソクロンバックプロジェクション法と経験的グリーン関数法に基づき広帯域震源モデルを推定し,この原因について考察した. はじめに,本震の破壊開始点付近で発生した2月6日1時28分のMw6.6の余震に対する近傍の3つの余震(要素地震を含む)の観測震源スペクトル比からw-2モデルを仮定してこれら4地震のコーナー周波数を推定した.そして,推定したw-2モデルと周波数f依存のQ値(Demirci, 2019)と実体波の幾何減衰を用いて,震源近傍の強震観測点での経験的地盤増幅率を算出した.その結果,アンタキアを含むハタイ県南部周辺での増幅率が大きいことがわかった. 次に,アイソクロンバックプロジェクション法(e.g., Pulido et al., 2008; 佐藤, 2023)で,震源近傍の強震記録のS波部の3-10Hzの加速度エンベロープから,高周波数の励起(Brightness)の大きい領域を算出した.この際,近傍の余震記録の観測走時と1次元地下構造モデル(Güvercin et al.,2022)に基づく理論走時の差の平均から求めた強震観測点での走時の補正係数で本震記録の走時を補正した.また,上述の経験的地盤増幅率,および,本震とMw6.6の余震のH/Vの比で本震記録を周波数領域でも補正した.トルコ地震の断層は,東アナトリア断層沿いの3つのセグメントと破壊開始点を含む分岐断層のセグメントにモデル化し,4つのセグメントごとにグリッドサーチ手法により破壊伝播速度を推定した.その結果,分岐セグメント,分岐セグメントと接するセグメント,その北東部のセグメント,南西部のセグメントの破壊伝播速度が2.9,2.6,2.6,3.3 km/sと推定された. 推定された破壊伝播速度を用いて,Brightnessが大きい領域周辺で強震動生成域(SMGA)を探索し,経験的グリーン関数法(Dan et al., 1989)に基づくグリッドサーチ手法(三宅ほか, 1999)により広帯域震源モデル(0.2-10Hz)を推定した.Brightnessが大きい領域とフォワードモデリングに基づく初期解析から,SMGAは8個と仮定した.要素地震として適切な地震がなかったため,破壊開始点に近い2月6日2時23分の地震を要素地震として用いた.要素地震で震源近傍の波形の極性まで再現できないため,0.2-10Hzの加速度波形,0.2-2Hzの速度波形ともエンベロープをターゲットにした.その結果,分岐セグメント上に応力降下量が最大のSMGAが推定されたが,それ以外のSMGAは既往研究のすべり量分布が大きい領域近くに推定された.東アナトリア断層沿いでは,分岐断層が接する場所の西側と東側のSMGAの応力降下量が大きかった.東アナトリア断層沿いの南西側のセグメントでは,北側にのみSMGAがあり,アンタキアに近い南側にSMGAがないが,アンタキアを含む南部での大きな地震動がほぼ再現された.しかし,fling-stepの影響は考慮されていないことから,断層直上の一部の観測点では速度波形がやや過小評価となった.ただし,既往の研究(Wu et al.,2023; Baltzopoulos et al.,2023)で推定されているパルス状の波形の周期は,本研究で対象とした観測点では3.4秒以上であるためか,周期2秒以下では観測をほぼ再現することができた.アンタキアを含むハタイ県南部周辺は,破壊伝播進行方向にあり,平均的な破壊伝播速度も3.3km/sとS波速度相当であることも,大きな地震動の要因になったと考えられる. 推定した広帯域震源モデルから算出した短周期レベルAは4.05×1019 Nm/s2であった.AFADの地震モーメントM0=5.88×1020 Nmを用いたM0-A関係は,引間・新村(2019)の長大断層まで考慮できるM0-A関係とほぼ整合した.ただし,Mw7.1以下の日本の地殻内地震の記録に基づく佐藤・岡崎(2023)の経験式の外挿ともほぼ整合していた. 謝辞:本研究ではAFADの強震記録とメカニズム解,Lomax(2023)の震源情報を使用しました.走時の計算には,Hirata and Matsu‘ura(1987)のhypomhを用いました.