[S15P-04] 地表地震断層の変位分布に着目した浅部すべりのモデル化に関する検討-横ずれ断層の場合-
1. はじめに
近年発生した内陸地殻内の地震(例えば、2016年熊本地震、2014年長野県北部の地震など)では、地震発生時に地表地震断層が出現した。これらの断層極近傍で観測された地震動に見られる永久変位の再現には、レシピ(地震本部, 2020)では考慮されていない地震発生層以浅にLMGA(Long-period Motion Generation Area)と呼ばれるすべり領域を設定する必要があることが報告されている(例えば、Irikura et al., 2020)。
このような地表地震断層が現れる震源断層の地震発生層以浅のモデル化については、上述の地震の再現解析などに基づき提案が行われているが、予測問題で地震発生層以浅に与えるすべり量、分布形状、配置などについては課題が残されている。特にすべり分布の形状については、特性化震源モデルにおけるアスペリティの形状に倣い矩形でLMGAをモデル化しているが、例えば、Wesnousky (2008)では地表地震断層の変位分布としてピークを有するsin型あるいはasymmetric sin型等を提案している。予測問題においては、設定したLMGAのすべり量、分布形状、配置が地表地震断層の変位分布形状に大きく影響するため、それらパラメータの設定においては観測記録に基づいた検討が重要である。
そこで本検討では、過去の地震における地表地震断層の変位量が整理されているWesnousky (2008)のデータセット(37地震39データ)を用いて、予測問題における地震発生層以浅(LMGA)のモデル化の検討を行う。
2. 検討方針
本検討では、Wesnousky (2008)のデータセットのうち、横ずれタイプの断層長さが40 km以上の地震で、変位分布の形状が複雑ではなく、単峰型を示す地震のデータを用いる。その結果、用いるデータ数は37地震39データのうち、8地震9データである。断層長さが40 km以上の地震を対象としたのは、井上 (2023)によると断層長さが40 km以上になると震源断層長さと地表地震断層長さがほぼ等しくなることを踏まえたものである。変位分布の形状が単峰型の地震を対象としたのは、変位分布を単純な関数形でモデル化するためである。
本検討で用いた地表地震断層の変位量のデータは、既に補間されているデータを基に1 km間隔に整理したデータとした。用いるデータは基本的にはNet Slipとしたが、水平方向と上下方向の変位量データがある位置が合致しない等の理由により、Net Slipの算出ができない場合は水平成分のみを用いた。
これらのデータを用いて、地表地震断層全体の平均変位量(AFDall)、最大変位量(MFD)を算出するとともに、本検討では平均変位量(AFDall)を基準値として、平均変位量(AFDall)以上となる領域の長さをLMGA長さ(LLMGA)と仮定する。さらにLMGA内の平均変位量(AFDLMGA)を整理し、平均変位量に対する最大変位量の比(MFD/AFDall)や、断層全体長さ(L)に対するLMGAの長さの比(LLMGA/L)、地表地震断層全体の平均変位量に対するLMGA内の平均変位量の比(AFDLMGA/AFDall)を整理する。
また、Wesnousky (2008)を参考に変位量の分布形状をモデル化する。
3. 結果
9データのMFD/AFDallの平均値は2程度、LLMGA/Lの平均値は0.5程度、AFDLMGA/AFDallは1.5程度となった。また、地表地震断層の変位量が最大となる位置は、断層中央にない非対称性をもつ地震も多くあることを確認した。
次に、地表地震断層の変位量分布のモデル化(関数形)を試行した。地表地震断層の変位量が最大となる位置が必ずしも断層中央にないことから、断層中央で対称となるような関数形でのモデル化は難しい。そこで、LLMGA/Lが0.5程度であることも踏まえて、図1のような非対称の変位量分布に適用できるasymmetric sin型の関数形でモデル化した。さらに、2023年トルコ・カフラマンマラシュ地震(Karabarak et al., 2023)への適用を試みた。
4. まとめと今後
本検討ではLMGAのモデル化を目的に、Wesnousky (2008)のデータのうち、横ずれタイプの断層長さ40 km以上の地震で、変位分布の形状が単峰型の地震を対象に、地表地震断層の変位量の分析を行った。その結果、平均変位量を上回るのは断層全体の長さの0.5倍程度、最大変位量は平均変位量の2倍程度であることを確認した。また、これらの実測された断層変位の分布形を近似的に説明するasymmetric sin型の関数を提案した。
今後は、asymmetric sin型の関数が縦ずれ断層に適用可能かどうかの検討や、変位量分布の形状が複雑なケースのモデル化が課題である。
近年発生した内陸地殻内の地震(例えば、2016年熊本地震、2014年長野県北部の地震など)では、地震発生時に地表地震断層が出現した。これらの断層極近傍で観測された地震動に見られる永久変位の再現には、レシピ(地震本部, 2020)では考慮されていない地震発生層以浅にLMGA(Long-period Motion Generation Area)と呼ばれるすべり領域を設定する必要があることが報告されている(例えば、Irikura et al., 2020)。
このような地表地震断層が現れる震源断層の地震発生層以浅のモデル化については、上述の地震の再現解析などに基づき提案が行われているが、予測問題で地震発生層以浅に与えるすべり量、分布形状、配置などについては課題が残されている。特にすべり分布の形状については、特性化震源モデルにおけるアスペリティの形状に倣い矩形でLMGAをモデル化しているが、例えば、Wesnousky (2008)では地表地震断層の変位分布としてピークを有するsin型あるいはasymmetric sin型等を提案している。予測問題においては、設定したLMGAのすべり量、分布形状、配置が地表地震断層の変位分布形状に大きく影響するため、それらパラメータの設定においては観測記録に基づいた検討が重要である。
そこで本検討では、過去の地震における地表地震断層の変位量が整理されているWesnousky (2008)のデータセット(37地震39データ)を用いて、予測問題における地震発生層以浅(LMGA)のモデル化の検討を行う。
2. 検討方針
本検討では、Wesnousky (2008)のデータセットのうち、横ずれタイプの断層長さが40 km以上の地震で、変位分布の形状が複雑ではなく、単峰型を示す地震のデータを用いる。その結果、用いるデータ数は37地震39データのうち、8地震9データである。断層長さが40 km以上の地震を対象としたのは、井上 (2023)によると断層長さが40 km以上になると震源断層長さと地表地震断層長さがほぼ等しくなることを踏まえたものである。変位分布の形状が単峰型の地震を対象としたのは、変位分布を単純な関数形でモデル化するためである。
本検討で用いた地表地震断層の変位量のデータは、既に補間されているデータを基に1 km間隔に整理したデータとした。用いるデータは基本的にはNet Slipとしたが、水平方向と上下方向の変位量データがある位置が合致しない等の理由により、Net Slipの算出ができない場合は水平成分のみを用いた。
これらのデータを用いて、地表地震断層全体の平均変位量(AFDall)、最大変位量(MFD)を算出するとともに、本検討では平均変位量(AFDall)を基準値として、平均変位量(AFDall)以上となる領域の長さをLMGA長さ(LLMGA)と仮定する。さらにLMGA内の平均変位量(AFDLMGA)を整理し、平均変位量に対する最大変位量の比(MFD/AFDall)や、断層全体長さ(L)に対するLMGAの長さの比(LLMGA/L)、地表地震断層全体の平均変位量に対するLMGA内の平均変位量の比(AFDLMGA/AFDall)を整理する。
また、Wesnousky (2008)を参考に変位量の分布形状をモデル化する。
3. 結果
9データのMFD/AFDallの平均値は2程度、LLMGA/Lの平均値は0.5程度、AFDLMGA/AFDallは1.5程度となった。また、地表地震断層の変位量が最大となる位置は、断層中央にない非対称性をもつ地震も多くあることを確認した。
次に、地表地震断層の変位量分布のモデル化(関数形)を試行した。地表地震断層の変位量が最大となる位置が必ずしも断層中央にないことから、断層中央で対称となるような関数形でのモデル化は難しい。そこで、LLMGA/Lが0.5程度であることも踏まえて、図1のような非対称の変位量分布に適用できるasymmetric sin型の関数形でモデル化した。さらに、2023年トルコ・カフラマンマラシュ地震(Karabarak et al., 2023)への適用を試みた。
4. まとめと今後
本検討ではLMGAのモデル化を目的に、Wesnousky (2008)のデータのうち、横ずれタイプの断層長さ40 km以上の地震で、変位分布の形状が単峰型の地震を対象に、地表地震断層の変位量の分析を行った。その結果、平均変位量を上回るのは断層全体の長さの0.5倍程度、最大変位量は平均変位量の2倍程度であることを確認した。また、これらの実測された断層変位の分布形を近似的に説明するasymmetric sin型の関数を提案した。
今後は、asymmetric sin型の関数が縦ずれ断層に適用可能かどうかの検討や、変位量分布の形状が複雑なケースのモデル化が課題である。