[S15P-06] Nature of slip rates under the influence of the dynamic interaction between rupture process and sedimentary layers
震源断層の近傍における地震観測点では，長周期のパルス性地震動が観測されることがある．このような地震動は大規模な土木構造物や高層建築に大きな被害をもたらす可能性がある．そのため，長周期のパルス性地震動の生成メカニズムを解明することは地震工学における重要な課題である．長周期のパルス性地震動の観測事例の中で，2016年熊本地震や2022年台湾東部の地震のように，地表地震断層が現れた地震において断層平行方向に観測された事例に着目する．2016年熊本地震の事例では，Kaneko and Goto(2022)により，地震波動場が地表の存在と堆積層の存在により影響を受け，この地震波動場と断層破壊とが相互作用することで長周期のパルス性地震動が生じた可能性が指摘されている．加えて，断層破壊と地表や地盤構造との相互作用は，熊本地震に限らない一般的な事象である可能性を指摘している．断層の破壊過程に対する自由表面の効果については多くの研究が行われている（Wada and Goto(2012), Yin and Denolle (2021)）一方で，堆積層による影響は十分には解明されていない．よって本研究では地表地震断層が現れるような横ずれ断層型の地震を対象として断層破壊シミュレーションを行い，堆積層の有無による断層破壊過程の違いやそのメカニズムを考察する．
2層の水平成層構造を仮定した堆積層を含むモデルと，半無限均質媒質を仮定した堆積層を含まないモデルとで動力学震源モデルにより生成される断層の破壊過程を比較した．なお，地震発生層を仮定した3 km以深のみに応力降下量を与え，深さ0-3 kmでの応力降下量は0とした．いずれも地震発生層における破壊に引きずられるように地表付近へと破壊が伝播している様子が解析されており，断層の全体的なすべり分布や破壊フロントの伝播性状は堆積層の有無によりほぼ変わらない．断層中央の地表における滑り速度を比較すると，堆積層を考慮した場合は堆積層を考慮しない場合に比べて地表付近の滑り速度のτh（ピーク値の1/2に達してから1/2に戻るまでの時間）が長く，τr（破壊時からすべり速度が0となるまでの時間）が短い傾向が認められた．堆積層のパラメータと滑り速度形状の関係について検討するために，堆積層厚を500 m, 1000 m, ~ 2500 m，堆積層のS波速度を1500 m，2000 m，2500 mと変化させた15ケースから得られた結果を整理した．τhはばらつきがあるものの，S波速度毎にほぼ一定値で与えられる．τrはS波速度1500 m/sの多くの場合と2000 m/sの約半数の場合で2H/Vsで説明できる．すなわち，τhは堆積層のS波速度，τrは堆積層と基盤の境界面で生じる反射波の走時に関係している可能性が考えられる．特に堆積層と基盤のインピーダンス比が大きい場合には，反射波の到達走時とτrが非常に良い対応を示した．本研究では地表付近の滑り速度を用いて堆積層の影響を検討したが，同様に断層近傍の地震動についても議論を進めたい．
参考文献
Kaneko and Goto (2022). The origin of large, long-period near-fault ground velocities during surface-breaking strike-slip earthquakes, GRL, 49(10), e2022GL098029.
Wada and Goto (2012). Generation Mechanism of Surface and Buried Faults: Effect of Plasticity in a Shallow-Crust Structure. BSSA, 102(4), 1712-1728.
Yin and Denolle (2021). The Earth's Surface Controls the Depth-Dependent Seismic Radiation of Megathrust Earthquakes. AGU Advances, 2(3), e2021AV000413.
2層の水平成層構造を仮定した堆積層を含むモデルと，半無限均質媒質を仮定した堆積層を含まないモデルとで動力学震源モデルにより生成される断層の破壊過程を比較した．なお，地震発生層を仮定した3 km以深のみに応力降下量を与え，深さ0-3 kmでの応力降下量は0とした．いずれも地震発生層における破壊に引きずられるように地表付近へと破壊が伝播している様子が解析されており，断層の全体的なすべり分布や破壊フロントの伝播性状は堆積層の有無によりほぼ変わらない．断層中央の地表における滑り速度を比較すると，堆積層を考慮した場合は堆積層を考慮しない場合に比べて地表付近の滑り速度のτh（ピーク値の1/2に達してから1/2に戻るまでの時間）が長く，τr（破壊時からすべり速度が0となるまでの時間）が短い傾向が認められた．堆積層のパラメータと滑り速度形状の関係について検討するために，堆積層厚を500 m, 1000 m, ~ 2500 m，堆積層のS波速度を1500 m，2000 m，2500 mと変化させた15ケースから得られた結果を整理した．τhはばらつきがあるものの，S波速度毎にほぼ一定値で与えられる．τrはS波速度1500 m/sの多くの場合と2000 m/sの約半数の場合で2H/Vsで説明できる．すなわち，τhは堆積層のS波速度，τrは堆積層と基盤の境界面で生じる反射波の走時に関係している可能性が考えられる．特に堆積層と基盤のインピーダンス比が大きい場合には，反射波の到達走時とτrが非常に良い対応を示した．本研究では地表付近の滑り速度を用いて堆積層の影響を検討したが，同様に断層近傍の地震動についても議論を進めたい．
参考文献
Kaneko and Goto (2022). The origin of large, long-period near-fault ground velocities during surface-breaking strike-slip earthquakes, GRL, 49(10), e2022GL098029.
Wada and Goto (2012). Generation Mechanism of Surface and Buried Faults: Effect of Plasticity in a Shallow-Crust Structure. BSSA, 102(4), 1712-1728.
Yin and Denolle (2021). The Earth's Surface Controls the Depth-Dependent Seismic Radiation of Megathrust Earthquakes. AGU Advances, 2(3), e2021AV000413.