[S15P-13] Validation of site-specific seismic motions generated by combining cGAN and GIT
1.はじめに
現行の地震動評価において,周期1秒程度以上の長周期成分は三次元差分法などの決定論的な波動伝播シミュレーションで求め,1秒程度以下の短周期成分は統計的手法で求め,両者をハイブリッドする手法が多く取り入れられている(例えば,SCEC BBP)。一方,近年の機械学習技術の発達と強震観測記録の充実により,全く別のアプローチから地震動の時刻歴波形の生成が可能となっている(例えば,Florez et al., 2022; Esfahani et al., 2022)。著者らは,Conditional Generative Adversarial Networks (cGAN) とGeneralized Inversion Technique (GIT) を組合せ,振幅特性と経時特性にある確率分布をもった時刻歴波形群を出力する手法(山口・他,2022)を提案しており,本検討では提案手法により出力した地震動と観測記録との比較からValidationを行った結果について報告する。
2.観測記録を用いたValidation
cGANによる経時特性モデルの構築は,収集した45,145記録のうちランダムに抽出した約78%の35,415記録を学習用のデータとし,残りの10,000記録を検証用データとしている。この10,000記録に対して,提案手法により観測記録ごとに10波の波形群を生成し周波数特性と経時特性の比較を行った。例として,2016年4月27日の宮城県沖の地震Mw 5.0における震源距離55.9 kmのMYG011観測点での観測記録と本手法により生成した10波の比較を図1~図5に示す。出力波形群は,P波とS波とコーダ波が再現されており,加速度波形の全パワーで正規化された累積パワー曲線(Husidプロット)の観測と計算との対応もよい。フィッティング範囲とした1~10 Hzでのフーリエ振幅スペクトルは,観測と整合した結果が得られている。
次に,10,000記録を対象に上記と同様に提案手法により時刻歴波形群を出力し,その残差(提案手法による10波の平均フーリエ振幅スペクトル/観測記録のフーリエ振幅スペクトル)の平均を図6に示す。1 Hzよりも高周波数側では,平均的には概ね残差が1倍となっている。フィッティングの対象外ではあるが1 Hzよりも低周波数側では過大評価となっている。この原因とし,マグニチュードが大きく低周波数側までシグナルのある観測記録が学習データにそれほど含まれていないため,出力された基準化時刻歴波形に低周波数側の情報が含まれていないことが考えられる。 波形の継続時間を表す指標としてD5-95に着目し,観測記録と本検討の出力結果の比較を図7に示す。平均的に見れば,残差(提案手法による10波のD5-95の中央値/観測記録のD5-95)の平均はμ = 1.07と概ね整合し,標準偏差σ = 0.352となった。D5-95は多数の経験式が提案されており,経験式作成時の残差の標準偏差は,Bommer et al. (2009) はσ = 0.475,Kempton and Stewart (2006) はσ = 0.440,能島 (2015) はσ = 0.401であるので,本検討のσは十分に小さい値となっている。振幅特性と経時特性の両方に観測点ごとの経験的情報を考慮したSite-specific地震動を出力しているためと考えられる。
3.課題と今後の展望
あるマグニチュード,距離,観測点での時刻歴波形群を出力することができることを示し,観測記録を用いた定量的な検証からこの手法の有効性が示された。本検討ではプレート間地震のみを対象としているが,その他の地震タイプへの拡張や,震源深さもパラメータに入れるなどのモデルの改良が今後必要と考えられる。提案手法により大規模地震を直接予測することは現時点では課題があると考えているが,山口・他(2023,本大会)のように波形合成手法と組み合わせることによって,大規模地震の予測は可能と考えている。
謝辞
防災科学技術研究所K-NET,KiK-netの観測記録とF-netのメカニズム解を活用させていただきました。記して感謝します。
現行の地震動評価において,周期1秒程度以上の長周期成分は三次元差分法などの決定論的な波動伝播シミュレーションで求め,1秒程度以下の短周期成分は統計的手法で求め,両者をハイブリッドする手法が多く取り入れられている(例えば,SCEC BBP)。一方,近年の機械学習技術の発達と強震観測記録の充実により,全く別のアプローチから地震動の時刻歴波形の生成が可能となっている(例えば,Florez et al., 2022; Esfahani et al., 2022)。著者らは,Conditional Generative Adversarial Networks (cGAN) とGeneralized Inversion Technique (GIT) を組合せ,振幅特性と経時特性にある確率分布をもった時刻歴波形群を出力する手法(山口・他,2022)を提案しており,本検討では提案手法により出力した地震動と観測記録との比較からValidationを行った結果について報告する。
2.観測記録を用いたValidation
cGANによる経時特性モデルの構築は,収集した45,145記録のうちランダムに抽出した約78%の35,415記録を学習用のデータとし,残りの10,000記録を検証用データとしている。この10,000記録に対して,提案手法により観測記録ごとに10波の波形群を生成し周波数特性と経時特性の比較を行った。例として,2016年4月27日の宮城県沖の地震Mw 5.0における震源距離55.9 kmのMYG011観測点での観測記録と本手法により生成した10波の比較を図1~図5に示す。出力波形群は,P波とS波とコーダ波が再現されており,加速度波形の全パワーで正規化された累積パワー曲線(Husidプロット)の観測と計算との対応もよい。フィッティング範囲とした1~10 Hzでのフーリエ振幅スペクトルは,観測と整合した結果が得られている。
次に,10,000記録を対象に上記と同様に提案手法により時刻歴波形群を出力し,その残差(提案手法による10波の平均フーリエ振幅スペクトル/観測記録のフーリエ振幅スペクトル)の平均を図6に示す。1 Hzよりも高周波数側では,平均的には概ね残差が1倍となっている。フィッティングの対象外ではあるが1 Hzよりも低周波数側では過大評価となっている。この原因とし,マグニチュードが大きく低周波数側までシグナルのある観測記録が学習データにそれほど含まれていないため,出力された基準化時刻歴波形に低周波数側の情報が含まれていないことが考えられる。 波形の継続時間を表す指標としてD5-95に着目し,観測記録と本検討の出力結果の比較を図7に示す。平均的に見れば,残差(提案手法による10波のD5-95の中央値/観測記録のD5-95)の平均はμ = 1.07と概ね整合し,標準偏差σ = 0.352となった。D5-95は多数の経験式が提案されており,経験式作成時の残差の標準偏差は,Bommer et al. (2009) はσ = 0.475,Kempton and Stewart (2006) はσ = 0.440,能島 (2015) はσ = 0.401であるので,本検討のσは十分に小さい値となっている。振幅特性と経時特性の両方に観測点ごとの経験的情報を考慮したSite-specific地震動を出力しているためと考えられる。
3.課題と今後の展望
あるマグニチュード,距離,観測点での時刻歴波形群を出力することができることを示し,観測記録を用いた定量的な検証からこの手法の有効性が示された。本検討ではプレート間地震のみを対象としているが,その他の地震タイプへの拡張や,震源深さもパラメータに入れるなどのモデルの改良が今後必要と考えられる。提案手法により大規模地震を直接予測することは現時点では課題があると考えているが,山口・他(2023,本大会)のように波形合成手法と組み合わせることによって,大規模地震の予測は可能と考えている。
謝辞
防災科学技術研究所K-NET,KiK-netの観測記録とF-netのメカニズム解を活用させていただきました。記して感謝します。