4:00 PM - 4:15 PM
[S16-01] Peak-frequency map of horizontal-to-vertical spectral ratios in the Kanto region: Addition of content to the Urban Geological Map
産業技術総合研究所(産総研)地質調査総合センターは,経済産業省の知的基盤整備計画に基づき,3次元(3D)地質地盤図を整備している.3D地質地盤図は,従来の平面の地質図では表現が難しかった都市部の地下の地質構造を,大量のボーリングデータを利用した3Dモデリングによって立体的に可視化したものである.地下数10 mまでの地質構造を立体図や任意の箇所の地質断面図として表示できる機能を有する.地震防災・減災やインフラ整備,地質汚染対策への利活用を見込み,産総研のウェブサイト「都市域の地質地盤図」https://gbank.gsj.jp/urbangeol/で誰もが無償で閲覧可能となっている.
3D地質地盤図構築のプロジェクトは2011年東北地方太平洋沖地震をきっかけとして着手され,2018年に首都圏のモデル地域としてまず千葉県北部地域(柏~成田~船橋~千葉近辺),2021年に東京都区部が公開された.今後は対象地域を拡大し,最終的には首都圏主要部を覆う予定である.
一方,防災科学技術研究所(防災科研)は,ほぼ同時期に関東地域のリアルタイム地震被害推定用の地盤モデルを構築した(藤原他,2019).その際,膨大な量の常時微動観測が行われ,その結果は地盤モデルの基礎データの1つとされた.具体的には,関東地域の平野部で面的にほぼ5 km間隔(半径数十〜400 mの大アレイ)あるいは首都圏でほぼ1 km郊外で2 km間隔(半径0.6〜10 mの極小アレイ)で微動アレイ観測が実施された.
我々は,上述の微動データと産総研独自の微動データを基礎として,H/Vスペクトルのピーク周波数を評価し,3D地質地盤図のコンテンツとすることを計画している.H/Vスペクトルのピーク周波数は地盤の卓越周期として把握され,耐震設計のための地盤種別判定,地震災害軽減のための地震ゾーニングあるいは地震動増幅特性の評価にも用いられている.地質構造と地盤構造そして地盤震動特性は互いに密接に関連するので,我々は,H/Vスペクトルのピーク周波数マップを作成して3D地質地盤図と比較できる環境を構築し,誰でも自由に閲覧できる仕組みを提供するという立場で,地震防災・減災意識の啓発や地盤モデルの高度化に寄与することを目指している.
本発表ではまず3D地質地盤図について説明する.次に,微動のH/Vスペクトルのピーク周波数を決めるためのピークの同定手順を説明する.最後に,ピーク周波数の空間分布をシームレスマップ化し,地形・地質との対応を例示する.
例えば,一般的に期待される通り,大河川の河口付近の低地では,ピーク周波数が低い一方,その周辺の台地では周波数が高い傾向があることが分かる.東京都区部を例にとると,3D地質地盤図では沖積層の基底に相当する埋没地形(埋没谷底,埋没平坦面1〜4)が詳細に描き出されている.これとH/Vスペクトルのピーク周波数マップを対応させると,沖積層が厚く分布する湾岸域の埋没谷軸部の周辺ではピーク周波数が低く1 Hz以下となることが分かる.
武蔵野台地においては,3D地質地盤図では,従来「東京層」と一括りにされていた地層が堆積サイクルに基づき3層(下位より薮層,上泉層,東京層)に区分された.このうち薮層,上泉層の海成砂層が分布するところではピーク周波数は5 Hz以上となることが多いことが分かる.3D地質地盤図には台地下でも谷状に軟弱泥層(東京層下部)が分布する領域があることが示されているが,この谷埋め泥層の分布域の一部は1 Hz程度の低周波数領域に対応することが分かる.また,台地内の所々にピーク周波数が低いところがあり,それらの一部は谷底低地に対応することなども確認できる.
その他,埼玉県東部の旧利根川の流路沿いの中川低地に1Hzあるいはそれ以下の明瞭な低周波数領域が南北に連続する一方,江戸時代以降の治水工事で流路変更した現在の利根川沿いには低周波数の卓越が目立たないことなども分かる.むしろ旧鬼怒川の流路である現在の小貝川低地(茨城県つくばみらい市〜竜ヶ崎市〜河内町付近)で明瞭な低周波数領域が観察される.また,西方では,多摩川の河口付近から上流側に遡るにつれて河川沿いに堅固な地盤となりむしろ周辺の台地よりもピーク周波数が高くなる傾向が現れることが分かる.
以上のように,3D地質地盤図にH/Vスペクトルの情報を追加することで,多くの興味深い事実が一見して明らかとなっている.地形・地質と地盤震動特性との関係が「見える化」され,専門家,研究者の詳細かつ定量的な分析に寄与することはもちろんのこと,一般のユーザーにとっても防災教育・啓発的な意味合いで寄与できるようになると期待する.
藤原他:全国を概観するリアルタイム地震被害推定・状況把握システムの開発,防災科学技術研究所研究資料,第432号,65p, 2019.
3D地質地盤図構築のプロジェクトは2011年東北地方太平洋沖地震をきっかけとして着手され,2018年に首都圏のモデル地域としてまず千葉県北部地域(柏~成田~船橋~千葉近辺),2021年に東京都区部が公開された.今後は対象地域を拡大し,最終的には首都圏主要部を覆う予定である.
一方,防災科学技術研究所(防災科研)は,ほぼ同時期に関東地域のリアルタイム地震被害推定用の地盤モデルを構築した(藤原他,2019).その際,膨大な量の常時微動観測が行われ,その結果は地盤モデルの基礎データの1つとされた.具体的には,関東地域の平野部で面的にほぼ5 km間隔(半径数十〜400 mの大アレイ)あるいは首都圏でほぼ1 km郊外で2 km間隔(半径0.6〜10 mの極小アレイ)で微動アレイ観測が実施された.
我々は,上述の微動データと産総研独自の微動データを基礎として,H/Vスペクトルのピーク周波数を評価し,3D地質地盤図のコンテンツとすることを計画している.H/Vスペクトルのピーク周波数は地盤の卓越周期として把握され,耐震設計のための地盤種別判定,地震災害軽減のための地震ゾーニングあるいは地震動増幅特性の評価にも用いられている.地質構造と地盤構造そして地盤震動特性は互いに密接に関連するので,我々は,H/Vスペクトルのピーク周波数マップを作成して3D地質地盤図と比較できる環境を構築し,誰でも自由に閲覧できる仕組みを提供するという立場で,地震防災・減災意識の啓発や地盤モデルの高度化に寄与することを目指している.
本発表ではまず3D地質地盤図について説明する.次に,微動のH/Vスペクトルのピーク周波数を決めるためのピークの同定手順を説明する.最後に,ピーク周波数の空間分布をシームレスマップ化し,地形・地質との対応を例示する.
例えば,一般的に期待される通り,大河川の河口付近の低地では,ピーク周波数が低い一方,その周辺の台地では周波数が高い傾向があることが分かる.東京都区部を例にとると,3D地質地盤図では沖積層の基底に相当する埋没地形(埋没谷底,埋没平坦面1〜4)が詳細に描き出されている.これとH/Vスペクトルのピーク周波数マップを対応させると,沖積層が厚く分布する湾岸域の埋没谷軸部の周辺ではピーク周波数が低く1 Hz以下となることが分かる.
武蔵野台地においては,3D地質地盤図では,従来「東京層」と一括りにされていた地層が堆積サイクルに基づき3層(下位より薮層,上泉層,東京層)に区分された.このうち薮層,上泉層の海成砂層が分布するところではピーク周波数は5 Hz以上となることが多いことが分かる.3D地質地盤図には台地下でも谷状に軟弱泥層(東京層下部)が分布する領域があることが示されているが,この谷埋め泥層の分布域の一部は1 Hz程度の低周波数領域に対応することが分かる.また,台地内の所々にピーク周波数が低いところがあり,それらの一部は谷底低地に対応することなども確認できる.
その他,埼玉県東部の旧利根川の流路沿いの中川低地に1Hzあるいはそれ以下の明瞭な低周波数領域が南北に連続する一方,江戸時代以降の治水工事で流路変更した現在の利根川沿いには低周波数の卓越が目立たないことなども分かる.むしろ旧鬼怒川の流路である現在の小貝川低地(茨城県つくばみらい市〜竜ヶ崎市〜河内町付近)で明瞭な低周波数領域が観察される.また,西方では,多摩川の河口付近から上流側に遡るにつれて河川沿いに堅固な地盤となりむしろ周辺の台地よりもピーク周波数が高くなる傾向が現れることが分かる.
以上のように,3D地質地盤図にH/Vスペクトルの情報を追加することで,多くの興味深い事実が一見して明らかとなっている.地形・地質と地盤震動特性との関係が「見える化」され,専門家,研究者の詳細かつ定量的な分析に寄与することはもちろんのこと,一般のユーザーにとっても防災教育・啓発的な意味合いで寄与できるようになると期待する.
藤原他:全国を概観するリアルタイム地震被害推定・状況把握システムの開発,防災科学技術研究所研究資料,第432号,65p, 2019.