The 2023 SSJ Fall Meeting

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Poster session (Sep. 16th)

Regular session » S16. Subsurface structure and its effect on ground motion

[S16P] PM-P

Tue. Oct 31, 2023 5:00 PM - 6:30 PM Room P3 (F205 and 6 side foyer) (Hall Annex)

[S16P-06] Examination of two-dimensional optimal S-wave velocity structure model for the KiK-net site of Kamaishi

*Kentaro KASAMATSU1, Takashi Nozawa1, Tetsushi Watanabe2 (1. Kajima Corporation, 2. Kobori Research Complex Inc.)

1.はじめに
 表層地盤の影響を除去するはぎとり解析では,解析に用いる地盤モデルが重要となる。地盤モデルは,一般に,鉛直アレー地震観測記録を用いて測点間の観測伝達関数を算定し,鉛直入射の1次元波動論を仮定した最適化解析に基づいて評価される。しかし,全てのサイトで1次元解析が適用可能とは限らない。観測記録を十分に再現できないサイトは一定数存在し,その要因の一つとして,地盤構造の不整形性の影響が考えられる。本研究では,2次元解析に基づいて最適化地盤モデルを評価する手法について検討し,その手法を地盤構造の不整形性の影響が顕著なKiK-net釜石(以下,IWTH23)に適用した結果を報告する。

2.2次元地盤モデルの構築方法
 SH波動場を対象とした2次元差分法に基づいて,鉛直平面波入射の地盤応答解析を繰り返し行い,観測伝達関数を最も良く再現する2次元S波速度構造モデルを構築する。S波速度(以下,Vs)はIWTH23のPS検層結果で固定し,速度境界の最適な2次元分布を逆解析で同定する。 IWTH23を中心に数十mの間隔で,5つの速度境界深度のコントロールポイントを設けて,各ポイントの最適な深度をグリッドサーチで探索する。ポイント間の境界深度は,スプライン関数で補間する。IWTH23の地中地震計はGL—103 mに設置されており,この深度以浅のS波速度構造は,地表よりVs=0.37, 0.6, 1.71, 2.2 km/sの4層(以下,No. 1~4層)で構成される。本研究では,不整形の影響が顕著と考えられる周波数15~17 Hzに着目し,この周波数の地震動特性に対して感度の高いNo. 1~2の2層の下面深度の分布を同定する。減衰定数は,No. 1~2層に対しては0.5*f**—1,No. 3~4層に対しては0.25*f**—1を仮定する。 差分法による順計算は,格子間隔を水平0.5 m,上下1 mとして行う。Δ=N15~45 deg.Eの地震のうち,比較的SN比が大きい50地震の観測記録から求めた平均伝達関数を逆解析の対象とする。周波数2~25 Hzを対象に,観測と計算による振幅比と位相の一致度を評価する。

3.観測伝達関数
 IWTH23は,旧・釜石市立小川小学校の敷地内に設置されている。北上高地の谷底に位置しており,IWTH23の南にはこの河谷を形成したと考えられる小川川が分布する。IWTH23の地震観測記録を用いて評価した平均伝達関数(GL/GL—103 m)を図(a)に黒色で示す。この観測伝達関数を用いて,従来法として1次元解析で地盤モデル最適化を検討した理論伝達関数を水色と青色で示す。PS検層によるS波速度構造に基づき,水色ではNo. 1~4層の減衰定数のみを,青色ではこれに加えてNo. 1~2層のS波速度を同定した。どちらの1次元解析でも,観測の周波数15~17 Hz付近に見られる特徴的なピークを再現できない。また,20 Hz付近の位相の再現にも限界がある。 IWTH23で得られている地表最大加速度100 Gal未満の計1964地震の観測記録を用いて,記録ごとにTransverse成分の伝達関数を算定し,それぞれについて15~17 Hz平均の振幅比を求めた。その振幅比を震央方位Δに対する分布として図(b)に示す。振幅比は,Δ=N30 deg.EとN210 deg.Eの地震で大きく,これらに直交するΔの地震で小さい。これらの4震動方向では,2次元解析で観測伝達関数を再現できると仮定し,ここではN30 deg.E方向の2次元地盤モデルを評価する。

4.2次元地盤モデルの評価結果
 2次元S波速度構造モデルの評価結果を図(c)に示す。約20000ケースの順計算を行い,誤差が最小となった解を実線で,その最小誤差から誤差10 %以内の解を点線で記している。逆解析にKiK-net 1地点の伝達関数しか用いておらず,解が一意に収束しない可能性が考えられたが,顕著な解のトレードオフは見られない。No. 1層は,IWTH23からN210 deg.E方向に向かい緩やかに厚くなり,小川川が分布する地点C付近で最も厚くなる。No. 2層は,地点Bを境に,地点AとCに向かい厚くなるモデルが得られた。 観測伝達関数の再現結果を図(d)に赤色で示す。1次元解析では再現が困難であった周波数15~17 Hzのピークは,地盤構造の2次元性を考慮することで再現される。20 Hz前後の位相も良く再現される結果が得られた。 推定結果の妥当性検証のために,図(c)の地点A, B, Cで微動観測を実施した。観測結果から求めた水平上下スペクトル比を,各地点直下の1次元構造から求めたレイリー波基本モードの楕円率と比較したところ,いずれの地点においても,ピークを形成する周波数は,概ね調和的であることを確認した。

5.おわりに
 KiK-net釜石を対象に2次元地盤モデル最適化を検討し,従来の1次元解析よりも観測伝達関数を良く再現する地盤モデルを構築できることを示した。S波速度の揺らぎの考慮などが今後の課題と考えられる。