[S17P-03] 沖合観測網と津波干渉法を利用したリアルタイム津波予測の適用性
2011年以降,日本列島太平洋沖にはDONETやS-netなどの稠密な沖合海底観測網が敷設され,現在ではリアルタイムで沖合に設置された地震計や水圧計による観測が実現している.この沖合観測データを利用した津波予測技術について研究開発は進められているが,リアルタイム観測網と津波干渉法を結びつけた検討は皆無であった.本研究では,DONET海域から和歌山県沿岸において,沖合観測網と津波干渉法を利用したリアルタイム津波予測の可能性について検討を行った. 本研究の検討対象地域はDONET1の設置海域とし,沿岸は和歌山県東牟婁郡那智勝浦町の浦神とした.沖合観測網は熊野灘沖のおおよそ水深2000~4000 mに設置されているDONET1の水圧データを利用した.浦神の沖合水深90 m地点にメモリー型水圧計を設置し,2020年12月1日から2021年11月30日までの1年間の連続水圧観測を行った.沿岸データは浦神湾奥に設置されている気象庁の検潮データを利用した.各観測点の水圧および潮位観測データに対し2-128 min のバンドパスフィルタ処理を行うことで潮汐成分を除去し,1 min間隔にデシメーション処理と振幅の2値化処理を行った.前処理を行った波形データを用いてグリーン関数を構築した.グリーン関数の構築は,ノイズ成分を対象とした相互相関処理(時間窓128 min,ラグタイム幅を1 min)を行い,各観測点間における相互相関関数を観測期間において重合処理することでグリーン関数とした. 津波干渉法による津波予測の妥当性について,2022年1月15日に発生したトンガ諸島付近のフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ海底火山によって発生した気圧波に励起された津波を利用した.津波干渉法によるグリーン関数を用いて構築した合成波形と観測波形の比較から,長周期成分の位相はおおむね一致する結果が得られた.また, 津波の到達から終息までの振幅値のトレンドを概ね再現できることがわかった.一方で,浦神湾内で励起される副振動に起因した周期成分など,観測点間を伝播する過程で励起される成分の再現は困難であることがわかった.他のイベント波形を利用したさらなる検証は必要であるが,1年間の連続観測データを用いた波動干渉法によるグリーン関数と沖合観測データにより,津波予測に資する合成波形構築の可能性を示すことができた.