[S17P-05] Reexamination of the Initial Tsunami Source Model of the Meio Tokai Earthquake
南海トラフ巨大地震は南海トラフ沈み込み帯沿いで発生頻度が100~150年とばらつきのある海溝型地震である.1498年明応東海地震はその一つであり,この地震に伴う津波は静岡県沿岸部を中心に甚大な被害を及ぼした.これまで安中ほか(2003)や阿部(2017)による津波波源モデルの推定やKitamura et al. (2020)により海底地すべりが津波を励起した可能性が示唆されているが,昭和東南海・南海地震や安政東海・南海地震,宝永地震に比べて津波痕跡が少なく,波源推定にはさらなる検証の余地がある.そこで本研究では,津波痕跡データベース(東北大学・原子力安全基盤機構)に格納された津波痕跡を基に明応東海地震の津波波源モデルを再検討した. まず津波の初期波源推定にあたって,津波痕跡データベースに格納された痕跡信頼度B~Dの64点を利用した.このうち同一の集落で計測された痕跡点は平均と標準偏差を取り,21地点に集約した.浜名湖口の今切の地形は明応東海地震に伴う地殻変動によって湖と海の間が切れたことで生じたとする文献記録が多く存在している(例えば都司,1979).同様に,磐田市太田川低地では明応東海地震で隆起したと考えられている(松多ほか,2015).これらを地殻変動痕跡として,今切では沈降,太田川低地では隆起として拘束条件に加えた. これらの痕跡点を説明する各小断層のすべり量は誤差ノルムが最小となるようにSA(Kirkpatrick et al., 1983;SCIENCE)を用いて推定した.本地震は文献信頼度が全体的に低いことに加えて,津波痕跡高には観測誤差や本地震以外のものが含まれる可能性がある.そこで本解析では,この誤差を±10%程度と仮定して一様乱数により与え,1000回試行のアンサンブル平均処理を行い,各小断層のすべり量を評価した. 次に,南海トラフ全域50mメッシュの海底地形データ(Chikasada, 2020;NIED),国土地理院の数値標高モデル(5mメッシュ)や日本水路協会の海底標高デジタルデータ(およそ50 mメッシュ)を組み合わせた高分解能数値標高モデルと高性能津波計算コード(JAGURS; Baba et al., 2015;Ocean Model)を用意して,推定波源を基に津波伝播・浸水の数値シミュレーションを実行した.津波痕跡高を計算するにあたって海岸構造物の除去を除いて沿岸地形の復元は行っていない. 推定された波源断層のすべり量分布を図 1に示す.本モデルの地震規模はMw 8.6となった.津波痕跡高と計算津波高の整合度を示す相田(1978)の幾何平均は1.13,幾何標準偏差は1.60となり,津波痕跡高の分布を一部再現できたが,伊勢湾内(津:痕跡信頼度D,松阪:痕跡信頼度C~D)の津波遡上高を説明することはできなかった.地殻変動については今切で沈降(おおよそ1.5 m),太田川低地で隆起(おおよそ3 m)を示し,定量的な情報ではないが文献記録と整合する結果となった. 湖西市白須賀(Komatsubara et al., 2008)や磐田市太田川低地(Fujiwara et al., 2020;松多ほか,2015),焼津市浜当目(Kitamura et al., 2020)では明応東海地震に相当する津波堆積物や地殻変動の痕跡が見つかっているものの,伊豆半島西岸ではこれまで津波堆積物や地殻変動の痕跡を確認できていない.この地域で明応東海地震の痕跡が見つかればより現実に近い津波波源モデルを提案することができるだろう. 謝辞:本研究は R2-6年度文部科学省「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 小平秀一)の一環として行われました.