[S17P-06] 南部千島海溝沿いのアウターライズ断層のモデル化と津波予測
南部千島海溝沿いの択捉島沖から根室沖ではプレート間巨大地震の発生が危惧されている.地震調査研究推進本部によれば,色丹島及び択捉島沖ではM7.7~8.5前後の地震が今後30年以内の地震発生確率で60%程度,根室沖ではM7.8~8.5程度の地震が70%程度と想定されている.1896年明治三陸地震と1933年昭和三陸地震のように,プレート間巨大地震の後には海溝軸外側での正断層地震(アウターライズ地震)が発生することがある.千島海溝の海溝軸外側の地震の発生確率は不明と評価されていることからもわかるように,一般にアウターライズ地震の調査はプレート間地震の調査に比較して十分ではない.これを解決するために,我々は北海道沖のアウターライズ地震の調査を精力的に実施している.本研究では海域調査に基づいて構築した23本の断層モデルと,それを用いた津波予測計算について報告する.高分解能海底地形調査,マルチチャンネル法地殻構造調査,自然地震観測から,本海域でのアウターライズ断層の傾斜角は45–75°,走向は海溝軸に対してわずかに斜交していることが分かった.地震発生層の厚さの推定は難しいが,深さ25km程度までは正断層型の震源メカニズム解をもつ地震が観測期間内に発生している.モデル化したアウターライズ断層の断層長は最大で約260kmで,これはM8.4の地震を起こす規模に相当する.津波予測においては,高角で断層幅の短いアウターライズ断層であるため,波長の短い津波が励起される.このため,通常の津波予測で用いられる長波モデルではなく,分散波モデルあるいは三次元モデル(オイラーの式)を利用する必要があると考えられた.津波発生後15分まででこの3つのモデルを比較したところ,予想通り,長波モデルと分散波モデルあるいは三次元モデルでは得られる津波波形が異なり,後者2つのモデルでは津波の分散性が強くみられた.なお,分散波モデルと三次元モデルの解はほぼ一致した.分散波モデルを用いた津波発生後6時間の長時間津波計算から,アウターライズ地震による津波はプレート境界型地震と比較してより沖合で発生するために,海底地形による波の回折や屈折を受けやすいことが分かった.より具体的に言えば,襟裳岬に向かって津波エネルギーが集中しやすい傾向にある.津波の卓越周期と湾の固有周期が一致すると副振動により津波の振幅が増大することがあるが,海岸での計算津波波形から求めた卓越周期は10–15分程度で,プレート境界型の津波と比較して明らかに短かった.