[S17P-08] Coastal boulder mapping based on deep learning, and boulder transport simulation: case study at Ilocos Norte, Luzon Island, Philippines
1. はじめに 海岸に分布する巨礫は、その大きさから運搬に大きなエネルギーが必要となる。そのため、通常の波浪では運搬されない大きさの巨礫は、過去に発生した津波や低頻度の高潮・高波などのExtreme wave event(EWE)を記録しているものとして研究が進められてきた(e.g., Goto et al., 2010; Minamidate et al., 2020; Namegaya et al., 2022)。特に巨礫の大きさと分布(海岸線からの距離)は、EWEの規模や巨礫の運搬過程を理解するためには重要な指標と言える。近年では、衛星画像やUAVを使用して巨礫のマッピングやサイズ計測が可能となっている(e.g., Boesel et al., 2020)。一般的に、海岸に分布する海岸巨礫を網羅的にマッピング・計測するためには膨大な時間と労力が必要とされ、特に海外などの調査期間が限られる場合には広域でのマッピング・計測は困難となる。そこで、本研究では、UAVによって撮影された画像に対して深層学習を適用することにより自動的な巨礫のマッピングを行い、UAV画像を用いたDSM(Digital Surface Model)データを用いて体積を計算した。これらを用いて、地震による津波を想定した礫移動計算を試みた。本発表では、その予察的な結果を報告する。このようなUAVと機械学習を用いたアプローチは今後の海岸巨礫マッピングの試金石となると思われ、本発表を通じてその利点や課題の整理も行う。 2. 研究地域 研究対象地域は、フィリピンのルソン島北西部に位置するイロコスノルテの海岸である。ルソン島北西部では、完新世の海成段丘が認められており、マニラ海溝もしくはより陸側の海底活断層による地震性隆起の可能性が指摘されている(Ramos et al., 2017)。また対象地域では、一部の巨礫がマッピングされており(Gong et al., 2022)、20〜110トンの巨礫が打ち上がっている。またその中の一部で年代測定が実施されており、最近100年以内という新しい年代が得られている。本研究では、Gong et al. (2022)の調査地域ではベンチの幅が狭く、海岸線からの距離に応じた巨礫の分布を明らかにすることが難しいため、隣接するベンチが広く分布する地域において主にUAV撮影を行った。 3. 研究手法 本研究では,Mavic Air 2(DJI社製)を用いて高度30〜50 mから海岸部の撮影を行った。撮影した画像はMetashape(Agisoft社製)を用いてDSMおよびオルソ画像の作成を行った。深層学習はMeta researchが開発するDetectron2(He et al. 2017)を用いてInstance segmentationを行った。学習データにはオルソ画像の一部を使用した。検出された礫はMatlabを用いて三軸や体積の計測を行い,実測データと比較した。そして、これらの計測結果を数値計算に供した。数値計算では、津波のみを計算し得られた津波水位と流速場の時系列から、Namegaya et al. (2022)の方法で礫に作用する慣性力とけん引力を求め、その合力が水没による浮力を考慮した礫底面の摩擦力を越えるかどうかを調査した。つまり、津波によって礫が滑動するか否かを判定した。 4.結果 作成した学習モデルを用いてオルソ画像のinstance segmentationを行ったところ,ベンチ上の礫の位置・輪郭を検出することができた。輪郭から計算された長・中間軸の長さは現地での実測と良い一致を示した一方で、DSMから測定された短軸の長さは現地での計測結果との違いが大きい傾向にあった。また,DSMから計算した体積は三軸から計算した体積と相関を示した。このことから,機械学習を用いることで直接計測と同程度以上に迅速かつ実態に即した巨礫の計測ができる可能性がある。一方、現段階では、調査範囲内に塩田が入っており、その領域では誤検出が認められた。一部、海岸のベンチ上の巨礫の未検出も認められた。本発表までに学習データの見直し等を行い、礫の検出や体積計算の精度・確度を向上させる予定である。 津波による礫の移動計算から、既往研究で提案されたマニラ海溝もしくはより陸側の海底活断層のモデルでは、十分に礫を動かすことができなかった。本研究で用いた礫の体積の算出法などモデルには改良の余地があるものの、さらに大きな地震による津波が発生していた可能性が示唆される。