[S19P-05] Anomalous seismic ground motion associated with a torrential rainfall event in and around Aomori prefecture, NE Japan, in August 2022
固体地球は断層運動以外にも、大気・海洋と固体地球の相互作用や人間活動などによって絶えず振動している。近年これらの固体地球内部以外に起源を持つ振動を解析する研究や、その振動を通常の地震以外のさまざまな現象のモニタリングに使う研究が進んでいる。そのなかで降水は、地球内部の構造をわずかに変化させる一因になっていることは広く知られているが、降水によって直接地面が揺れた報告は限られており、降水により地震動が励起されるメカニズムはいまだよくわかっていない。 2022年8月8日から9日にかけて北日本に前線が停滞し、青森県と秋田県の周辺で24時間降水量が200 mmを越える集中豪雨が発生した。我々はこの期間に十和田湖西岸の地表で臨時地震観測を行っており(観測点HR.TWD)、降雨が強まると地震波振幅が大きくなり、弱まると小さくなるといった、降水に伴うと思われる異常な地震動を観測した。この記録にはP 波・S 波といった断層運動による明瞭な地震動は見られず、高周波数帯での平均的な振幅の増大がみられた。さらにこの記録を踏まえて集中豪雨時前後の地震波形記録を目視により確認した結果、降水にともなう地震動が、臨時観測点から300 mの距離にあるボアホール孔底に設置されたHi-net小坂観測点(N.KOSH)でも明瞭に観測されていることを見出した。 そこで本研究では、2022年8月1日から8月31日の集中豪雨期間において、上記の十和田湖周辺を含む青森県近傍の8つの地震観測点で、AMeDAS雨量計および秋田県大川岱雨量計の降水量と、その近傍の地震観測点における周波数帯ごとの地震波振幅とを比較した。降水量は、計測間隔が10分である降水量の記録から、40分積算降水量を計算した。地震波振幅は、サンプリング周波数が100 Hzのデータに、0.5-1 Hz、1-2 Hz、2-4 Hz、4-8 Hz、8-16 Hz、16-32 Hzのオクターブ幅の6つの周波数帯のバンドパスフィルタをそれぞれ適用した。その後、降水量の計測サンプリングに合わせて10分毎の地震波振幅の中央値を抽出し、その時間窓における代表値とした。この処理により通常の地震による大振幅の混入を防ぐことができる。その結果、HR.TWDでは、16-32 Hzの周波数帯で地震波振幅が降水量によく対応した。また、N.KOSHでも、HR.TWDと同様の振幅と降水量の対応関係が見られた。これは、雨水が地震計を直接叩くことにより生成した振動でなく、雨水が地震波として地中の地震計に伝播したと考えられる。その他6つのHi-net 観測点では、雨量が多い時間に振幅がそれに応答する観測点(大鰐・岩木)と、応答しない観測点(鯵ヶ沢・八戸・野辺地・大間)があった。また、雨量に呼応した地震波が見られた観測点において、地震波振幅は降雨後に3日から10日ほどかけて緩やかに減衰することが観測された。我々の知る限りこの振幅減衰現象は既往研究にも報告がなく、その原因は未解明である。降雨による地震波の励起メカニズムを明らかにするためには、振幅が降雨に応答しやすい観測点の特徴や、振幅の緩やかな減衰が観測される観測点の特徴、また降雨後の地震波振幅の減衰過程等を調べる必要がある。そのため、今後地震波干渉法や土壌水分量の観測による地下構造の時間変化の推定を行う予定である。