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[S20-03] [招待講演]固体・流体地球を考慮した海底圧力データ解析による地震・津波・火山噴火現象に関する研究
2011年の東北地方太平洋沖地震 (東北地震) では,宮城沖のプレート浅部が大きくすべり,津波が発生し,沿岸に甚大な被害をもたらした.この東北地震でなぜ浅部大すべりが生じたのかを知ることは,海溝型巨大地震の発生の理解には重要である.著者は,海溝型巨大地震と巨大津波の発生を本質的に理解するためには巨大津波を励起しうる沈み込み帯プレート浅部のすべり量は何によって規定されるのか,そしてプレート境界すべりの駆動源となる応力はどのように蓄積するのか,を明らかにすることが重要であると考え,【(1) 固体-流体の波動論を応用した海底の震源直上の観測データの解析手法の開発】を進め,【(2) 直上観測データを用いた東北沖で発生した地震の高精度・高信頼度な震源断層モデリングと東北沖の地震テクトニクスの研究】を進めてきた.加えて,これらの研究で得られた知見を発展させ,【(3) 地震以外の気象・火山噴火現象を要因として生じる津波現象の研究】 (e.g. Kubota et al. 2021a GRL; Kubota et al. 2022 Science) も進めてきた.発表では,主に(1)と(2)の研究で得られた知見や,それらの研究を進めるに至った背景や経緯を紹介したい.
近年,日本周辺の沖合には広域・稠密な海底観測網が展開されるようになり,沈み込み帯の地震テクトニクスの研究が進んでいる.一方で,いくら新しい観測網ができても,2011年東北地震当時の観測記録は増えることはない.著者は,東北地震の当時に展開されていた海底観測データから,いまだ見出されていない情報を引き出すことが重要であると考え,「振り切れない地震計」としての潜在性を持つ海底圧力計に着目した.従来,海底圧力計は,津波 (海洋長波) のような長周期の波や余効変動・スロースリップ等の地殻変動を主な観測対象としていたが,実際は,海底圧力計は短周期な地震波 (水中音響波) も観測している.著者は,固体-流体の波動論 (e.g. Saito, 2019) に基づいた海底圧力記録の解析手法の開発に取り組んで,この短周期圧力変動を地震解析への活用可能性を示してきた.一例として,巨大地震の断層直上の地震動と津波が重畳する海底圧力記録から両者を分離する手法 (Kubota et al. 2021b GRL) や,長周期の津波や地殻変動 (永久変位) から,短周期の津波や地震動成分まで再現できる海底圧力モデリング手法を考案 (Kubota et al. 2017 GRL; 2021c GRL) した.震源直上の海底圧力計の広帯域変動成分をフル活用することにより,津波の利点 (伝播速度が遅く,水平位置の信頼度が高い) と地震波の利点 (時間解像度が高い) をあわせもつ震源過程解析ができるようになる.
開発した手法は,特に,震源直上で得られていたデータの解析への適用性が高いため,より高精度・高信頼度な震源断層モデルの推定が実現可能となり,地震発生の力学の定量的理解へとつなげることが出来る.一例として,2012年に宮城沖のアウターライズ域で2つのM7級プレート内地震が立て続けに発生した地震では,震源域直上に多数設置された海底圧力計データ解析から,2つの地震の震源過程を詳細に分離,それぞれの地震の応力降下量の推定を可能にした.さらに,これらを東北地震による静的な応力変化量と比較することにより,海洋プレート内部の応力と強度状態を明らかにした (Kubota et al. 2019 PEPS).最近では,東北地震時に震源直上に展開された海底圧力計のデータと測地データの統合解析によって断層面上の応力変化分布を高い信頼度で推定し,プレート浅部は応力を解放することなく大すべりを起こしたことを指摘した.これは,浅部大すべりを駆動した歪みエネルギーは,大すべりを起こした浅部ではなく,深部のプレート間の力学的固着領域によって蓄積されていたことを示唆する (Kubota et al. 2022 PEPS).現在は,これら一連の研究をさらに発展させ,より高精度な東北地震の時間・空間発展を求め,浅部大すべりのメカニズムのさらなる理解に向けた研究を進めている.
著者は,上記の一連の研究を通して,海底観測データ (とくに海底圧力データ) の可能性を押し広げることにより,海底地震学の進展に貢献できたと考えている.一方で,観測データの解析研究から高い信頼度で拘束できるのは,地震の運動学的な描像 (「何が起こったか」) であり,地震が「なぜ起こったか」,すなわち地震の駆動源となるエネルギーやその蓄積と解放を支配するレオロジーや摩擦の構成則といった力学的描像を明らかにすることも重要である.これら力学的性質が巨大地震発生にどのように影響するかを理解するべく,一層の研究を進めたい.
近年,日本周辺の沖合には広域・稠密な海底観測網が展開されるようになり,沈み込み帯の地震テクトニクスの研究が進んでいる.一方で,いくら新しい観測網ができても,2011年東北地震当時の観測記録は増えることはない.著者は,東北地震の当時に展開されていた海底観測データから,いまだ見出されていない情報を引き出すことが重要であると考え,「振り切れない地震計」としての潜在性を持つ海底圧力計に着目した.従来,海底圧力計は,津波 (海洋長波) のような長周期の波や余効変動・スロースリップ等の地殻変動を主な観測対象としていたが,実際は,海底圧力計は短周期な地震波 (水中音響波) も観測している.著者は,固体-流体の波動論 (e.g. Saito, 2019) に基づいた海底圧力記録の解析手法の開発に取り組んで,この短周期圧力変動を地震解析への活用可能性を示してきた.一例として,巨大地震の断層直上の地震動と津波が重畳する海底圧力記録から両者を分離する手法 (Kubota et al. 2021b GRL) や,長周期の津波や地殻変動 (永久変位) から,短周期の津波や地震動成分まで再現できる海底圧力モデリング手法を考案 (Kubota et al. 2017 GRL; 2021c GRL) した.震源直上の海底圧力計の広帯域変動成分をフル活用することにより,津波の利点 (伝播速度が遅く,水平位置の信頼度が高い) と地震波の利点 (時間解像度が高い) をあわせもつ震源過程解析ができるようになる.
開発した手法は,特に,震源直上で得られていたデータの解析への適用性が高いため,より高精度・高信頼度な震源断層モデルの推定が実現可能となり,地震発生の力学の定量的理解へとつなげることが出来る.一例として,2012年に宮城沖のアウターライズ域で2つのM7級プレート内地震が立て続けに発生した地震では,震源域直上に多数設置された海底圧力計データ解析から,2つの地震の震源過程を詳細に分離,それぞれの地震の応力降下量の推定を可能にした.さらに,これらを東北地震による静的な応力変化量と比較することにより,海洋プレート内部の応力と強度状態を明らかにした (Kubota et al. 2019 PEPS).最近では,東北地震時に震源直上に展開された海底圧力計のデータと測地データの統合解析によって断層面上の応力変化分布を高い信頼度で推定し,プレート浅部は応力を解放することなく大すべりを起こしたことを指摘した.これは,浅部大すべりを駆動した歪みエネルギーは,大すべりを起こした浅部ではなく,深部のプレート間の力学的固着領域によって蓄積されていたことを示唆する (Kubota et al. 2022 PEPS).現在は,これら一連の研究をさらに発展させ,より高精度な東北地震の時間・空間発展を求め,浅部大すべりのメカニズムのさらなる理解に向けた研究を進めている.
著者は,上記の一連の研究を通して,海底観測データ (とくに海底圧力データ) の可能性を押し広げることにより,海底地震学の進展に貢献できたと考えている.一方で,観測データの解析研究から高い信頼度で拘束できるのは,地震の運動学的な描像 (「何が起こったか」) であり,地震が「なぜ起こったか」,すなわち地震の駆動源となるエネルギーやその蓄積と解放を支配するレオロジーや摩擦の構成則といった力学的描像を明らかにすることも重要である.これら力学的性質が巨大地震発生にどのように影響するかを理解するべく,一層の研究を進めたい.