日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S20. 受賞記念講演

[S20] PM-2

2023年10月31日(火) 15:00 〜 16:38 A会場 (F205+206)

座長:前田 拓人(弘前大学)、西村 卓也(京都大学)

16:18 〜 16:38

[S20-04] [招待講演]地震識別手法の高度化に基づく地震動即時予測の改善と特異な地震活動の解明

*溜渕 功史1 (1. 気象研究所)

地震波形から迅速かつ適切に震源を識別・推定することは,緊急地震速報をはじめとする地震動即時予測や地震カタログの作成といった地震動・地震活動監視の根幹となる重要な要素である.また,通常の地震活動に加えて,スロー地震や繰り返し相似地震の監視も,プレート間の固着状況の監視に貢献する要素の一つである.発表者は地震動・地震活動の監視に貢献することを目的として,これまで地震識別手法および地震活動の統計解析に主に取り組んできた.本発表では,これらの研究開発について紹介する.
一つめは,地震識別手法の高度化である.一般に,大地震や群発地震が発生すると,多数の震源からの地震波が同時に観測されるため,地震識別が困難となる.特に,平成23年 (2011年) 東北地方太平洋沖地震以降,地震活動が非常に活発になり,緊急地震速報の過大な予測や手作業でのカタログ作成に遅れが生じ,早期に地震活動を把握することが困難になった.発表者らは,この課題を解決する二つの震源推定手法(IPF法:Integrated Particle Filter 法[1],PF法:Phase combination Forward search法[2][3])を開発し,改良を重ねてきた.IPF法は,ベイズ推定に基づく粒子フィルタを活用した震源推定手法で,各種観測データの統合解析と震源の不確定性を考慮した地震識別の高度化を実現した.この手法は,2016年12月から気象庁の緊急地震速報で活用されている.一方,PF法は,同様の考え方を微小地震カタログに応用した手法で,従来から用いられるP相,S相の検測時刻に加えて最大振幅を特徴量として用い,地震多発時でも高精度に震源を自動推定することを実現した.PF法は2016年4月から一元化震源に活用され,その直後に発生した平成28年 (2016年) 熊本地震ではその震源が気象庁の報道発表資料の第1報から利用される等,地震活動の早期把握に大きく貢献した[3]
二つめは,地震活動の統計解析である.溜渕・他 (2010)[4] は,宮古島近海のプレート境界で,M4–5の繰り返し相似地震系列が複数の存在することを地震カタログと記象紙等の地震波形から見出した.その後,解析対象を全国の強震波形に広げ,震度3程度以上の繰り返し相似地震を検出した.Tamaribuchi et al. (2018)[5] では,熊本地震を契機として前震活動の統計解析を行い,前震のb値はいずれの本震規模であっても余震のものよりもわずかに小さいことを明らかにした.また,海底地震観測網を活用した自動震源カタログに対して機械学習を用いたノイズ誤検知低減手法を適用し,日本海溝沿いでスロー地震と同じ深さ10–20 kmで発生する前震活動が発生しやすい特異な微小地震活動領域を同定した[6].さらに,南海トラフ沿いでは海底地震観測網を用いて浅部微動を検出し,浅部微動が地震動や潮汐に敏感に反応する様子[7]や,浅部微動のエネルギーレートの空間分布はプレート境界浅部の応力不均質によく対応していること[8]を明らかにした.
これらの研究に加えて,社会実装を進めていくことが,地震防災および調査研究の進展にとって重要である.今後も大地震から微小地震・スロー地震の即時解析を通じて地震動や地震活動の実況把握,評価,予測を目指し,包括的地震モニタリングの構築を進めていく.

謝辞:これらの成果は,一元化関係機関の皆様が培ってこられた高品質かつ大量の観測データや気象庁の運用システムに関する知見・技術に基づくものであり,観測網の維持・発展やシステム開発・運用にご尽力いただいている関係者の皆様に改めて感謝申し上げます.

[1] 溜渕功史, 山田真澄, Stephen WU, 2014, 地震2, 67, 41–55. doi:10.4294/zisin.67.41
[2] 溜渕功史, 森脇健, 上野寛, 束田進也, 2016, 験震時報, 79, 1–13.
[3] Tamaribuchi, K., 2018, Earth Planets Space, 70, 141. doi:10.1186/s40623-018-0915-4
[4] 溜渕功史, 山田安之, 石垣祐三, 高木康伸, 中村雅基, 前田憲二, 岡田正実, 2010, 地震2, 62, 193–207. doi:10.4294/zisin.62.193
[5] Tamaribuchi, K., Y. Yagi, B. Enescu, and S. Hirano, 2018, Earth Planets Space, 70, 90. doi:10.1186/s40623-018-0866-9
[6] Tamaribuchi, K., F. Hirose, A. Noda, Y. Iwasaki, K. Iwakiri, H. Ueno, 2021, Earth Planets Space, 73, 91. doi:10.1186/s40623-021-01411-6
[7] Tamaribuchi, K., A. Kobayashi, T. Nishimiya, F. Hirose, and S. Annoura, 2019, Geophys. Res. Lett., 46, 13737–13745. doi:10.1029/2019GL085158
[8] Tamaribuchi, K., M. Ogiso, and A. Noda, 2022, J. Geophys. Res., 127. doi:10.1029/2022JB024403