日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

B会場

特別セッション » S21. 情報科学との融合による地震研究の加速

[S21] AM-2

2023年11月2日(木) 10:45 〜 12:00 B会場 (F201)

座長:矢野 恵佑(統計数理研究所)、田中 優介(東北大学)

11:00 〜 11:15

[S21-05] GNSS速度ベクトルのクラスタリングによる地殻ブロックの同定:平行移動とオイラーベクトル推定に基づくアプローチ

*矢野 恵佑1、高橋 温志2、加納 将行3 (1. 統計数理研究所、2. 理化学研究所、3. 東北大学理学研究科)

はじめに
高密度のGlobal Navigation Satellite System (GNSS)観測データの拡充により,プレート運動の様子がより明らかになってきた.例えば,Thatcher (2007, 2009)では,GNSS観測データを用いて,それまで知られていたものより多くの地殻ブロックを同定した.これらの地殻ブロックを同定することは,地震防災の評価(例えば,Syu et al., 2016)にも用いられており重要である.広く知られているように,ブロック断層モデルの結果は,地殻ブロックの選択に強く影響される(例えば,McCaffrey, 2007; Wallace et al., 2007; Floyd et al., 2010).近年,適切な地殻ブロック構造を仮定するための客観的な同定方法が提案されている.Simpson et al. (2012), Savage and Simpson (2013a, 2013b), Takahashi et al. (2018)では,GNSS速度データの速度ベクトル空間での階層的クラスタリングを用いて,それぞれサンフランシスコ湾・モハべ砂漠・台湾における地殻ブロックの同定が行われた.また,Savage and Wells (2015), Savage (2018), Takahashi and Hashimoto (2022)では,オイラーベクトルを用いた非階層的クラスタリングを用いて,それぞれ太平洋岸北西部・西南日本・ニュージーランドにおける地殻ブロックの同定が行われた.しかしながら,速度ベクトル空間でのクラスタリングは必ずしもオイラーベクトルによる回転運動を考慮できず,一方でオイラーベクトルによるクラスタリングは階層型にする事が難しく,さらに必ずしも観測点の隣接性が考慮できない.本講演では,これらの問題点を解決すべく,地殻ブロックの新たな同定法を提案する.

データと方法
提案手法では,オイラーベクトルによる回転運動と接ベクトルの平行移動を利用する.まず,二点P,QのGNSSの位置座標と速度ベクトルを用いてオイラーベクトルを推定する.その推定値の当てはまりによって二点P,Qの速度ベクトルの非類似度を定める.一方で,GNSS速度ベクトルを球面上の相異なる二点に分布する接面に平行なベクトル(接ベクトル)と見なし,この接ベクトルを移動させる「平行移動を導入し、地理的に離れた二点の速度ベクトルの非類似度を定める.ここで、この「平行移動」を用いて先行研究で提案された速度ベクトル空間でのクラスタリングを説明する事ができる.二つの非類似度の和を用いた階層クラスタリングを行うことで,平行移動と回転運動のいずれも考慮したGNSS速度ベクトルの階層クラスタリングが可能となる.本講演では,Altamimi et al. (2012)が構築したITRF2008プレートモデルおよび公開データを用いて,観測点の位置座標と速度ベクトルのみから客観的にプレートの復元を試みた.

結果と考察
提案手法による階層クラスタリングによって,既知のプレートを速度ベクトルと位置情報のみから復元できていることが確認できた.復元したプレートは,巨視的に北アメリカとユーラシア・オーストラリアグループに分かれた.また,特に後者の中にいくつかのサブブロック(ユーラシア・インド・オーストラリア)が見受けられ,プレート運動の類似度を直感的に表現することができた.