[S21P-01] On the effects of time width used to count interval maximum amplitude of a seismogram on the extreme value analysis
極値統計解析においては、最大値をとる区間が長いほど正確な標本データを得られるが、その分得られる標本の数が減るため、極値分布パラメータの推定精度は悪くなる。これを地震計記録に基づく余震活動予測の問題に当てはめると、区間最大振幅をとるデータ長Tをどのように決めるかという問題に帰着する。Tが短すぎると、同じ地震の地震動記録から2回以上区間最大振幅を読み取る(P波とS波のピークなど)、Tの間にノイズレベルを超える地震動が発生せずノイズの最大値を読み取るなどの理由から、区間最大振幅が極値分布から逸脱した分布形状を示す可能性が高くなる。一方で、Tが長すぎると、大地震直後においては解析に使える標本数が足りず、パラメータ推定の精度が落ちる。Sawazaki(2021)は、ノイズレベルを超える地震動の継続時間が概ね1分程度であることから、Tを1分間に固定して解析を行っている。しかし、余震の頻度は大森・宇津式に従い本震からの時間の経過に伴い減衰するため、経過時間に応じてTを変化させるのが妥当であろうと予想される。
そこで本研究では、大地震発生の6時間後から1週間後までの地震計記録について、(1)Tを1分間に固定し続けた場合と、(2)Tを経過時間に比例させた場合の2つのケースについて、極値分布のパラメータ推定結果がどのように異なるかを調べた。ケース1、2について、Tおよび区間最大振幅の数Nはそれぞれ以下のとおりである。
ケース1:T=60(s)、N=60×T1-5
ケース2:T=10×T1(s)、N=[360-30/T1]
ここでT1は本震からの経過時間(時間)、[x]はxの整数部分を表す。本震発生からの最初の5分間は、本震による地震動のコーダ波が含まれる可能性を考慮し、解析対象から除いた。T1=6時間では、両ケースともT=60s、N=355で共通であるが、T1=7時間以降は、ケース1ではTが60秒固定でNがT1に比例して増え、ケース2ではTがT1に比例して増えてNがほぼ固定(355-359の範囲)となる。
2008年岩手・宮城内陸地震(MJ7.2)と2018年大阪府北部の地震(MJ6.1)における、本震からの震源距離20km以内のHi-net観測点の3成分RMS振幅記録1週間分を解析に用いた。岩手・宮城内陸地震におけるHi-net観測点においては、ケース1と2でパラメータ推定の中央値に大きな違いはなく、多少の変動があるものの期間を通じてほぼ一定の値となった。ケース1では時間の経過とともに推定幅(5%と95%パーセンタイル値の差または比)が狭くなるのに対し、ケース2では推定幅に大きな変化はなかった。一方で、大阪府北部の地震におけるHi-net観測点においては、ケース1において時間の経過と共にパラメータ推定の中央値が系統的に変化した。具体的には、石本・飯田式のm値および大森・宇津式のp値は、時間の経過と共にそれぞれ増加、減少した(図a, b)。ケース2ではその変化が顕著には見られなかった。岩手・宮城内陸地震の場合と同様に、パラメータの推定幅はケース1では時間と共に狭くなり、ケース2では大きな変化は見られなかった。
ケース1の場合、本震からの時間が経つにつれてT=1分間にノイズレベルを超える地震動を観測する機会が減り、ノイズレベルそのものの最大振幅をカウントする機会が増える。この傾向は余震活動が比較的低調だった大阪府北部の地震において、より顕著であった。ノイズレベルは本震からの経過時間に依存せず、周囲の社会活動を反映して、昼間に増加し夜間に減少する周期性を示す(図c)。この特徴は地震動の区間最大値がしたがうべき極値分布には反映されない。極値分布で再現しきれない周期性などのデータの特徴を無理やり極値分布で当てはめようとした結果、パラメータ推定値が経過時間と共に変化したと考えられる。m値の上昇はノイズレベルが極端な値をとりにくい(ノイズは正規分布などの「裾野が狭い」分布に従う)ことを、p値の減少は区間最大振幅の下限が「頭打ち」したことを説明しようとして生じたと考えられる。また、ケース1の場合には、尤度関数がローカルミニマムを生じることにより、MCMC法によるパラメータのサンプリングがうまくいかない場合も見られた。
以上の結果から、地震活動の規模によらずに安定した推定を行うためには、時間長Tを経過時間に比例させることで区間最大振幅が確実に極値分布に従うように調整できる、ケース2を採用する方が妥当と考えられる。
謝辞:本研究は科研費基盤C(課題番号21K03686)および情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-E、課題番号JPJ010217)の支援を受けています。
図:大阪府北部の地震時のHi-net N.OSKH観測点における、本震後1週間のパラメータ推定値(a:m値、b:p値)、および区間最大振幅(c:T=60sの場合、d:T=1680sの場合(T=60sの場合に赤丸で上書き))。
そこで本研究では、大地震発生の6時間後から1週間後までの地震計記録について、(1)Tを1分間に固定し続けた場合と、(2)Tを経過時間に比例させた場合の2つのケースについて、極値分布のパラメータ推定結果がどのように異なるかを調べた。ケース1、2について、Tおよび区間最大振幅の数Nはそれぞれ以下のとおりである。
ケース1:T=60(s)、N=60×T1-5
ケース2:T=10×T1(s)、N=[360-30/T1]
ここでT1は本震からの経過時間(時間)、[x]はxの整数部分を表す。本震発生からの最初の5分間は、本震による地震動のコーダ波が含まれる可能性を考慮し、解析対象から除いた。T1=6時間では、両ケースともT=60s、N=355で共通であるが、T1=7時間以降は、ケース1ではTが60秒固定でNがT1に比例して増え、ケース2ではTがT1に比例して増えてNがほぼ固定(355-359の範囲)となる。
2008年岩手・宮城内陸地震(MJ7.2)と2018年大阪府北部の地震(MJ6.1)における、本震からの震源距離20km以内のHi-net観測点の3成分RMS振幅記録1週間分を解析に用いた。岩手・宮城内陸地震におけるHi-net観測点においては、ケース1と2でパラメータ推定の中央値に大きな違いはなく、多少の変動があるものの期間を通じてほぼ一定の値となった。ケース1では時間の経過とともに推定幅(5%と95%パーセンタイル値の差または比)が狭くなるのに対し、ケース2では推定幅に大きな変化はなかった。一方で、大阪府北部の地震におけるHi-net観測点においては、ケース1において時間の経過と共にパラメータ推定の中央値が系統的に変化した。具体的には、石本・飯田式のm値および大森・宇津式のp値は、時間の経過と共にそれぞれ増加、減少した(図a, b)。ケース2ではその変化が顕著には見られなかった。岩手・宮城内陸地震の場合と同様に、パラメータの推定幅はケース1では時間と共に狭くなり、ケース2では大きな変化は見られなかった。
ケース1の場合、本震からの時間が経つにつれてT=1分間にノイズレベルを超える地震動を観測する機会が減り、ノイズレベルそのものの最大振幅をカウントする機会が増える。この傾向は余震活動が比較的低調だった大阪府北部の地震において、より顕著であった。ノイズレベルは本震からの経過時間に依存せず、周囲の社会活動を反映して、昼間に増加し夜間に減少する周期性を示す(図c)。この特徴は地震動の区間最大値がしたがうべき極値分布には反映されない。極値分布で再現しきれない周期性などのデータの特徴を無理やり極値分布で当てはめようとした結果、パラメータ推定値が経過時間と共に変化したと考えられる。m値の上昇はノイズレベルが極端な値をとりにくい(ノイズは正規分布などの「裾野が狭い」分布に従う)ことを、p値の減少は区間最大振幅の下限が「頭打ち」したことを説明しようとして生じたと考えられる。また、ケース1の場合には、尤度関数がローカルミニマムを生じることにより、MCMC法によるパラメータのサンプリングがうまくいかない場合も見られた。
以上の結果から、地震活動の規模によらずに安定した推定を行うためには、時間長Tを経過時間に比例させることで区間最大振幅が確実に極値分布に従うように調整できる、ケース2を採用する方が妥当と考えられる。
謝辞:本研究は科研費基盤C(課題番号21K03686)および情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-E、課題番号JPJ010217)の支援を受けています。
図:大阪府北部の地震時のHi-net N.OSKH観測点における、本震後1週間のパラメータ推定値(a:m値、b:p値)、および区間最大振幅(c:T=60sの場合、d:T=1680sの場合(T=60sの場合に赤丸で上書き))。