日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

特別セッション » S21. 情報科学との融合による地震研究の加速

[S21P] PM-P

2023年11月1日(水) 17:00 〜 18:30 P3会場 (F205・6側フォワイエ) (アネックスホール)

[S21P-03] 機械学習によるフーリエ振幅スペクトルから応答スペクトルを予測する試み

*倉田 悠暉1、松川 滉明1、田中 裕人1、松元 康広1、竹越 美佳1、八木 尊慈1、木内 亮太1、滝 勇太1 (1. 株式会社構造計画研究所)

1. はじめに
 地震動は震源特性、伝播経路特性、サイト特性によって表現され、理学分野ではスペクトルインバージョンにより各特性を分離する等のフーリエ振幅スペクトルに基づく分析が行われることが多い。一方で、工学分野ではPGA、PGV、応答スペクトル等の指標が用いられることから、理学分野の研究成果を工学分野に利活用するためには、フーリエ振幅スペクトルを工学的指標に精度良く変換できる方法が有用である。既往文献(例えば尾崎・高田, 2003)ではランダム振動論に基づき、パワースペクトル密度関数と応答スペクトルを相互変換する理論的な手法が提案されているが、波形に非定常性を有する地震記録に対して適切な継続時間を設定する必要がある。一方で、本問題を回帰問題と考えればノンパラメトリックな機械学習手法を用いることにより、地震学や物理学的な仮定を置くことなくこれらの変換を行うことができる可能性がある。そこで本研究では、機械学習手法の1つであるランダムフォレストを用いて、地震観測記録のフーリエ振幅スペクトルからPGA、PGV、及び加速度応答スペクトル(減衰定数5%)の各周期における応答値の予測を試みる。

2. データ・手法
 本研究では、1997年1月~2022年4月までに発生したMw5.5以上(防災科学技術研究所のF-net参照)の地震の内、震央距離100km以内の10観測点以上で観測記録が得られている内陸地殻内地震を学習データとしてモデルを構築した。構築したモデルに対して、2023年5月5日に石川県能登地方で発生した本震(14時42分、Mw6.2)と最大余震(21時58分、Mw5.7)の記録を用いて精度の検証を行った。観測記録は防災科学技術研究所のK-NET及びKiK-netの地表記録(水平動2成分)を用い、S/N比が小さいデータを取り除くため震央距離200km以内の記録を対象とした。学習データの前処理として、JMA走時表(上野・他, 2002)を参考に、S波到達の5秒前から40.96秒をトリミングした。なお、サンプリング周波数が200Hzの記録は100Hzにリサンプリングし、継続時間が40.96秒未満の記録は除外した。最終的に、学習データは計52地震19,304記録、検証データは計2地震428記録を選定した。
 本研究では、機械学習手法の中でも目的変数に対する各説明変数の重要度を分析することができるランダムフォレストを用いてモデルを構築した。予測対象とする目的変数は、PGA、PGV、加速度応答スペクトル(減衰定数5%、周期0.02~5.0秒の94点)の計96変数である。これらの工学的指標を予測するための説明変数は、各周期(周期0.02~40.96秒の2,048点)のフーリエ振幅スペクトルとした。なお、目的変数及び説明変数はそれぞれ常用対数を取った値を学習に用いた。

3. 結果
 検証データ(2023年5月5日石川県能登地方の地震;本震と最大余震の2地震)における観測値と予測値を比較した例として、図1(a)(b)にPGAと周期1秒の加速度応答スペクトルの結果を示す。それぞれの結果について予測値の大半は、破線で示す観測値の1/2~2倍以内に収まっており、対数軸上の平均二乗誤差MSEの値が小さく決定係数R2が1に近い値を示すことから、全体として概ね精度の良いモデルが構築できていると考えられる。また、図1(c)(d)に目的変数に対する説明変数(フーリエ振幅スペクトル)の重要度の結果を示す。PGAでは周期0.1~0.3秒程度の短周期側のフーリエ振幅スペクトルの重要度が大きく、周期1秒の加速度応答スペクトルでは周期0.5~2秒程度のフーリエ振幅スペクトルの重要度が大きい。これらの傾向からも、妥当なモデルが構築できていると考えられる。一方で、観測値が大きい記録に対する予測値は全体的にやや過小評価の傾向が見られる。図1(b)において最も観測値が大きく、予測値との乖離も大きいK-NET正院(ISK002)のEW成分について、本震と最大余震それぞれの加速度応答スペクトルを図2に示す。図2(a)に示す本震の周期1~3秒付近において観測値と予測値の乖離が大きい。これは、灰色で示している学習データの密度が低い応答値であることに加えて、観測波形の位相特性としてパルス性が強いことが要因として考えられる。一方で、図2(a)に示すその他の周期帯や図2(b)に示す最大余震の全周期帯においては、観測値と予測値の間に顕著な差はない。

4. 今後の展望
 学習データが不足する応答が大きい観測値に対して、本研究のモデルによる予測値は過小評価となる傾向が見られた。データセットの偏りを低減するため、例えばフーリエ振幅スペクトルの最大値や積分値で目的変数と説明変数を正規化して学習することが考えられる。また、位相特性に関係するパラメータとして、地震規模や震源からの距離等を説明変数に追加することで、予測精度の向上が図れるか検討を進めたい。合わせて他の機械学習手法を用いた予測精度の検証についても行っていく予定である。

謝辞
 防災科学技術研究所の観測記録を利用しました。ここに記して感謝いたします。