10:25 〜 10:40
[S22-04] 2023年5月5日のM6.5の地震を含む近年の石川県能登地方の地震活動
はじめに
石川県能登地方では、2018年頃から地震回数が増加傾向にあり、2020年12月から2023年8月7日までに震度1以上を観測する地震が464回発生する等、活発な地震活動が長期間継続している。特に2023年5月5日に能登半島沖で発生したM6.5の地震(最大震度6強、10cm等の津波を観測)では大きな被害を生じた。本発表では、これらの一連の地震活動の時空間分布の詳細や地震活動モデルを用いた解析結果等を報告する。
方法・データ
地震活動の詳細把握にはDD法による再決定震源、発震機構を用い、また、M6.5の地震については強震波形を用いた震源インバージョン解析を行った。地震活動モデル解析では、定常ETAS解析による地震発生時系列の推定や、非定常ETAS解析(Kumazawa and Ogata, 2013)により推定した背景地震活動度μ(t)及び余震誘発強度K0(t)と国土地理院GNSS観測データ(珠洲、能都)等との比較を行った。また、M6.5とその後の地震を本震-余震系列とみなして地震調査委員会(2016)に基づいた余震発生確率(震度5弱程度以上、3日間)を算出した。
結果・考察
1.2018年から2023年5月5日M6.5発生前までの地震活動
当該期間における地震活動は、震央分布でみると概ね4領域に分かれている(以下、各領域を東西南北で呼ぶ)。活動は、2018年頃から南領域の深さ13km付近で始まり、深さ8㎞付近まで徐々に浅くなった。その後、2020年11月末に、急に深さ15㎞付近へ主な活動域が移動して活動が活発化するとともに、μ(t)が高くなり始め、地殻変動の隆起及び水平移動が始まった。
その後、2021年7月頃にかけて、西、北、東の各領域の深さ13km付近で順に活発化し、同年後半からM6.5発生までの地震回数は、ほぼ一定レートで推移した。また、これら3領域では2021年末頃まで徐々に1~2㎞程度浅部に拡大した。この浅部への拡大期である2021年初め頃から後半にかけては、μ(t)が西、北、東領域の順に上昇し、珠洲の隆起が継続した。一方、南領域は、2021年10月頃に再び浅部へ急拡大した後、2022年2月頃以降は主に浅部で活動した。このように南領域の活動は、深さ方向の移動が大きく、時間的にも消長がある等断続的であり、他の3領域とは活動推移が異なる。
各領域内での震源分布は1枚の面上ではなく、主に南東傾斜の複数の線状や面状のクラスターから構成されている。発震機構は活動の全期間を通じて北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型が多く、各クラスターの南東傾斜の分布と調和的な節面を持つ。
ETAS解析のα値は、南領域以外で1.0程度、南領域で0.2程度であり、地震調査委員会(2016)による主な本震-余震型の活動と比べると小さく、群発的な活動の傾向を示す。
2.2023年5月5日M6.5発生後の地震活動
2023年5月5日にM6.5の地震が東領域の深さ12kmで発生した後は、東、北、南領域の活動は一時的に更に活発化した。特に東、北領域の活動は、M6.5発生前の南東傾斜の活動の浅部延長である沖合に拡大した。沖合には珠洲沖セグメントの活断層(産総研活断層データベースによる)の存在が指摘されているが、これら活動の浅部延長と活断層トレースの位置は一致していないように見える。震源インバージョン解析によると、M6.5の主なすべり域は東、北領域の浅部側に分布する。
M6.5発生後の日別の地震回数(M1.6以上)は、時間の経過とともに減少し、翌々月(7月)には概ねM6.5発生前の状況に戻った。余震発生確率で見た場合、M6.5の発生後2週間経過時点では、M6.5発生前(2021年7月以降についてポアソン過程で計算)に比べて5倍程度あったが、翌月(6月)下旬には同程度に低下した。
非定常ETAS解析では、M6.5の発生に伴い、北、東領域ではK0(t)の上昇は一時的であったものの、μ(t)は高い状態が地震前後で継続している(2023年7月末時点)。今回の一連の活動について、地震調査委員会(2023)は、流体の移動が関与している可能性を指摘している。μ(t)が流体による断層強度の弱化や回復等の過程を示すと考えれば、M6.5の大地震の後もμ(t)が高い状態であることは、M6.5の後の活動についても、引き続き流体が関与している可能性を示唆している。
謝辞
一元化震源(2022年10月7日からは能登半島における合同地震観測グループによるオンライン臨時観測点「よしが浦温泉」、「飯田小学校」のデータを追加)を使用しました。国土地理院より提供いただいたGNSS観測データを使用しました。熊澤貴雄博士より提供いただいた非定常ETAS解析プログラムを使用しました。記して感謝いたします。
石川県能登地方では、2018年頃から地震回数が増加傾向にあり、2020年12月から2023年8月7日までに震度1以上を観測する地震が464回発生する等、活発な地震活動が長期間継続している。特に2023年5月5日に能登半島沖で発生したM6.5の地震(最大震度6強、10cm等の津波を観測)では大きな被害を生じた。本発表では、これらの一連の地震活動の時空間分布の詳細や地震活動モデルを用いた解析結果等を報告する。
方法・データ
地震活動の詳細把握にはDD法による再決定震源、発震機構を用い、また、M6.5の地震については強震波形を用いた震源インバージョン解析を行った。地震活動モデル解析では、定常ETAS解析による地震発生時系列の推定や、非定常ETAS解析(Kumazawa and Ogata, 2013)により推定した背景地震活動度μ(t)及び余震誘発強度K0(t)と国土地理院GNSS観測データ(珠洲、能都)等との比較を行った。また、M6.5とその後の地震を本震-余震系列とみなして地震調査委員会(2016)に基づいた余震発生確率(震度5弱程度以上、3日間)を算出した。
結果・考察
1.2018年から2023年5月5日M6.5発生前までの地震活動
当該期間における地震活動は、震央分布でみると概ね4領域に分かれている(以下、各領域を東西南北で呼ぶ)。活動は、2018年頃から南領域の深さ13km付近で始まり、深さ8㎞付近まで徐々に浅くなった。その後、2020年11月末に、急に深さ15㎞付近へ主な活動域が移動して活動が活発化するとともに、μ(t)が高くなり始め、地殻変動の隆起及び水平移動が始まった。
その後、2021年7月頃にかけて、西、北、東の各領域の深さ13km付近で順に活発化し、同年後半からM6.5発生までの地震回数は、ほぼ一定レートで推移した。また、これら3領域では2021年末頃まで徐々に1~2㎞程度浅部に拡大した。この浅部への拡大期である2021年初め頃から後半にかけては、μ(t)が西、北、東領域の順に上昇し、珠洲の隆起が継続した。一方、南領域は、2021年10月頃に再び浅部へ急拡大した後、2022年2月頃以降は主に浅部で活動した。このように南領域の活動は、深さ方向の移動が大きく、時間的にも消長がある等断続的であり、他の3領域とは活動推移が異なる。
各領域内での震源分布は1枚の面上ではなく、主に南東傾斜の複数の線状や面状のクラスターから構成されている。発震機構は活動の全期間を通じて北西-南東方向に圧力軸を持つ逆断層型が多く、各クラスターの南東傾斜の分布と調和的な節面を持つ。
ETAS解析のα値は、南領域以外で1.0程度、南領域で0.2程度であり、地震調査委員会(2016)による主な本震-余震型の活動と比べると小さく、群発的な活動の傾向を示す。
2.2023年5月5日M6.5発生後の地震活動
2023年5月5日にM6.5の地震が東領域の深さ12kmで発生した後は、東、北、南領域の活動は一時的に更に活発化した。特に東、北領域の活動は、M6.5発生前の南東傾斜の活動の浅部延長である沖合に拡大した。沖合には珠洲沖セグメントの活断層(産総研活断層データベースによる)の存在が指摘されているが、これら活動の浅部延長と活断層トレースの位置は一致していないように見える。震源インバージョン解析によると、M6.5の主なすべり域は東、北領域の浅部側に分布する。
M6.5発生後の日別の地震回数(M1.6以上)は、時間の経過とともに減少し、翌々月(7月)には概ねM6.5発生前の状況に戻った。余震発生確率で見た場合、M6.5の発生後2週間経過時点では、M6.5発生前(2021年7月以降についてポアソン過程で計算)に比べて5倍程度あったが、翌月(6月)下旬には同程度に低下した。
非定常ETAS解析では、M6.5の発生に伴い、北、東領域ではK0(t)の上昇は一時的であったものの、μ(t)は高い状態が地震前後で継続している(2023年7月末時点)。今回の一連の活動について、地震調査委員会(2023)は、流体の移動が関与している可能性を指摘している。μ(t)が流体による断層強度の弱化や回復等の過程を示すと考えれば、M6.5の大地震の後もμ(t)が高い状態であることは、M6.5の後の活動についても、引き続き流体が関与している可能性を示唆している。
謝辞
一元化震源(2022年10月7日からは能登半島における合同地震観測グループによるオンライン臨時観測点「よしが浦温泉」、「飯田小学校」のデータを追加)を使用しました。国土地理院より提供いただいたGNSS観測データを使用しました。熊澤貴雄博士より提供いただいた非定常ETAS解析プログラムを使用しました。記して感謝いたします。