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[S22-05] 能登半島群発地震の震源域周辺におけるS波偏向異方性の時間変動
2018年5月頃から,能登半島北東部において地震活動が増加傾向にあり,2020年12月以降,群発地震活動はさらに活発化し,群発地震活動は現在でも続いている(cf., Amezawa et al., 2023).これまでに観測されてきた群発地震としては,1965年から数年にわたって長野県の松代で発生した松代群発地震がよく知られている.松代群発地震の際には,地下水の湧出や温泉井戸の自噴が観測され,群発地震活動には地殻流体が大きく影響することが示唆されていた.松代の群発地震活動に比べると,能登半島北東部で観測されている群発地震の震源の深さは深く,10km程度以上であるという深さの違いはあるものの,能登半島の群発地震においても地殻流体の挙動が大きく影響していることが想定される.地殻流体の流路の推定は,地質環境長期安定性評価の技術開発にも不可欠であることから,本研究では,地殻流体の流路の推定を最終的な目標としつつ,地殻流体の影響を評価するために,能登半島群発地震の震源域の常設地震観測点で観測された地震波形データを用いたS波スプリッティング解析を行った. 本研究でのS波スプリッティング解析においては,2004年4月1日から2023年5月4日までに能登半島北東部で発生したMj1.0以上の地震を用いた.使用した観測点は,能登半島北東部に位置するHi-netとJMAによる高感度地震観測点である.解析には,Silver and Chan (1991)による共分散行列法をベースとしたSaiga et al. (2013)による半自動化された解析手法を用いた.その結果,能登半島北岸付近に位置する観測点N.SUZHでの速いS波の偏向方向は,おおよそ北東-南西方向が卓越している一方,能登半島北東部の東岸付近に位置する観測点SUZHでの速いS波の偏向方向は,北西-南東方向が卓越していた. 能登半島での群発地震は,空間的に主に4つのクラスターから構成されていることを考慮し,これら2観測点で推定された速いS波の偏向方向についてクラスター別に分け,さらにNishimura et al. (2023)による期間分けにならい,いくつかの期間に分けることで,クラスター別期間別に速いS波の偏向方向を分類した.速いS波の偏向方向の時間変動を調べるために,観測点ごとクラスターごとに,期間別の速いS波の偏向方向の平均方向が等しいという帰無仮説を有意水準5%で棄却できるかどうかを,Tukeyの多重比較検定法により検定した.観測点N.SUZHについては,南部のクラスター(クラスターS)と北東部のクラスター(クラスターNE)では,どの期間の組み合わせについても帰無仮説は棄却されなかったが,北部のクラスター(クラスターN)では,一部の期間の組み合わせについて帰無仮説が棄却された.なお,西部のクラスター(クラスターW)については,S波スプリッティング解析の適用条件である入射角35˚未満を満たす波線経路がごくわずかしか存在しなかったため,時間変動の検定は行えなかった.観測点SUZHについては,クラスターSとクラスターNEでは,どの期間の組み合わせについても帰無仮説は棄却されず,クラスターWとクラスターNについては,利用可能な波線経路の数が少なかったため時間変動の検定を行わなかった.一部のクラスターについてのみであるが,期間別の平均方向が等しいという帰無仮説が棄却されたということは,能登半島北東部の群発地震の活動期間中に,速いS波の偏向方向が時間的に変動していた可能性が示唆される.地殻流体が群発地震活動に影響しているとすれば,速いS波の偏向方向の時間変動は,地殻内における間隙流体圧の変動を表しているのかもしれない. 謝辞: 本研究では,防災科学技術研究所 Hi-netならびに気象庁地震・津波検知網の地震波形データを使用させていただきました.また,本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」の成果の一部である.