日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

D会場

特別セッション » S22. 能登半島北東部の群発地震とM6.5の地震

[S22] AM-2

2023年10月31日(火) 11:00 〜 12:15 D会場 (F204)

座長:浅野 公之(京都大学)、宮澤 理稔(京都大学)

11:30 〜 11:45

[S22-07] 分布型音響センシング(DAS)技術によって記録された能登半島群発地震活動に伴う強震動

*宮澤 理稔1、荒木 英一郎2、田中 愛幸3 (1. 京都大学、2. 海洋研究開発機構、3. 東京大学)

はじめに
  能登半島北東部では2020年末頃から地震活動の活発化が始まり、2023年8月現在でも一連の群発地震活動が続いている。2022年6月19日にはM5.4地震(最大震度6弱)、2023年5月5日にはM6.5地震(最大震度6強)が発生するなど、被害をもたらす地震も起きている。この様な活発な地震活動に伴う現象を詳細に調査する目的で、2023年1月から約2か月間、群発地震活動域の南西に位置する領域において、分布型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing; DAS)技術によるひずみ測定を実施した(田中ほか, 2023)。DASでは光ファイバケーブル沿いに、ひずみ速度を計測することができる。ここで利用された光ファイバケーブルは、能登町から珠洲市にかけてのNTT西日本の保有する約28kmの地中・架空のケーブルであった。この観測中には数多くの地震が発生し、その地震動を地中区間は勿論のこと、架線区間であっても明瞭に捉える事に成功した。一方で、DAS測定において避けることのできないサイクルスキップの問題が顕著に現れ、大きな振幅値は振り切れてしまい、有感地震観測への対策が課題となった。このため2023年7月からサイクルスキップを回避し、群発地震活動を捉えるための観測実験を実施した。

観測の概要と結果
 2023年7月12日に石川県能登町にあるNTT西日本の能都ビルに、ニューブレクス社製NBX-S4100を設置し、7週間の予定で測定を開始した。光ファイバケーブルは、能都ビルから珠洲市のNTT西日本珠洲までの約28kmの区間であり、光ケーブルのジオメトリは1月から3月にかけて実施したものと同一である。このうち、地中区間は光ケーブル始点からの約6kmと、終点までの約2kmである。他の約20kmの区間は架空である。前回(2023年1月~3月)の測定ではゲージ長5m、空間サンプリング5m、時間サンプリング500spsとしており、約30με/s以上のひずみ速度でサイクルスキップが生じ、振り切れてしまっていた。有感地震をDASで振り切れず捉えるために、今回の測定では、ゲージ長40cm、空間サンプリング2mまたは5m、時間サンプリングを1000spsとする事で、原理的に約800με/sのひずみ速度まで測定できるものとした。チャネル数は、空間サンプリングが2mの時は13,637、5mの時は5,682である。7月30日には深さ約10kmでM3.2地震が発生し、光ケーブルの終点から東に2km程の珠洲市正院町ではこの地震の最大震度となる3を記録した。震央距離が3km程度のDASによる終点近くの地中区間では、殆どのチャネルで振幅が数100με/sを超えても振り切れずに地震波を記録することに成功した。この近傍の廃線トンネル(のと鉄道春日トンネル)ではトンネル壁面を光ファイバひずみ計で測定している(荒木ほか, 2023)が、DASによるひずみの振幅値はこれと比べても整合的であった。一方で、DAS測定では非線形性の強い波形も観測されていた。

謝辞
  本研究はJSPS科研費JP21H05204, JP22H05306, JP22K19949, JP23K17482、および「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の助成を受けた。

参考文献
・荒木 英一郎、宮澤 理稔、田中 愛幸、横引 貴史 (2023). 石川県珠洲市トンネル内の光ファイバ歪・地震計およびDAS観測記録の比較, STT42-P04, JpGU 2023.
・田中 愛幸、宮澤 理稔、荒木 英一郎 (2023). 光ファイバーケーブルを用いた能登半島群発地震のDAS観測, STT42-01, JpGU 2023.