11:45 〜 12:00
[S22-08] 強震波形記録による2023年5月5日石川県能登地方の地震(M6.5)の震源過程
2020年12月以降、能登半島北東部で継続している群発地震活動では、2022年6月19日15時8分にMJMA5.4の地震が発生し、K-NET ISK002(珠洲市正院町)で震度6弱の強震動が観測され、珠洲市内では地震被害が報告されている(大堀・村田, 2023)。その約10.5ヶ月後の2023年5月5日14時42分に、一連の群発地震活動の中で最大規模(予稿執筆時点)であるMJMA6.5の地震が深さ12.1 kmで発生した(以下、本地震)。
本研究では、本地震の震源過程を強震記録の波形インバージョンにより推定し、群発地震活動や地殻構造、既知の活断層との関係などを調査した。マルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン(Hartzell and Heaton, 1983)を用い、強震記録の速度波形(0.05~1 Hz)S波部分を解析した。各強震観測点のGreen関数は、全国一次地下構造モデル(Koketsu et al., 2012)から各観測点直下の構造を抽出し、観測点毎に一次元構造を仮定した上で、離散化波数法(Bouchon, 1981)と透過・反射係数行列(Kennett and Kerry, 1979)を用いて計算した。本地震に対しては、各機関から報告されているモーメントテンソル解から得られる断層面の走向、傾斜に差異がある。このため、走向4通り(43°、49°、55°、61°)、傾斜6通り(35°、40°、45°、50°、55°、60°)の計24通りの断層形状を考え、最適な走向と傾斜の組み合わせを、第1タイムウィンドウフロント破壊伝播速度と平滑化のハイパーパラメータと同時にABIC最小規準で決定した。逆断層のメカニズム解から、すべり方向は、90°±45°の範囲に拘束した。
解析の結果、最適な走向は49°、傾斜は40°と推定された。この傾斜は本地震以降の震源分布とも調和的である。5月5日14時42分の地震以前の群発地震活動は、主に深さ10~15 kmで発生していた。一方、本地震の主要なすべりは、破壊開始点の北西の深さ5~10 kmに求められた。それ以前に顕著な群発地震活動が生じていなかった深さにある断層を破壊しており、地震活動が新たな段階に移ったともいえる。2022年6月19日のMJMA5.4の地震の震源付近(深さ13.1 km)でのすべり量は小さい。また、2023年5月5日21時58分に発生したMJMA5.9の地震の震源(深さ13.7 km)は、14時42分の地震の断層面より約5 km深いので、同じ震源断層にはないと考えている。
日本海地震・津波調査プロジェクト(佐藤・他, 2022)では、海域での反射法地震探査結果等をもとに、珠洲沖セグメントに対応する震源断層の矩形モデル(NT5)が提案された。NT5断層の走向は52°、傾斜は60°である。本地震の震源断層は、NT5断層の西半部と地図上で重なり、走向が似ているものの、傾斜は整合していない。本研究で推定した断層面は、NT5断層よりも傾斜が低角のため、海底での珠洲沖セグメントのトレースよりも沖合まで拡がっている。この傾向は2023年5月5日以降の地震分布とも整合している。これらの結果からは、本地震の震源断層の浅部延長は珠洲沖セグメントへ直接には繋がらず、本地震と既存の活構造との関係は現時点では不明である。
謝辞:国立研究開発法人防災科学技術研究所(K-NET、KiK-net、F-net)及び気象庁の強震波形記録を使用しました。関係者の皆様に記して感謝いたします。本研究は、科学研究費助成事業・特別研究促進費23K17482の一部として実施しています。
本研究では、本地震の震源過程を強震記録の波形インバージョンにより推定し、群発地震活動や地殻構造、既知の活断層との関係などを調査した。マルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン(Hartzell and Heaton, 1983)を用い、強震記録の速度波形(0.05~1 Hz)S波部分を解析した。各強震観測点のGreen関数は、全国一次地下構造モデル(Koketsu et al., 2012)から各観測点直下の構造を抽出し、観測点毎に一次元構造を仮定した上で、離散化波数法(Bouchon, 1981)と透過・反射係数行列(Kennett and Kerry, 1979)を用いて計算した。本地震に対しては、各機関から報告されているモーメントテンソル解から得られる断層面の走向、傾斜に差異がある。このため、走向4通り(43°、49°、55°、61°)、傾斜6通り(35°、40°、45°、50°、55°、60°)の計24通りの断層形状を考え、最適な走向と傾斜の組み合わせを、第1タイムウィンドウフロント破壊伝播速度と平滑化のハイパーパラメータと同時にABIC最小規準で決定した。逆断層のメカニズム解から、すべり方向は、90°±45°の範囲に拘束した。
解析の結果、最適な走向は49°、傾斜は40°と推定された。この傾斜は本地震以降の震源分布とも調和的である。5月5日14時42分の地震以前の群発地震活動は、主に深さ10~15 kmで発生していた。一方、本地震の主要なすべりは、破壊開始点の北西の深さ5~10 kmに求められた。それ以前に顕著な群発地震活動が生じていなかった深さにある断層を破壊しており、地震活動が新たな段階に移ったともいえる。2022年6月19日のMJMA5.4の地震の震源付近(深さ13.1 km)でのすべり量は小さい。また、2023年5月5日21時58分に発生したMJMA5.9の地震の震源(深さ13.7 km)は、14時42分の地震の断層面より約5 km深いので、同じ震源断層にはないと考えている。
日本海地震・津波調査プロジェクト(佐藤・他, 2022)では、海域での反射法地震探査結果等をもとに、珠洲沖セグメントに対応する震源断層の矩形モデル(NT5)が提案された。NT5断層の走向は52°、傾斜は60°である。本地震の震源断層は、NT5断層の西半部と地図上で重なり、走向が似ているものの、傾斜は整合していない。本研究で推定した断層面は、NT5断層よりも傾斜が低角のため、海底での珠洲沖セグメントのトレースよりも沖合まで拡がっている。この傾向は2023年5月5日以降の地震分布とも整合している。これらの結果からは、本地震の震源断層の浅部延長は珠洲沖セグメントへ直接には繋がらず、本地震と既存の活構造との関係は現時点では不明である。
謝辞:国立研究開発法人防災科学技術研究所(K-NET、KiK-net、F-net)及び気象庁の強震波形記録を使用しました。関係者の皆様に記して感謝いたします。本研究は、科学研究費助成事業・特別研究促進費23K17482の一部として実施しています。