[S22P-06] GNSS観測に基づく能登半島北東部の地殻変動と群発地震のメカニズム
・はじめに
能登半島とその周辺では2007年の能登半島地震(M6.9)や1993年の能登半島地震(M6.6)など過去に被害地震が発生している.2018年頃から始まり,2020年12月から活発化した能登半島先端部での地震活動は,2023年5月5日にM6.5という被害地震をピークとして,2023年8月現在においても地震活動が活発な状態が続くという特徴を有している.京大防災研と金沢大学では地震活動の活発化を受けて,群発地震震源域近傍に臨時のGNSS観測を行なっているが,さらに,ソフトバンク株式会社(以下,ソフトバンク)の独自基準点と国土地理院の電子基準点(GEONET)により得られたGNSSデータを統合解析することによって,地殻変動のモニタリンングを行なっている.本研究では,GNSSデータの統合解析によって得られた地殻変動の特徴とその変動源モデルの推定結果について報告し,群発地震の発生メカニズムに関する考察を行う.
・データ解析手法及び観測された地殻変動
本研究では,各機関からRINEXデータの提供を受けて,GipsyX Ver 1.4(Bertiger et al., 2020)の精密単独測位法を用いてITRF2014準拠の日座標値を計算し,2020年11月以前の長期トレンド成分を除去して,非定常地殻変動を抽出した.地殻変動や地震活動の特徴に応じて,全体を6つの期間に分割し,それぞれの期間で変動源を推定した.非定常変動の抽出までの解析手法の詳細については,Nishimura et al.(2023)を参照願いたい. 2020年12月の活動開始当初から2023年5月のM6.5地震の直前までの地殻変動(図1(a))は,群発地震の震源域から放射状にひろがる最大約3 cmの水平変動と震源域周辺の隆起が特徴的である.最大の隆起量(約6 cm)は,珠洲市の内陸部で観測された.M6.5の地震時の地殻変動(図1(b))は,珠洲市北側の海岸付近に位置する観測点を中心に,概ね西方向へ最大約10 cmの水平変動と最大約18 cmの隆起が観測された.地震後は,地震時と同じような空間パターンの地殻変動(余効変動)が1ヶ月程度続き,7月にはかなり収まったが,北側の観測点では隆起が続いているように見える.
・地殻変動から考察した群発地震のメカニズム
地殻変動や地震活動の推移から,以下のようなメカニズムによって群発地震が引き起こされたと推測される(Nishimura et al., 2023).2020年12月から始まった活動開始の初期に,深部から大量の流体(107m3オーダー)が深さ16 kmまで上昇し,それが南東傾斜の比較的透水性の高い断層帯内を通じて周辺に拡散した.これにより断層帯では流体圧が上昇し,通常地震が発生する深度(概ね14 km)よりも深部では、非地震性すべりが誘発され2年以上にわたり継続した。一方,深さ14 kmよりも浅く地震が発生する深度では、流体圧の上昇による断層強度の低下と深部における非地震性すべりの両方の影響により,M6.5の地震を含む活発な地震活動が引き起こされた可能性がある.M6.5の地震以降の地殻変動は,M6.5地震の震源断層における南東傾斜の逆断層における余効すべりによって概ね説明できる.
・参考文献:Nishimura, T., Y. Hiramatsu, and Y. Ohta (2023), Episodic transient deformation revealed by the analysis of multiple GNSS networks in the Noto Peninsula, central Japan, Scientific Reports, 13, 8381, doi: 10.1038/s41598-023-35459-z.
・謝辞:本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは,「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じてソフトバンク株式会社とALES株式会社より提供を受けたものを使用しました.国土地理院の電子基準点RINEXデータ,気象庁一元化震源データを使用しました.京都大学及び金沢大学のGNSS観測点の設置にあたり,珠洲市教育委員会,珠洲市企画財政課,珠洲市産業振興課,珠洲市総務課,能登町教育委員会及び奥能登国際芸術祭実行委員会にお世話になりました.本研究はJSPS科研費 JP22K19949, JP23K17482の助成及び文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第二次)」の支援を受けました.ここに記して感謝いたします.
能登半島とその周辺では2007年の能登半島地震(M6.9)や1993年の能登半島地震(M6.6)など過去に被害地震が発生している.2018年頃から始まり,2020年12月から活発化した能登半島先端部での地震活動は,2023年5月5日にM6.5という被害地震をピークとして,2023年8月現在においても地震活動が活発な状態が続くという特徴を有している.京大防災研と金沢大学では地震活動の活発化を受けて,群発地震震源域近傍に臨時のGNSS観測を行なっているが,さらに,ソフトバンク株式会社(以下,ソフトバンク)の独自基準点と国土地理院の電子基準点(GEONET)により得られたGNSSデータを統合解析することによって,地殻変動のモニタリンングを行なっている.本研究では,GNSSデータの統合解析によって得られた地殻変動の特徴とその変動源モデルの推定結果について報告し,群発地震の発生メカニズムに関する考察を行う.
・データ解析手法及び観測された地殻変動
本研究では,各機関からRINEXデータの提供を受けて,GipsyX Ver 1.4(Bertiger et al., 2020)の精密単独測位法を用いてITRF2014準拠の日座標値を計算し,2020年11月以前の長期トレンド成分を除去して,非定常地殻変動を抽出した.地殻変動や地震活動の特徴に応じて,全体を6つの期間に分割し,それぞれの期間で変動源を推定した.非定常変動の抽出までの解析手法の詳細については,Nishimura et al.(2023)を参照願いたい. 2020年12月の活動開始当初から2023年5月のM6.5地震の直前までの地殻変動(図1(a))は,群発地震の震源域から放射状にひろがる最大約3 cmの水平変動と震源域周辺の隆起が特徴的である.最大の隆起量(約6 cm)は,珠洲市の内陸部で観測された.M6.5の地震時の地殻変動(図1(b))は,珠洲市北側の海岸付近に位置する観測点を中心に,概ね西方向へ最大約10 cmの水平変動と最大約18 cmの隆起が観測された.地震後は,地震時と同じような空間パターンの地殻変動(余効変動)が1ヶ月程度続き,7月にはかなり収まったが,北側の観測点では隆起が続いているように見える.
・地殻変動から考察した群発地震のメカニズム
地殻変動や地震活動の推移から,以下のようなメカニズムによって群発地震が引き起こされたと推測される(Nishimura et al., 2023).2020年12月から始まった活動開始の初期に,深部から大量の流体(107m3オーダー)が深さ16 kmまで上昇し,それが南東傾斜の比較的透水性の高い断層帯内を通じて周辺に拡散した.これにより断層帯では流体圧が上昇し,通常地震が発生する深度(概ね14 km)よりも深部では、非地震性すべりが誘発され2年以上にわたり継続した。一方,深さ14 kmよりも浅く地震が発生する深度では、流体圧の上昇による断層強度の低下と深部における非地震性すべりの両方の影響により,M6.5の地震を含む活発な地震活動が引き起こされた可能性がある.M6.5の地震以降の地殻変動は,M6.5地震の震源断層における南東傾斜の逆断層における余効すべりによって概ね説明できる.
・参考文献:Nishimura, T., Y. Hiramatsu, and Y. Ohta (2023), Episodic transient deformation revealed by the analysis of multiple GNSS networks in the Noto Peninsula, central Japan, Scientific Reports, 13, 8381, doi: 10.1038/s41598-023-35459-z.
・謝辞:本研究で使用したソフトバンクの独自基準点の後処理解析用データは,「ソフトバンク独自基準点データの宇宙地球科学用途利活用コンソーシアム」の枠組みを通じてソフトバンク株式会社とALES株式会社より提供を受けたものを使用しました.国土地理院の電子基準点RINEXデータ,気象庁一元化震源データを使用しました.京都大学及び金沢大学のGNSS観測点の設置にあたり,珠洲市教育委員会,珠洲市企画財政課,珠洲市産業振興課,珠洲市総務課,能登町教育委員会及び奥能登国際芸術祭実行委員会にお世話になりました.本研究はJSPS科研費 JP22K19949, JP23K17482の助成及び文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第二次)」の支援を受けました.ここに記して感謝いたします.