[S22P-08] Vertical crustal deformation associated with the 2023 M6.5 Noto Peninsula earthquake, based on littoral biological remains
2023年5月5日に石川県能登地方で発生したマグニチュード6.5の地震では,GNSS観測等により地殻変動が観測された.また陸域観測技術衛星2号「だいち2号」が観測した合成開口レーダー画像のSAR干渉解析結果(2022年4月21日と5月5日の比較および2022年4月9日と5月7日の比較)では,最大20 cm程度衛星に近づく地殻変動が検出され(国土地理院,2023),地盤の隆起が生じたことを示している.能登半島は長期的に見ると数10万年前から継続して隆起しており,筆者らは今回の地震以前より能登半島北部沿岸において,過去の海岸の隆起を記録した完新世海岸段丘や生物遺骸群集の調査を継続して実施してきた(宍倉ほか,2020).今回の地震でも地盤の隆起によって海岸の離水現象が生じたとみられることから,地震直後の5月13日から15日にかけて現地調査を実施し,地震に伴う地殻上下変動について明らかにするとともに,海岸段丘の高度分布との関係について検討した.
筆者らは能登半島北部沿岸に分布する完新世海岸段丘および岩礁の固着生物遺骸群集について,2008年から2022年にかけて各所で高度を測定しており,基準となる地震前の高度データをすでに保持している.そこで今回の地震後に同じ地点でVRS-RTKを用いて再び高度を測定し,地震前後の高度変化から地殻上下変動量を見積もった.また現地では海面付近に生息するカンザシゴカイ類やオオヘビガイなどが,今回の地震による隆起で離水して死滅したり,石灰藻が白化したりする様子が観察されたことから,これらの高度についても測定し,地震後も生息している部分との高度差で地殻上下変動量を見積もった.
今回の調査では20箇所以上で地殻上下変動量のデータを取得することができた.その結果,最大の隆起を記録したのは高屋と折戸における24 cmである.これはSAR干渉解析で最大変動(約20 cm)の生じた位置とおおよそ一致するが,上下方向の変動(隆起量)としてはやや大きい値を示す.また最大の隆起を記録した地点から海岸沿いに西側に向かって隆起量は徐々に減少し,馬緤付近で10〜15 cm,真浦付近で5 cmとなるが,これはSAR干渉解析結果と傾向は概ね一致する.一方,高屋や折戸より東側の海岸沿いでは隆起量は西側ほど減少せず,禄剛崎付近で19 cm,珠洲岬付近で18 cm,寺家付近で15 cmと比較的大きい.これはSAR干渉解析結果とは一致しない.この不一致については,実際に地震時の隆起が東側で大きかった可能性のほか,地震後現地調査までの1週間程度の間に東側のみ隆起する地殻変動を生じた可能性や,あるいは今回の地震の2年以上前から継続する群発地震活動等に伴う地殻変動ですでに離水が始まっていた可能性も考えられる.
次に今回明らかになった地震時の地殻上下変動と海岸段丘の高度分布との関係についてみてみる.本地域の海岸段丘は,更新世後期(MIS5e)の段丘,完新世段丘ともに馬緤付近で最も高度が高く,そこから東西に向かって高度を減じていく傾向にある(宍倉ほか,2020).これを今回の地震の地殻上下変動の傾向と比べると,隆起のピークの位置が一致しない.したがって長期的に見ると能登半島北部の地殻上下変動は,今回の地震の地殻上下変動とは別の変動の要素も考慮する必要がある.今後さらに調査を進めて地震時および長期的な地殻変動の実態を解明し,様々な解析を通して震源との関係を探っていかなければならない.
筆者らは能登半島北部沿岸に分布する完新世海岸段丘および岩礁の固着生物遺骸群集について,2008年から2022年にかけて各所で高度を測定しており,基準となる地震前の高度データをすでに保持している.そこで今回の地震後に同じ地点でVRS-RTKを用いて再び高度を測定し,地震前後の高度変化から地殻上下変動量を見積もった.また現地では海面付近に生息するカンザシゴカイ類やオオヘビガイなどが,今回の地震による隆起で離水して死滅したり,石灰藻が白化したりする様子が観察されたことから,これらの高度についても測定し,地震後も生息している部分との高度差で地殻上下変動量を見積もった.
今回の調査では20箇所以上で地殻上下変動量のデータを取得することができた.その結果,最大の隆起を記録したのは高屋と折戸における24 cmである.これはSAR干渉解析で最大変動(約20 cm)の生じた位置とおおよそ一致するが,上下方向の変動(隆起量)としてはやや大きい値を示す.また最大の隆起を記録した地点から海岸沿いに西側に向かって隆起量は徐々に減少し,馬緤付近で10〜15 cm,真浦付近で5 cmとなるが,これはSAR干渉解析結果と傾向は概ね一致する.一方,高屋や折戸より東側の海岸沿いでは隆起量は西側ほど減少せず,禄剛崎付近で19 cm,珠洲岬付近で18 cm,寺家付近で15 cmと比較的大きい.これはSAR干渉解析結果とは一致しない.この不一致については,実際に地震時の隆起が東側で大きかった可能性のほか,地震後現地調査までの1週間程度の間に東側のみ隆起する地殻変動を生じた可能性や,あるいは今回の地震の2年以上前から継続する群発地震活動等に伴う地殻変動ですでに離水が始まっていた可能性も考えられる.
次に今回明らかになった地震時の地殻上下変動と海岸段丘の高度分布との関係についてみてみる.本地域の海岸段丘は,更新世後期(MIS5e)の段丘,完新世段丘ともに馬緤付近で最も高度が高く,そこから東西に向かって高度を減じていく傾向にある(宍倉ほか,2020).これを今回の地震の地殻上下変動の傾向と比べると,隆起のピークの位置が一致しない.したがって長期的に見ると能登半島北部の地殻上下変動は,今回の地震の地殻上下変動とは別の変動の要素も考慮する必要がある.今後さらに調査を進めて地震時および長期的な地殻変動の実態を解明し,様々な解析を通して震源との関係を探っていかなければならない.