日本地震学会2023年度秋季大会

講演情報

B会場

特別セッション » S23. 大正関東地震から100年:関東地方における地震研究の展開

[S23] AM-2

2023年10月31日(火) 11:00 〜 12:15 B会場 (F201)

座長:室谷 智子(国立科学博物館)、山下 幹也(産業技術総合研究所)

11:45 〜 12:00

[S23-08] 千葉県北東部の地震による茨城県南東部の強震動

*植竹 富一1、引間 和人1 (1. 東京電力ホールディングス㈱)

1. はじめに
2023年5月26日に千葉県東方沖でMj6.2のプレート境界型の地震が発生した.この地震では震央の北から北東側で震度5弱を観測している.震央の北側,約30kmに位置する鹿島火力発電所で得られた広帯域速度計記録にはS波初動より4秒ほど遅れて震幅の大きなパルス状の波群が確認された.この波群で最大速度(EW成分:17.9 cm/s)・最大加速度(EW成分:218 cm/s2)を記録していることから,この特異な波群について分析を行うこととした.また,今回の震源周辺では繰り返しMj6クラスの地震が発生していることから,過去に得られた記録との比較も行った.
2.観測波形の特徴
千葉・茨城両県内の強震記録(加速度記録)を収集し,0.1~20 Hzのバンドパスフィルター波形を掛けて積分して速度波形を作成した.その結果,震央の北東側にあたる千葉県銚子市から茨城県鹿島市にかけての地域で速度振幅が大きく,特にEW成分が大きくなっていることが明らかとなった.震央の北東側の波形の特徴として周期の長い片揺れ的なS波初動とパルス状の後続波が認められ,パルス状の後続波で最大速度値を記録している.パルス状の後続波の見かけ速度はS波初動部より若干遅い.なお,震央から西側の観測点では明瞭なパルス波は確認出来なかった.
3. 過去の地震記録との比較
2011年以降,2023年5月26日の震央付近ではMj5.5以上の地震が8地震発生している.海域には今回の地震を含む4地震,陸域に4地震である.8地震の震源深さは43~50kmで,メカニズム解は低角逆断層型で類似している.鹿島火力発電所における8地震のEW成分波形を図に示す.波形は海陸の地震4地震に類似性が見られ,波形途中にS波初動部より短周期のパルス波が顕著である.パルス波とS波初動との時間差もほぼ一定であり,2011年4月21日(Mj6.0)と2023年5月26日(Mj6.2)の波形を重ねると波形の山谷が一致する.周辺のK-NET,KiK-netの波形でも同様な結果である.パルス波は構造的な要因で生成している波と推定される.一方,陸域の4地震では相互の類似性は見られるものの,海域側のような顕著なパルス波は見られない.10km程度の震源位置の違いで地震波の伝播性状が異なり波形の特徴が大きく変化している. この地域は陸のプレート,フィリピン海プレート,太平洋プレートの三層構造となっており,地震波の複雑な挙動が予想される.プレート形状がモデル化されているJISVM[Koketsu et al.(2012)]から,2023年5月26日の震央付近の地下構造を抽出した1次元構造とF-netのメカニズム解を用いて鹿島火力の波形を計算してみた.計算には,Reflectivity法[Kohketsu(1985)]を用いた.計算された波形は,S波初動が大きく陸域側で発生した地震の波形と類似性が見られたが,パルス波の再現は出来なかった.地下構造モデルの高度化と三次元的な波動伝播性状の検討が必要と考えられる.
4.まとめ
2023年5月23日千葉県東方沖の地震(Mj6.2)の際に,鹿島火力の観測波形に認められた顕著な後続パルス波について検討を行った.この後続パルス波は,震央の北東側の限られた地域で観測され強震動特性に影響を与えていた.同じ震源域で発生した規模の異なる地震でも同様なパルス波が観測されており,地下構造によって生成された波群であると推定された.強震動予測の精度向上のためには,プレート構造を含めた同地域の地下構造モデルの高度化を図る必要がある.
謝辞
鹿島火力の速度計記録に加え,気象庁の震度計,防災科研のK-NET,KiK-net,MeSO-netの加速度データを使用いたしました.気象庁による震源データ,防災科研F-netのメカニズム解データを使用しました.作図にはGMT6[Wessel et al. (2019)]を用いました.記して感謝いたします.