09:45 〜 10:00
[S01-04] 修正経験的グリーン関数法による強震動予測結果の位相波選択に起因する変動
1.研究の背景と実施内容
強震動予測手法である修正経験的グリーン関数法1), 2)では,小断層の位相として,実際の観測波(位相波)の位相を用いるのが特徴である.実際に発生した大地震の観測波の再現を目的とする強震動評価では,強震動評価結果がより観測波の特徴を再現できるように位相波を選択すればよい.一方,確率論的地震ハザード解析(以降,PSHAと表記する)においては,想定される地震に対して強震動予測を行う必要がある.その際にも位相波を設定する必要があるが,その位相波の選択による強震動予測結果の変動についてはよく分かっていない.なお,上記で想定しているPSHAは,フーリエスペクトルを用いたPSHA(詳細は文献3を参照)であり,位相波の選択が地震ハザードの計算結果に影響する.そこで本研究では位相波の選択が修正経験的グリーン関数法による強震動予測結果に及ぼす影響について検討した.なお,波形の重ね合わせに伴う変動は対象とせず,小地震波形を作成する段階での変動を対象とした.
2.検討対象とした地震
本研究では,港湾地域強震観測網の観測点のうち観測記録数が比較的多い相馬-O(緯度:37°49.9',経度:140°57.6',旧相馬Gと同位置)を対象とし,2011年3月~2024年7月までに発生した地震のうち,気象庁マグニチュードが5.7~6.0で,福島県東方沖を震源とする全9つの地震(相馬-Oの記録で条件に合致するもの全て)を対象にした.入射方向が同程度である地震を対象とするため,震源位置は(記録数の多い)福島県東方沖のものを対象とした.点震源を仮定して計算できる規模の地震を対象に位相の影響を確認するため,気象庁マグニチュードで5.7~6.0の範囲のものを対象とした.使用した地震の一覧(発震日時,緯度,経度,深さ(km),震央距離(km)の順に記載)を以下に示す.
1. 2018/7/31 17:42:00, 37°09.4’,141°13.8’,20.5,78.6
2. 2018/2/26 1:28:00,37°32.3’,141°45.8’,39.8,77.7
3. 2017/10/6 23:56:00,37°05.3’,141°09.3’,52.7,84.3
4. 2017/7/20 9:11:00,37°20.5’,141°35.3’,45.8,77.6
5. 2017/2/28 16:49:00, 37°30.9’,141°22.0’,52.4,50.2
6. 2016/11/22 23:03:00,37°10.7’,141°26.7’,28.4,84.1
7. 2016/11/22 6:39:00,37°14.6’,141°22.7’,22.3,75
8. 2016/6/27 7:57:00,36°59.4’,142°24.1’,19.2,157.8
9. 2016/4/20 21:19:00,37°46.3’,141°41.3’,48.5,64.3
3.修正経験的グリーン関数法を用いた強震動評価結果の変動の評価
2.で示した9つの地震記録のうち,4番の記録(9つの記録中で震央距離が中程度のものを選択)を対象に,修正経験的グリーン関数法を用いた強震動評価を実施した.その際,地震モーメントM0とコーナー周波数fcは,加速度フーリエ振幅スペクトルの観測結果と計算結果の残差自乗和を最小化するように推定した.具体的には,まず,fcを十分大きな値に固定(1.5に固定)した上で,0.2~0.5Hzの残差自乗和を最小化するようにM0を推定し,その後に,推定したM0を用いて,0.2~10.0Hzの残差自乗和を最小化するようにfcを推定した.また経験的サイト増幅特性を用いた.推定したM0(=6.928×1023 dyne-cm)とfc(=2.590 Hz)を用いて修正経験的グリーン関数法で計算した加速度フーリエ振幅スペクトルと観測記録の加速度フーリエ振幅スペクトルを図(左)に示す.(残り)8つの地震記録を位相波として用いて速度波形(単位はcm/s)を計算した結果を観測波形と比較して図(右)に黒線で示す(計算結果の最大速度,観測結果(青線)も併せて示す).ここでは,入射方向とマグニチュードが近い地震を用いているが,それでも選定する位相波によって,強震動予測結果(速度波形)にある程度の違いが生じることが分かる.また,最大速度の標準偏差(本稿で標準偏差は,不偏推定量として求めた分散の1/2乗として計算した)は,約0.322(NS成分),約0.163(EW成分)となった.最大速度について,常用対数をとった上で,その標準偏差を求めると,約0.130(NS成分),約0.080(EW成分)となった.これは,著者らが既往研究で経験的サイト増幅特性を評価した際の個別記録の残差(常用対数表示)の標準偏差の全国10地点での平均値4)(全国平均値について,周波数方向に0.2Hz~2.0Hzでさらに平均をとった数値)である0.15と比較しても,小さい変動とはいえない.これは,フーリエスペクトルを用いたPSHAにおける位相波選択の重要性を示唆するものであるともいえる.なお,これはあくまで位相波選択の影響が比較的出やすいと考えられる最大速度に着目した比較であり,今後,他の指標でも比較を行っていく予定である.
参考文献
1)古和田明, 田居優, 岩崎好規, 入倉孝次郎: 経験的サイト増幅・位相特性を用いた水平動および上下動の強震動評価, 日本建築学会構造系論文集, No.514, 1997.
2)野津厚: 地震工学に関する解説書(修正経験的グリーン関数法)(https://www.pari.go.jp/bsh/jbn-kzo/jbn-bsi/taisin/tutorial_jpn/tutorial_049.pdf)
3)竹信正寛, 野津厚, 宮田正史, 佐藤裕司. 浅井茂樹: 確率論的時刻歴波形として規定される港湾におけるレベル1地震動の設定に関する包括的整理,国土技術政策総合研究所資料, No.812, 2014.
4)菅原法城,竹信正寛,野津厚,長坂陽介,山田雅行,江口拓生,佐野新: 臨時の地震観測に基づき評価された設計入力地震動のばらつきに関する推定段階の要因に着目した定量的評価, 地震工学シンポジウム論文集, 2023.
強震動予測手法である修正経験的グリーン関数法1), 2)では,小断層の位相として,実際の観測波(位相波)の位相を用いるのが特徴である.実際に発生した大地震の観測波の再現を目的とする強震動評価では,強震動評価結果がより観測波の特徴を再現できるように位相波を選択すればよい.一方,確率論的地震ハザード解析(以降,PSHAと表記する)においては,想定される地震に対して強震動予測を行う必要がある.その際にも位相波を設定する必要があるが,その位相波の選択による強震動予測結果の変動についてはよく分かっていない.なお,上記で想定しているPSHAは,フーリエスペクトルを用いたPSHA(詳細は文献3を参照)であり,位相波の選択が地震ハザードの計算結果に影響する.そこで本研究では位相波の選択が修正経験的グリーン関数法による強震動予測結果に及ぼす影響について検討した.なお,波形の重ね合わせに伴う変動は対象とせず,小地震波形を作成する段階での変動を対象とした.
2.検討対象とした地震
本研究では,港湾地域強震観測網の観測点のうち観測記録数が比較的多い相馬-O(緯度:37°49.9',経度:140°57.6',旧相馬Gと同位置)を対象とし,2011年3月~2024年7月までに発生した地震のうち,気象庁マグニチュードが5.7~6.0で,福島県東方沖を震源とする全9つの地震(相馬-Oの記録で条件に合致するもの全て)を対象にした.入射方向が同程度である地震を対象とするため,震源位置は(記録数の多い)福島県東方沖のものを対象とした.点震源を仮定して計算できる規模の地震を対象に位相の影響を確認するため,気象庁マグニチュードで5.7~6.0の範囲のものを対象とした.使用した地震の一覧(発震日時,緯度,経度,深さ(km),震央距離(km)の順に記載)を以下に示す.
1. 2018/7/31 17:42:00, 37°09.4’,141°13.8’,20.5,78.6
2. 2018/2/26 1:28:00,37°32.3’,141°45.8’,39.8,77.7
3. 2017/10/6 23:56:00,37°05.3’,141°09.3’,52.7,84.3
4. 2017/7/20 9:11:00,37°20.5’,141°35.3’,45.8,77.6
5. 2017/2/28 16:49:00, 37°30.9’,141°22.0’,52.4,50.2
6. 2016/11/22 23:03:00,37°10.7’,141°26.7’,28.4,84.1
7. 2016/11/22 6:39:00,37°14.6’,141°22.7’,22.3,75
8. 2016/6/27 7:57:00,36°59.4’,142°24.1’,19.2,157.8
9. 2016/4/20 21:19:00,37°46.3’,141°41.3’,48.5,64.3
3.修正経験的グリーン関数法を用いた強震動評価結果の変動の評価
2.で示した9つの地震記録のうち,4番の記録(9つの記録中で震央距離が中程度のものを選択)を対象に,修正経験的グリーン関数法を用いた強震動評価を実施した.その際,地震モーメントM0とコーナー周波数fcは,加速度フーリエ振幅スペクトルの観測結果と計算結果の残差自乗和を最小化するように推定した.具体的には,まず,fcを十分大きな値に固定(1.5に固定)した上で,0.2~0.5Hzの残差自乗和を最小化するようにM0を推定し,その後に,推定したM0を用いて,0.2~10.0Hzの残差自乗和を最小化するようにfcを推定した.また経験的サイト増幅特性を用いた.推定したM0(=6.928×1023 dyne-cm)とfc(=2.590 Hz)を用いて修正経験的グリーン関数法で計算した加速度フーリエ振幅スペクトルと観測記録の加速度フーリエ振幅スペクトルを図(左)に示す.(残り)8つの地震記録を位相波として用いて速度波形(単位はcm/s)を計算した結果を観測波形と比較して図(右)に黒線で示す(計算結果の最大速度,観測結果(青線)も併せて示す).ここでは,入射方向とマグニチュードが近い地震を用いているが,それでも選定する位相波によって,強震動予測結果(速度波形)にある程度の違いが生じることが分かる.また,最大速度の標準偏差(本稿で標準偏差は,不偏推定量として求めた分散の1/2乗として計算した)は,約0.322(NS成分),約0.163(EW成分)となった.最大速度について,常用対数をとった上で,その標準偏差を求めると,約0.130(NS成分),約0.080(EW成分)となった.これは,著者らが既往研究で経験的サイト増幅特性を評価した際の個別記録の残差(常用対数表示)の標準偏差の全国10地点での平均値4)(全国平均値について,周波数方向に0.2Hz~2.0Hzでさらに平均をとった数値)である0.15と比較しても,小さい変動とはいえない.これは,フーリエスペクトルを用いたPSHAにおける位相波選択の重要性を示唆するものであるともいえる.なお,これはあくまで位相波選択の影響が比較的出やすいと考えられる最大速度に着目した比較であり,今後,他の指標でも比較を行っていく予定である.
参考文献
1)古和田明, 田居優, 岩崎好規, 入倉孝次郎: 経験的サイト増幅・位相特性を用いた水平動および上下動の強震動評価, 日本建築学会構造系論文集, No.514, 1997.
2)野津厚: 地震工学に関する解説書(修正経験的グリーン関数法)(https://www.pari.go.jp/bsh/jbn-kzo/jbn-bsi/taisin/tutorial_jpn/tutorial_049.pdf)
3)竹信正寛, 野津厚, 宮田正史, 佐藤裕司. 浅井茂樹: 確率論的時刻歴波形として規定される港湾におけるレベル1地震動の設定に関する包括的整理,国土技術政策総合研究所資料, No.812, 2014.
4)菅原法城,竹信正寛,野津厚,長坂陽介,山田雅行,江口拓生,佐野新: 臨時の地震観測に基づき評価された設計入力地震動のばらつきに関する推定段階の要因に着目した定量的評価, 地震工学シンポジウム論文集, 2023.