日本地震学会2024年度秋季大会

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C会場

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

[S01] PM-1

2024年10月23日(水) 13:30 〜 14:00 C会場 (3階中会議室302)

座長:深畑 幸俊(京都大学防災研究所 地震災害研究センター)

13:45 〜 14:00

[S01-14] 断層すべりインバージョンにおける誤差についての考察

*深畑 幸俊1 (1. 京都大学)

インバージョン解析では,誤差の取り扱いが本質的に重要である.特に,データ間で誤差が相関を持つときに,その効果を適切に取り入れないと,解が大きく歪められる(例えば,Fukahata & Wright, 2008, GJI; Yagi & Fukahata, 2008, 2011, GJI).それでは, 誤差は実際にどのような相関を持つのだろうか.この問題に答えるためには,誤差の成因に遡って考える必要がある.もう15年も前の連合大会で考察した結果を発表したが(深畑・八木, 2009, JpGU),現在インバージョン解析の教科書を執筆中であり(松浦・深畑,「地球物理データの逆解析:理論と応用」,東大出版,執筆中),この問題について改めて考えた.
 誤差の成因に遡って考える必要があると述べたように,誤差がどのような項から成るかは個別の問題によって異なる.つまり,誤差の取り扱いの本質は,一般論ではなく具体論にある.本稿では,断層すべりインバージョンを例に取り上げる.
 断層すべりインバージョンでは,地表(あるいは地中)での観測変位(あるいは速度や加速度)から,断層面上でのすべり(あるいはすべり速度)分布を推定する.断層面上のすべりと地表の変位とはグリーン関数を介して結ばれる.この問題をインバージョン解析として定式化するにあたり,どこに誤差が入り込むだろうか.
 まず,誤差を定義するにあたっては,「真値」というものを考える必要がある.観測値も含め「真値」は一般に不可知であるが,概念としては存在する.この「真値」からのずれとして「誤差」を考える.その誤差として,(1)モデル化に伴う誤差,(2)グリーン関数に係わる誤差,(3)観測に係わる誤差,の3つに大きく分類できると私は考えている.以下,それぞれの誤差の中身を見てみよう.
 (1)モデル化に伴う誤差は,狭義には離散化誤差と呼ばれるものである.すべり分布は一般に極めて大きな自由度を持つが,インバージョン解析によって推定するために通常有限個のパラメタでその分布を表現する,即ちすべり分布を有限個のパラメタでモデル化する.このモデル化に際して,真値と推定するすべり分布との間に,不可避的にずれが生じる.これは通常「離散化誤差」と呼ばれ,グリーン関数により誤差伝播するという特徴を持っている(Yagi & Fukahata, 2008).しかし,もう少しよく考えてみると,実は仮定した断層面と真の断層面とが一般には一致しないことにも気付く.つまり,一般には,断層面の違いも含めて,モデル化に際して誤差が生じている.
 (2)グリーン関数に係わる誤差としてすぐに思い浮かぶのは,(2-1)「構造に起因する誤差」である.真の構造とグリーン関数の導出において仮定した構造とは一般に異なる.そのためこの誤差が生じる.しかし,グリーン関数に係わる誤差は,構造の誤差に留まらない.グリーン関数は一般に,断層面の位置と向きにも依存するので,(2-2)「断層面の位置の誤差」,(2-3)「断層面の向きの誤差」,も一般に生じる.なお,グリーン関数の誤差は,推定する断層すべりとの積の形で観測データと結び付けられるため,この誤差を取り入れるとインバージョン解析は一般に非線形になる(Yagi & Fukahata, 2011).
 (3)観測に係わる誤差,としてこれまたすぐに思い付くのは,(3-1)「観測誤差」である.これは,どれだけ力を尽くしても,観測変位は真の変位に一般には一致しないことから生じる.しかし,通常の「観測誤差」に加えて,(3-2)「非シグナルノイズ」とでも呼べる誤差がある.断層すべりインバージョン解析において,観測変位からすべり分布を推定するが,観測変位には,例えば潮汐など,断層すべり以外の寄与も一般に含まれる.この「非シグナルノイズ」の寄与は,例えばプレート間カップリングなど,非地震時変動の解析において特に重要となる.更に,真の観測点位置,真の観測時刻を知らないために生じる,(3-3)「観測点の位置の誤差」,(3-4)「観測点の計時誤差」,も一般に存在する.「観測点の計時誤差」は地震観測においてかつては非常に重要だったが,現在ではGPSの登場によって問題にならないレベルとなっている.
 実際にインバージョン解析を行うにあたり,ここで挙げた各誤差項について,全てを取り入れる必要はなく,また現実的でもないが,どの項を無視しているかは意識しておいた方が良いだろう.より良いインバージョン解析に向けて本発表がその一助となれば幸いである.