10:15 AM - 10:30 AM
[S02-06] Monitoring crustal activities in wide area by real-time strain observation in the Nankai Trough seismogenic zone.
南海トラフでは巨大地震が繰り返し発生しており、近年の観測から震源域の周辺深部・浅部でゆっくり滑りも繰り返し発生している。沈み込むプレート境界の固着の状況を把握し、その推移を検討するには、プレート境界域で生ずる歪蓄積と解放の履歴を観測・把握することが必要だと考える。履歴を正確に追跡するためには、年単位~1/100秒、しかもプレート沈み込み収束変形~巨大地震滑りという非常に広い帯域、ダイナミックレンジの観測が同時に行える必要がある。南海トラフ海域では、地殻変動はGNSS/A、地震・津波はDONET等海底ケーブル観測網による観測がそれぞれ行われているが、上記の帯域・ダイナミックレンジをカバーできていない。私たちは、海底および海底掘削孔内で地殻歪を観測することで、上記帯域・ダイナミックレンジを包括したプレート境界域の観測・監視が実現できるのではないかと考え、試験的な観測を行ってきたので、本稿ではその取り組みとこれまでに得られている成果について紹介する。
地下の断層変位が起こると、地震波が発生するだけではなく、弾性体変形によって、海底面にも断層変位に伴う海底面歪変化が生ずると考えられる。南海トラフ浅部のプレート境界の断層滑りを定量的にとらえることを目指し、200m長の光ファイバーを海底面に展張し、その歪変化をマイケルソン光干渉によって精密に計測する海底光ファイバ歪計を2019年から紀伊水道沖に展開した。観測データはDONETに歪計を接続することによって、リアルタイム・長期連続に得られる。この観測によって、2022年に地域で発生したVLFEの群発活動の背景に、ゆっくりとした歪変化(浅部ゆっくり滑り)が伴っていることを見出した。また、近傍で発生したVLFEに伴う歪変化も観測されたことから、海底面での精密歪観測によってプレート境界面の断層運動を直接的に評価することが可能であることが示された。海底光ファイバ歪観測は、多成分化などをこれまでに行ってきたが、今後、熊野灘への展開、そして、日向灘での2地点でのオフライン観測を2025年に開始すべく開発を進めている。
一方、海底面の軟弱な表層堆積物に敷設された光ファイバによる歪計測では、大きな地震に伴う地殻変動の観測は堆積物の弾性的な振る舞いが期待しづらく、また、光ファイバと堆積物のカップリングも変化するため困難がある。これには、海底深部に掘削した孔内での観測が本質的な解決と考えている。これまでIODP南海掘削計画で熊野灘の3か所に孔内観測点の設置・観測を行ってきたが、2023年には「ちきゅう」で紀伊水道の海底光ファイバ歪計を敷設した海域の近傍に、新たに海底下500m まで孔を掘り、孔内の間隙水圧と新たに開発した孔内光ファイバセンサを設置し、安定な地層での地殻歪観測を行えるようにした。ここでの観測はDONET2に接続することで2024年1月から連続的に行えており、これまで、2024/4/17豊後水道M6.6地震、2024/8/8 日向灘M7.1地震等比較的大きな地震動を孔内間隙水圧・光ファイバ歪それぞれで明瞭にとらえることができた。これらの比較的大きな地震動の孔内の間隙水圧・歪応答を調べると、海底での光ファイバ歪観測のように地震時の地層とのカップリング変化に伴うランダムな振る舞いは見られないものの、陸上の浅い孔井での歪観測等に見られるように地震時に比較的ゆっくりとした( 500秒~)変動が地震動に重畳して見られた。この変化は、海底孔内でも浅部の柔らかい堆積層での計測に共通してみられ、いずれもdilatation方向の変化であることから、地震動に対する堆積物の変化によるものと考えられ、地震時地殻変動の評価においては注意が必要である。また、孔内間隙水圧と孔内光ファイバ歪を比べると、ゆっくりとした変動に関して、異なった応答を示していることは、孔内の水理学的変動によるものと考えられ、単純な弾性体としての扱いから一歩踏み込んだデータ解析・解釈が必要であることを示唆している。
最後に、沈み込むプレート境界域の広域歪変化を把握することを目指して、室戸沖海底に敷設された120kmの海底ケーブルにおける連続的な分布型光ファイバ歪計測を2021年より行っている。現在は、高安定レーザーを用いたDAS観測装置によって、浅部ゆっくり滑りの観測も見据えた広帯域観測を110km沖合まで行っており、2024/1/1能登地震の後に室戸沖沖合で発生した浅部低周波微動を明瞭にとらえることができた。このような海底ケーブルの分布歪観測は、今後DONETやNnetでも実施することが可能と考えており、既存の観測網ではとらえられない広帯域の地殻現象のリアルタイム把握に有効であると考えられる。
地下の断層変位が起こると、地震波が発生するだけではなく、弾性体変形によって、海底面にも断層変位に伴う海底面歪変化が生ずると考えられる。南海トラフ浅部のプレート境界の断層滑りを定量的にとらえることを目指し、200m長の光ファイバーを海底面に展張し、その歪変化をマイケルソン光干渉によって精密に計測する海底光ファイバ歪計を2019年から紀伊水道沖に展開した。観測データはDONETに歪計を接続することによって、リアルタイム・長期連続に得られる。この観測によって、2022年に地域で発生したVLFEの群発活動の背景に、ゆっくりとした歪変化(浅部ゆっくり滑り)が伴っていることを見出した。また、近傍で発生したVLFEに伴う歪変化も観測されたことから、海底面での精密歪観測によってプレート境界面の断層運動を直接的に評価することが可能であることが示された。海底光ファイバ歪観測は、多成分化などをこれまでに行ってきたが、今後、熊野灘への展開、そして、日向灘での2地点でのオフライン観測を2025年に開始すべく開発を進めている。
一方、海底面の軟弱な表層堆積物に敷設された光ファイバによる歪計測では、大きな地震に伴う地殻変動の観測は堆積物の弾性的な振る舞いが期待しづらく、また、光ファイバと堆積物のカップリングも変化するため困難がある。これには、海底深部に掘削した孔内での観測が本質的な解決と考えている。これまでIODP南海掘削計画で熊野灘の3か所に孔内観測点の設置・観測を行ってきたが、2023年には「ちきゅう」で紀伊水道の海底光ファイバ歪計を敷設した海域の近傍に、新たに海底下500m まで孔を掘り、孔内の間隙水圧と新たに開発した孔内光ファイバセンサを設置し、安定な地層での地殻歪観測を行えるようにした。ここでの観測はDONET2に接続することで2024年1月から連続的に行えており、これまで、2024/4/17豊後水道M6.6地震、2024/8/8 日向灘M7.1地震等比較的大きな地震動を孔内間隙水圧・光ファイバ歪それぞれで明瞭にとらえることができた。これらの比較的大きな地震動の孔内の間隙水圧・歪応答を調べると、海底での光ファイバ歪観測のように地震時の地層とのカップリング変化に伴うランダムな振る舞いは見られないものの、陸上の浅い孔井での歪観測等に見られるように地震時に比較的ゆっくりとした( 500秒~)変動が地震動に重畳して見られた。この変化は、海底孔内でも浅部の柔らかい堆積層での計測に共通してみられ、いずれもdilatation方向の変化であることから、地震動に対する堆積物の変化によるものと考えられ、地震時地殻変動の評価においては注意が必要である。また、孔内間隙水圧と孔内光ファイバ歪を比べると、ゆっくりとした変動に関して、異なった応答を示していることは、孔内の水理学的変動によるものと考えられ、単純な弾性体としての扱いから一歩踏み込んだデータ解析・解釈が必要であることを示唆している。
最後に、沈み込むプレート境界域の広域歪変化を把握することを目指して、室戸沖海底に敷設された120kmの海底ケーブルにおける連続的な分布型光ファイバ歪計測を2021年より行っている。現在は、高安定レーザーを用いたDAS観測装置によって、浅部ゆっくり滑りの観測も見据えた広帯域観測を110km沖合まで行っており、2024/1/1能登地震の後に室戸沖沖合で発生した浅部低周波微動を明瞭にとらえることができた。このような海底ケーブルの分布歪観測は、今後DONETやNnetでも実施することが可能と考えており、既存の観測網ではとらえられない広帯域の地殻現象のリアルタイム把握に有効であると考えられる。