14:30 〜 14:45
[S03-03] ハイレートGNSSデータの変曲点自動検出:数値実験と房総半島付近におけるスロースリップイベントの事例
スロー地震の多様な時間スケールにおける研究が進められている中、100秒~1日程度の継続時間を持つイベントの検出は難しい(e.g., Ide and Beroza, 2023)。さらに、長い継続時間を持つイベントが、より短いイベントの集合体である可能性についての議論も活発に行われている(e.g., Frank and Brodsky, 2019)。このため、スロー地震の理解を深める上で、短いサンプリング間隔での測地学的観測データを用いたスロースリップイベント(SSE)の検出が重要である。
本研究では、1日より短いサンプリング間隔を持つハイレートGNSSデータを用いて、網羅的なイベント検出方法について検討する。このために、Nevada Geodetic Laboratoryが提供する5分間隔の精密単独測位解データセット(e.g., 三井・新井, 2023)を使用した。我々が以前に行った予備研究では、ハイレートGNSSデータのノイズが大きいため、1日サンプリングデータで行われているテンプレートマッチングによるシグナル検出(e.g., Rousset et al., 2017)が困難であることがわかった。そこで、イベントの開始時刻と終了時刻に生じる時系列データの変曲点を自動で検出する手法(Taylor and Letham, 2017)を採用した。具体的には、変曲点の候補を多数設定し、事前分布としてラプラス分布を仮定した最大事後確率推定に基づく折れ線回帰を用いて、有意な変曲点を抽出する。
まず、実際のハイレートGNSSデータのノイズ特性解析に基づいて作成した人工時系列データで、変曲点解析の設定の検討(数値実験)を行った。GNSSデータのノイズスペクトルは一般にホワイトノイズ的ではなく、周波数に依存した成分を持つことが知られている(e.g., Genrich and Bock, 2006; Geng et al., 2018)。このことがシグナル検出に影響を与えていると考え、観測データに含まれるノイズのパワースペクトル密度の形状を調べた。次に、観測データのパワースペクトル密度の形状を単純化したパワースペクトル密度を持つノイズにClipped ReLU関数のシグナルを足して、人工データを作成した。この人工データを用いて、変曲点検知によるシグナル検出数値実験を行った。シグナルの変位量および変位期間を変えたとき、正解の位置に変曲点を検知できるか否かで、シグナル検出の結果を評価した。解析のための設定として、ラプラス分布のパラメタτおよび変曲点の候補点数に注目した。これらを変えたとき、シグナル検出の精度の変動の様子から、継続時間ごとに最適なパラメタを決定した。
次に、数値実験の結果を踏まえて、1日サンプリングGNSSデータに基づく先行研究のSSEシグナルを、ハイレートGNSSデータを用いて再検出した事例を紹介する。具体的には、東日本の相模トラフに沿った房総半島沖のフィリピン海プレート沈み込み境界で発生した、2011年、2013年~2014年、2018年のSSE (e.g., Fukuda, 2018)、さらに日本海溝に沿った茨城県南部付近の太平洋プレート沈み込み境界で発生した2016年のSSE (Nishimura, 2021)を対象とした。検出テストの結果、2011年、2013年~2014年、2018年のイベントでは、変位の方向、開始時刻、および終了時刻が先行研究とほぼ一致し、シグナルの自動検出に成功した。しかし、2016年のイベントでは、明確なシグナルを検出できなかった。これは、2011年、2013年~2014年、2018年のイベントでは最大で1 cm以上の観測点変位があったのに対し、2016年のイベントでは変位が最大でも3 mmに満たず、シグナルがノイズに対して不十分であったためと考えられる。
ハイレートGNSSデータは短いサンプリング間隔を持つため、イベントの時間発展を1日サンプリングデータより詳細にとらえることが期待される。例として、シグナルを検出できた3つのイベントについて、観測点ごとの変曲点(開始・終了時刻)を空間的に比較し、伝播の様子を調べた。2011年のイベントでは、開始時刻の伝播と終了時刻の伝播が逆方向となる傾向があった(図a, d)一方、2013~2014年および2018年のイベントでは、開始・終了時刻ともに、おおむね同方向に伝播した(図b, e; c, f)。また、変曲点における傾きの変化率を示すデルタ値を用いて、SSEの開始時刻と終了時刻のどちらがより明瞭であったかを評価した。結果として、2011年のイベントでは開始時刻が、2018年のイベントでは終了時刻が全体としてより高いデルタ値を示した。これは、開始・終了のどちらがより急激な現象となるか、イベントによって異なる可能性を示唆する。
本研究で導入した手法は、煩雑な前処理を必要としない自動検出であるため、世界中のSSEの多様性および普遍性を比較検討するのに役立つことが期待できる。
本研究では、1日より短いサンプリング間隔を持つハイレートGNSSデータを用いて、網羅的なイベント検出方法について検討する。このために、Nevada Geodetic Laboratoryが提供する5分間隔の精密単独測位解データセット(e.g., 三井・新井, 2023)を使用した。我々が以前に行った予備研究では、ハイレートGNSSデータのノイズが大きいため、1日サンプリングデータで行われているテンプレートマッチングによるシグナル検出(e.g., Rousset et al., 2017)が困難であることがわかった。そこで、イベントの開始時刻と終了時刻に生じる時系列データの変曲点を自動で検出する手法(Taylor and Letham, 2017)を採用した。具体的には、変曲点の候補を多数設定し、事前分布としてラプラス分布を仮定した最大事後確率推定に基づく折れ線回帰を用いて、有意な変曲点を抽出する。
まず、実際のハイレートGNSSデータのノイズ特性解析に基づいて作成した人工時系列データで、変曲点解析の設定の検討(数値実験)を行った。GNSSデータのノイズスペクトルは一般にホワイトノイズ的ではなく、周波数に依存した成分を持つことが知られている(e.g., Genrich and Bock, 2006; Geng et al., 2018)。このことがシグナル検出に影響を与えていると考え、観測データに含まれるノイズのパワースペクトル密度の形状を調べた。次に、観測データのパワースペクトル密度の形状を単純化したパワースペクトル密度を持つノイズにClipped ReLU関数のシグナルを足して、人工データを作成した。この人工データを用いて、変曲点検知によるシグナル検出数値実験を行った。シグナルの変位量および変位期間を変えたとき、正解の位置に変曲点を検知できるか否かで、シグナル検出の結果を評価した。解析のための設定として、ラプラス分布のパラメタτおよび変曲点の候補点数に注目した。これらを変えたとき、シグナル検出の精度の変動の様子から、継続時間ごとに最適なパラメタを決定した。
次に、数値実験の結果を踏まえて、1日サンプリングGNSSデータに基づく先行研究のSSEシグナルを、ハイレートGNSSデータを用いて再検出した事例を紹介する。具体的には、東日本の相模トラフに沿った房総半島沖のフィリピン海プレート沈み込み境界で発生した、2011年、2013年~2014年、2018年のSSE (e.g., Fukuda, 2018)、さらに日本海溝に沿った茨城県南部付近の太平洋プレート沈み込み境界で発生した2016年のSSE (Nishimura, 2021)を対象とした。検出テストの結果、2011年、2013年~2014年、2018年のイベントでは、変位の方向、開始時刻、および終了時刻が先行研究とほぼ一致し、シグナルの自動検出に成功した。しかし、2016年のイベントでは、明確なシグナルを検出できなかった。これは、2011年、2013年~2014年、2018年のイベントでは最大で1 cm以上の観測点変位があったのに対し、2016年のイベントでは変位が最大でも3 mmに満たず、シグナルがノイズに対して不十分であったためと考えられる。
ハイレートGNSSデータは短いサンプリング間隔を持つため、イベントの時間発展を1日サンプリングデータより詳細にとらえることが期待される。例として、シグナルを検出できた3つのイベントについて、観測点ごとの変曲点(開始・終了時刻)を空間的に比較し、伝播の様子を調べた。2011年のイベントでは、開始時刻の伝播と終了時刻の伝播が逆方向となる傾向があった(図a, d)一方、2013~2014年および2018年のイベントでは、開始・終了時刻ともに、おおむね同方向に伝播した(図b, e; c, f)。また、変曲点における傾きの変化率を示すデルタ値を用いて、SSEの開始時刻と終了時刻のどちらがより明瞭であったかを評価した。結果として、2011年のイベントでは開始時刻が、2018年のイベントでは終了時刻が全体としてより高いデルタ値を示した。これは、開始・終了のどちらがより急激な現象となるか、イベントによって異なる可能性を示唆する。
本研究で導入した手法は、煩雑な前処理を必要としない自動検出であるため、世界中のSSEの多様性および普遍性を比較検討するのに役立つことが期待できる。