15:30 〜 15:45
[S03-06] 海底圧力計データと海洋モデルへのマルチチャンネル特異スペクトル解析の適用によるスロースリップでの海底上下変動の抽出
1.はじめに
海底圧力計(OBP)は、海底の上下変動を連続的に観測でき、スロースリップ(SSE)などのゆっくりした変動を捉えることに有効である。しかし、OBPの観測データには、地殻変動以外に、海洋潮汐、海洋変動、季節変動、機器の永年変化(ドリフト)などが記録されていて、これらを適切に取り除く必要がある。海洋変動を取り除くため、これまでは、複数の観測点の平均を差し引く方法(e.g. Ito, et al, Tectonophys, 2013)、深さが同様の観測点のデータの差を取る方法(e.g. Fredrickson, et al, JGR, 2019)などが行われてきた。我々は、観測データと海洋モデルをマルチチャンネル特異スペクトル解析(MSSA)を用いて成分に分解し、相関のよい成分のみを用いて観測データから海洋変動を取り除くという方法を開発した(清水、他、JpGU、2021)。これは、海洋モデルの不完全さを取り除き、より観測データから地殻変動を取り出しやすくする方法である。本研究では、2018年の房総SSEにこの方法を適用し、従来の方法との比較等も行った。
2.方法
解析に使用した海洋モデルは、気象庁気象研究所が開発した日本沿岸海洋再解析データセット 「MOVE/MRI.COM-JPN Dataset」(広瀬、他、2020)である。OBPデータは房総沖SSE領域で観測した4地点のデータ(2016~2018)を使用した。このデータには、2018年のSSEが含まれている。
OBPデータからは、潮汐モデル「Baytap08」(Tamura et al. 1991)を用いて潮汐成分を取り除き、直線フィットでトレンドを取り除いた。潮汐とトレンドを除いたデータと海洋モデルを用いてMSSAを行い、成分ごとにデータとモデルの相関を出した。その結果、負の相関が高い成分とほぼ同じ周期を持つ正の相関が高い成分が対で存在することがわかった。これは、海洋モデルがその周期を再現しているが、振幅までは正確に再現できていないと考えられる。そこで、海洋モデルの再合成では、正の相関が高い成分を足し、負の相関が高い成分を引くことを行った。これは、観測データによって海洋モデルを補正したことになる。この再合成モデルを潮汐とトレンドを除いた観測データから差し引いた。その後、SSEによる変動や季節変動等を見積もるため、パラメトリックモデル(Sato et al, GRL 2017)を当てはめ、SSEによる変動の抽出を試みた。
3.結果
再合成した海洋モデルは、元の海洋モデルと比べると、一見大きな違いはないように見られたが(図1(c)、(d))、潮汐とトレンドを除いた観測データから再合成した海洋モデルを差し引いたデータ(図1(f))は、単純に海洋モデルをそのまま差し引いた場合(図1(e))より、変動がよりなめらかになった。パラメトリックモデルを当てはめて推定した2018年の房総SSEの変動は、3点で隆起、1点で沈降という結果となり、SSEのすべり領域を考えると妥当な結果である。従来の深さが同様の観測点のデータの差を取る方法と比較すると、変動の傾向(隆起か沈降か)はほぼ同様だが、変動の誤差は、今回の方法では5 mm程度、従来の方法では14 mm程度と、今回の方法のほうがよりよく変動を求められることがわかった。
謝辞
本研究の遂行にあたり、海洋エンジニアリング(株)「第三開洋丸」、「第五開洋丸」を使用させて頂きました。各船長以下、乗組員の方々に感謝します。本研究は文部科学省の「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の支援および科研費(25287109, 23K03541) の補助を受けました。
海底圧力計(OBP)は、海底の上下変動を連続的に観測でき、スロースリップ(SSE)などのゆっくりした変動を捉えることに有効である。しかし、OBPの観測データには、地殻変動以外に、海洋潮汐、海洋変動、季節変動、機器の永年変化(ドリフト)などが記録されていて、これらを適切に取り除く必要がある。海洋変動を取り除くため、これまでは、複数の観測点の平均を差し引く方法(e.g. Ito, et al, Tectonophys, 2013)、深さが同様の観測点のデータの差を取る方法(e.g. Fredrickson, et al, JGR, 2019)などが行われてきた。我々は、観測データと海洋モデルをマルチチャンネル特異スペクトル解析(MSSA)を用いて成分に分解し、相関のよい成分のみを用いて観測データから海洋変動を取り除くという方法を開発した(清水、他、JpGU、2021)。これは、海洋モデルの不完全さを取り除き、より観測データから地殻変動を取り出しやすくする方法である。本研究では、2018年の房総SSEにこの方法を適用し、従来の方法との比較等も行った。
2.方法
解析に使用した海洋モデルは、気象庁気象研究所が開発した日本沿岸海洋再解析データセット 「MOVE/MRI.COM-JPN Dataset」(広瀬、他、2020)である。OBPデータは房総沖SSE領域で観測した4地点のデータ(2016~2018)を使用した。このデータには、2018年のSSEが含まれている。
OBPデータからは、潮汐モデル「Baytap08」(Tamura et al. 1991)を用いて潮汐成分を取り除き、直線フィットでトレンドを取り除いた。潮汐とトレンドを除いたデータと海洋モデルを用いてMSSAを行い、成分ごとにデータとモデルの相関を出した。その結果、負の相関が高い成分とほぼ同じ周期を持つ正の相関が高い成分が対で存在することがわかった。これは、海洋モデルがその周期を再現しているが、振幅までは正確に再現できていないと考えられる。そこで、海洋モデルの再合成では、正の相関が高い成分を足し、負の相関が高い成分を引くことを行った。これは、観測データによって海洋モデルを補正したことになる。この再合成モデルを潮汐とトレンドを除いた観測データから差し引いた。その後、SSEによる変動や季節変動等を見積もるため、パラメトリックモデル(Sato et al, GRL 2017)を当てはめ、SSEによる変動の抽出を試みた。
3.結果
再合成した海洋モデルは、元の海洋モデルと比べると、一見大きな違いはないように見られたが(図1(c)、(d))、潮汐とトレンドを除いた観測データから再合成した海洋モデルを差し引いたデータ(図1(f))は、単純に海洋モデルをそのまま差し引いた場合(図1(e))より、変動がよりなめらかになった。パラメトリックモデルを当てはめて推定した2018年の房総SSEの変動は、3点で隆起、1点で沈降という結果となり、SSEのすべり領域を考えると妥当な結果である。従来の深さが同様の観測点のデータの差を取る方法と比較すると、変動の傾向(隆起か沈降か)はほぼ同様だが、変動の誤差は、今回の方法では5 mm程度、従来の方法では14 mm程度と、今回の方法のほうがよりよく変動を求められることがわかった。
謝辞
本研究の遂行にあたり、海洋エンジニアリング(株)「第三開洋丸」、「第五開洋丸」を使用させて頂きました。各船長以下、乗組員の方々に感謝します。本研究は文部科学省の「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」の支援および科研費(25287109, 23K03541) の補助を受けました。