[S03P-03] GNSS・GNSS音響・小繰り返し地震観測によって捉えられた2011年東北沖地震に伴う余効変動の全体像
巨大地震後の地殻変動場は主に粘弾性緩和・余効すべり・プレート間固着によって支配されていると考えられている.2011年東北沖地震については,陸上GNSS観測や海域GNSS音響観測によって地震後10年に渡る時空間変動場が明らかにされてきた(例えば,Fujiwara+, 2022; Watanabe+, 2021) が,日本海溝沿い全体に及ぶ広域の海底地殻変動場は2016年以前までしか明らかにされていない(Honsho+, 2019).本研究では,2011年東北沖地震について,海陸の最新の測地観測成果に加え,小繰り返し地震による非地震性すべりの推定も含めることで,地震発生後10年以上に渡る広域の余効変動メカニズムを明らかにする.
GNSS音響観測データには,東北沖に2012年9月に設置された20観測点において,東北大学・海洋研究開発機構によって2012年9月から2023年10月に収集したデータを用い,海中音速の水平勾配構造を仮定した測位解析(Tomita, under review)を行い,余震によるステップをCMT解からの計算変位によって取り除いた.また,同期間の海上保安庁による観測成果(Yokota+, 2018; Watanabe+, 2021)も活用した.陸域GNSSデータにはF5解(Takamatsu+, 2023)を用い,共通誤差成分・季節変動成分・ステップ変動を取り除いた.小繰り返し地震データには,Uchida & Matsuzawa (2013)を2020年12月31日まで更新したカタログを用いた.小繰り返し地震データは,各繰り返し地震系列での累積すべり量時系列に変換した上で,20 km×20 kmグリッドごとに累積すべり量時系列を平均化した.
海域GNSS音響観測(海溝から約100~150 km)は,地震時主破壊域(岩手沖南部〜宮城沖)では顕著な陸向き変動が全期間に渡って継続し,その北側(岩手沖北部)と南側(福島沖〜茨城沖)では海溝向きの変動が2016年ごろまで進行し,その後陸向きの変動に転じていることが分かった.また,小繰り返し地震で検出された非地震性すべりは,地震時主破壊域の北側と南側のプレート境界浅部で2016年まで顕著に現れた.すなわち,これらの領域では地震後5年以内に収束する短期の余効すべりが存在したことが測地・地震データの両方から確かめられた.一方で,地震時主破壊域下端側のプレート境界深部では小繰り返し地震カタログのある2020年末でも継続して余効すべりが存在していることが示されており,プレート境界の浅部と深部で余効すべりの時定数が異なることが分かった.陸上のGNSS観測は,宮城県から岩手県沿岸で顕著な海溝向きの変動が継続しており,これらの領域では粘弾性緩和に加え,長期の余効すべりの影響が含まれると考えられる.上下変動については,海溝のごく近傍を除いた地震時主破壊域で沈降傾向を示し,その上端と下端(海溝のごく近傍と海岸線沿い)で隆起傾向を示した.
得られた地殻変動場について,Wang+ (2018, Geosphere)の余効変動モデル(有限要素法を用いた粘弾性緩和モデルと断層すべりのフォワードモデルの組み合わせ)による再現を試みた.その結果,上記で示した海陸測地観測成果は水平・上下成分とも余効変動モデルによって十分再現可能であった.海域GNSS音響観測成果は,時定数の短い余効すべりと粘弾性緩和,プレート間固着で説明可能であり,余効すべり収束以降(概ね2019年以降)は粘弾性緩和とプレート間固着のみで再現できることが分かった.観測された上下変動場は,粘弾性緩和により示唆されるパターンと整合的であり,その寄与が大きいことが示唆された.また,プレート間固着は地震時主破壊域と1968年十勝沖地震の震源域を含む日本海溝沿い青森沖で必要とされる一方,福島沖〜茨城沖では相対的に低い固着率であることが示唆された.この余効変動モデルによって全体的な地殻変動場は概ね再現されたものの,下記の将来的な課題が残された:[1] 海上保安庁FUKU観測点(福島沖)での継続的な沈降が説明できない,[2] 東北大学G04観測点(三陸沖北部)の継続的な隆起が説明できない,[3]地震時主破壊域下端域での余効すべりと粘弾性緩和の影響を分離できていない.[1]・[2]の解決には粘弾性緩和の駆動源として入力する地震時すべり分布の最適化や,余効すべりによる粘弾性応答の考慮,あるいは粘弾性構造の海溝平行方向の不均質性の導入などが必要であると考えられる.[3]については小繰り返し地震によって検出された非地震性すべりと整合性の取れた余効すべりモデルを今後構築する必要がある.
GNSS音響観測データには,東北沖に2012年9月に設置された20観測点において,東北大学・海洋研究開発機構によって2012年9月から2023年10月に収集したデータを用い,海中音速の水平勾配構造を仮定した測位解析(Tomita, under review)を行い,余震によるステップをCMT解からの計算変位によって取り除いた.また,同期間の海上保安庁による観測成果(Yokota+, 2018; Watanabe+, 2021)も活用した.陸域GNSSデータにはF5解(Takamatsu+, 2023)を用い,共通誤差成分・季節変動成分・ステップ変動を取り除いた.小繰り返し地震データには,Uchida & Matsuzawa (2013)を2020年12月31日まで更新したカタログを用いた.小繰り返し地震データは,各繰り返し地震系列での累積すべり量時系列に変換した上で,20 km×20 kmグリッドごとに累積すべり量時系列を平均化した.
海域GNSS音響観測(海溝から約100~150 km)は,地震時主破壊域(岩手沖南部〜宮城沖)では顕著な陸向き変動が全期間に渡って継続し,その北側(岩手沖北部)と南側(福島沖〜茨城沖)では海溝向きの変動が2016年ごろまで進行し,その後陸向きの変動に転じていることが分かった.また,小繰り返し地震で検出された非地震性すべりは,地震時主破壊域の北側と南側のプレート境界浅部で2016年まで顕著に現れた.すなわち,これらの領域では地震後5年以内に収束する短期の余効すべりが存在したことが測地・地震データの両方から確かめられた.一方で,地震時主破壊域下端側のプレート境界深部では小繰り返し地震カタログのある2020年末でも継続して余効すべりが存在していることが示されており,プレート境界の浅部と深部で余効すべりの時定数が異なることが分かった.陸上のGNSS観測は,宮城県から岩手県沿岸で顕著な海溝向きの変動が継続しており,これらの領域では粘弾性緩和に加え,長期の余効すべりの影響が含まれると考えられる.上下変動については,海溝のごく近傍を除いた地震時主破壊域で沈降傾向を示し,その上端と下端(海溝のごく近傍と海岸線沿い)で隆起傾向を示した.
得られた地殻変動場について,Wang+ (2018, Geosphere)の余効変動モデル(有限要素法を用いた粘弾性緩和モデルと断層すべりのフォワードモデルの組み合わせ)による再現を試みた.その結果,上記で示した海陸測地観測成果は水平・上下成分とも余効変動モデルによって十分再現可能であった.海域GNSS音響観測成果は,時定数の短い余効すべりと粘弾性緩和,プレート間固着で説明可能であり,余効すべり収束以降(概ね2019年以降)は粘弾性緩和とプレート間固着のみで再現できることが分かった.観測された上下変動場は,粘弾性緩和により示唆されるパターンと整合的であり,その寄与が大きいことが示唆された.また,プレート間固着は地震時主破壊域と1968年十勝沖地震の震源域を含む日本海溝沿い青森沖で必要とされる一方,福島沖〜茨城沖では相対的に低い固着率であることが示唆された.この余効変動モデルによって全体的な地殻変動場は概ね再現されたものの,下記の将来的な課題が残された:[1] 海上保安庁FUKU観測点(福島沖)での継続的な沈降が説明できない,[2] 東北大学G04観測点(三陸沖北部)の継続的な隆起が説明できない,[3]地震時主破壊域下端域での余効すべりと粘弾性緩和の影響を分離できていない.[1]・[2]の解決には粘弾性緩和の駆動源として入力する地震時すべり分布の最適化や,余効すべりによる粘弾性応答の考慮,あるいは粘弾性構造の海溝平行方向の不均質性の導入などが必要であると考えられる.[3]については小繰り返し地震によって検出された非地震性すべりと整合性の取れた余効すべりモデルを今後構築する必要がある.