09:15 〜 09:30
[S04-02] ステルス・ホットスポット火山 ~破局噴火を引き起こす、島弧火山列に紛れたホットスポット火山~
過去に発生した破局噴火(VEI≧7)のほとんどは、プレート沈み込み帯の島弧火山列に位置する火山におけるものである。破局噴火を引き起こすメカニズムについては、これまで山体等の浅部構造や、浅部のマグマ輸送システムと関連づけて説明されることが多く、プレート下の上部マントル構造など深部構造を含めて議論されることはあまりなかった。
沈み込み帯における地震波トモグラフィーでは、沈み込むスラブの上のマントルウェッジ内と、スラブ下のマントルに低速度異常領域が見いだされるという共通した特徴がある。マントルウェッジ内の低速度は、コーナーフローや沈み込むスラブからの脱水で説明でき、通常の島弧火山の成因として盛んに議論が行われてきた。一方スラブ下の低速度の原因としては、沈み込みに伴うリターンフローである熱いマントル上昇流(SHMU; Subslab hot mantle upwelling)等が考えられている。近年はプレート境界型巨大地震やスロー地震の発生との関わりが議論されるなど注目度が高まっている[1]。
我々は東南アジア[2]、日本[3]、地中海東部[4]、オセアニア[5]、南米の5領域を対象に、地表から核・マントル境界までの詳細なP波トモグラフィーモデルを得て、破局噴火を引き起こす火山と上部マントル構造との比較を行った。用いたトモグラフィー手法は「マルチスケール・グローバルトモグラフィー法」と呼ばれるもので、対象地域下にグリッドを密に配置することで、グローバルトモグラフィーでありながらリージョナルトモグラフィーと同等の分解能を実現できる。またリージョナルトモグラフィーと異なり、全地球で絶対走時残差を取り扱うことができるため、遠地地震波線を用いる際に領域外不均質の影響を除去する仮定を必要としない。さらに直達P波だけではなく、4種類の後続波(pP、PP、PcP、Pdiff)も用いることで波線密度を向上させた。5領域それぞれで、インバージョンに使った到着時刻データ数は500~700万個である。
結果として、破局噴火を引き起こす火山のうち少なくとも半数は、スラブ・ウィンドウ(スラブの穴や裂け目)の直上か極めて近傍で、かつSHMUが発達した場所に位置していることが明らかとなった。このような場所では、マントルウェッジ内のコーナーフローとSHMUが、スラブ・ウィンドウを通して混合していると考えられる。またスラブ・ウィンドウがボトルネックとして働くことで、間欠的に大量のマントル物質が湧昇する可能性が高い。したがって沈み込み帯における破局噴火は、島弧火山列の火山のうち、こうした特殊な条件が重なった場所で発生すると考えることができる。SHMUは、スラブ下にトラップされたホットプルームの一種と考えることができるため、SHMUに関連した火山は、島弧火山列に紛れ込んだホットスポット火山(=「ステルス・ホットスポット火山」)と捉えられる。このモデルの妥当性は今後さらに検討する必要があるが、破局噴火のリスクを深部構造から制約できる可能性があり興味深い。
[1] Fan, J., Zhao, D., 2021. Subslab heterogeneity and giant megathrust earthquakes. Nat. Geosci. 14, 349–353.
[2] Toyokuni, G., Zhao, D., Kurata, K., 2022. Whole-mantle tomography of Southeast Asia: New insight into plumes and slabs. J. Geophys. Res. Solid Earth 127, e2022JB024298.
[3] Toyokuni, G., Zhao, D., Takada, D., 2024. Whole-mantle isotropic and anisotropic tomography beneath Japan and adjacent regions, in revision.
[4] Toyokuni, G., Zhao, D., 2024a. Whole-mantle tomography beneath eastern Mediterranean and adjacent regions, in revision.
[5] Toyokuni, G., Zhao, D., 2024b. Slab-plume interactions beneath Australia and New Zealand: New insight from whole-mantle tomography, under review.
沈み込み帯における地震波トモグラフィーでは、沈み込むスラブの上のマントルウェッジ内と、スラブ下のマントルに低速度異常領域が見いだされるという共通した特徴がある。マントルウェッジ内の低速度は、コーナーフローや沈み込むスラブからの脱水で説明でき、通常の島弧火山の成因として盛んに議論が行われてきた。一方スラブ下の低速度の原因としては、沈み込みに伴うリターンフローである熱いマントル上昇流(SHMU; Subslab hot mantle upwelling)等が考えられている。近年はプレート境界型巨大地震やスロー地震の発生との関わりが議論されるなど注目度が高まっている[1]。
我々は東南アジア[2]、日本[3]、地中海東部[4]、オセアニア[5]、南米の5領域を対象に、地表から核・マントル境界までの詳細なP波トモグラフィーモデルを得て、破局噴火を引き起こす火山と上部マントル構造との比較を行った。用いたトモグラフィー手法は「マルチスケール・グローバルトモグラフィー法」と呼ばれるもので、対象地域下にグリッドを密に配置することで、グローバルトモグラフィーでありながらリージョナルトモグラフィーと同等の分解能を実現できる。またリージョナルトモグラフィーと異なり、全地球で絶対走時残差を取り扱うことができるため、遠地地震波線を用いる際に領域外不均質の影響を除去する仮定を必要としない。さらに直達P波だけではなく、4種類の後続波(pP、PP、PcP、Pdiff)も用いることで波線密度を向上させた。5領域それぞれで、インバージョンに使った到着時刻データ数は500~700万個である。
結果として、破局噴火を引き起こす火山のうち少なくとも半数は、スラブ・ウィンドウ(スラブの穴や裂け目)の直上か極めて近傍で、かつSHMUが発達した場所に位置していることが明らかとなった。このような場所では、マントルウェッジ内のコーナーフローとSHMUが、スラブ・ウィンドウを通して混合していると考えられる。またスラブ・ウィンドウがボトルネックとして働くことで、間欠的に大量のマントル物質が湧昇する可能性が高い。したがって沈み込み帯における破局噴火は、島弧火山列の火山のうち、こうした特殊な条件が重なった場所で発生すると考えることができる。SHMUは、スラブ下にトラップされたホットプルームの一種と考えることができるため、SHMUに関連した火山は、島弧火山列に紛れ込んだホットスポット火山(=「ステルス・ホットスポット火山」)と捉えられる。このモデルの妥当性は今後さらに検討する必要があるが、破局噴火のリスクを深部構造から制約できる可能性があり興味深い。
[1] Fan, J., Zhao, D., 2021. Subslab heterogeneity and giant megathrust earthquakes. Nat. Geosci. 14, 349–353.
[2] Toyokuni, G., Zhao, D., Kurata, K., 2022. Whole-mantle tomography of Southeast Asia: New insight into plumes and slabs. J. Geophys. Res. Solid Earth 127, e2022JB024298.
[3] Toyokuni, G., Zhao, D., Takada, D., 2024. Whole-mantle isotropic and anisotropic tomography beneath Japan and adjacent regions, in revision.
[4] Toyokuni, G., Zhao, D., 2024a. Whole-mantle tomography beneath eastern Mediterranean and adjacent regions, in revision.
[5] Toyokuni, G., Zhao, D., 2024b. Slab-plume interactions beneath Australia and New Zealand: New insight from whole-mantle tomography, under review.