10:00 AM - 10:15 AM
[S04-05] Toward detection of slow slips in Hyuga-Nada: Challenge with seafloor optical-fiber strainmeter
日向灘には、四国海盆と西フィリピン海盆の境界である九州-パラオ海嶺(KPR)が沈み込んでいる。KPRとして沈み込んだ海山の周囲でスロー地震(微動・VLFE)が時折発生し,震源位置が数十 km/day 程度で移動することが知られている。一方、2024年8月8日16:43に発生した日向灘地震(M7.1)をはじめとするM7級地震の震央は、微動域のNW約50㎞にあり、KPRの延長上にある。スロー地震の発生原因の一つが間隙水圧異常とされる.一方海山や突起の沈み込みがスロー地震発生に大きく影響することも認識されてきた.海山等の沈み込みにより周囲の応力場が乱れ,破砕帯が形成され強度が低下して固着が弱まることを,海山直上の海底・掘削・陸上の観測により検証することを目的とした科研費(基盤研究S)「海山の沈み込みは巨大地震域の固着を弱めるか:南海トラフの2海山での検証」が,2024年から5年計画として採択された.海山沈み込みとスロー地震の関係を議論する上で、日向灘(海山・微動あり、SSE未検出)、室戸沖(海山・微動・SSEあり)、熊野沖(海山なし、微動・SSEあり)といったケースを比較検討する。日向灘ではこれまでYokota & Ishikawa (2019) による海底GNSS観測があるが、連続観測が存在しないため、SSEが存在するかどうかは不明である。そこで本プロジェクトでは、荒木らが開発し、南海トラフで設置実績のある海底設置型の光ファイバー歪計(OFS)2基を、日向灘に設置する計画である(図)。底設置型OFSは、光ファイバー200mを海底面上に展張し、その微小な長さ変化を計測してピコstrainの分解能を実現する。室戸沖では、7e-7 strain の変化が約3週間かけて観測され、SSEが発生したと解釈された(荒木、2022)。沈み込んだ海山周辺のSSEは、1kPa程度の水圧変動(約1e-7の体積歪変化)に相当すると予想している。ただし、海山付近で1e-7 strainが生じたとしても、海底に到達するまでに減衰する可能性があり、それも併せて検出可能性を探っている。設置地点として、微動・VLFEが密集している場所を中心に検討している。Araki et al. (2017)などによれば、より放出エネルギーが大きいSSEの発生に伴い、その周縁部で微動が発生する場合があるが、両者の関係はいまだ議論がある。設置にあたっては、限られた台数を、どこで起きるかわからないSSEに対して「敏感な」地点を選んで行うことが重要である。平坦性、斜面堆積物や基盤岩露出、断層帯の有無が判断の基準になる。海底地形図と合わせて、これまでに日向灘でえられた反射法地震探査測線データを詳細に検討した結果、日向灘の前弧域斜面には、海山が沈み込む前から存在した付加体の断層が、海山沈み込みにより再活動したと予想される背斜構造が見つかった。流体移動に関する情報としては、沈み込んだ海山周囲での微動の移動や、地震波低速度異常(Arai+2023, Akuhara+2023)が手掛かりとなる。海山の東に微動集中域があるが、流体が集中しているのであればSSE検出の重要な候補となる。一方我々は、KPRの東側で熱流量が高く、その西側では熱流量が極めて低いことを示した.特に熱流量が海山の周囲で特に低いことが判明した。海山沈み込みによる周囲の応力異常・水理擾乱に起因する流体循環により冷却されたと考えられる。その場合、海山の通過跡では上盤が破砕され、間隙率や浸透率が高く、また断層や破砕帯を流路とした,活発な流体移動が起きていることが予想される。いずれにせよ、SSEと流体移動を区別するために、OFS設置点付近には、明らかな流体湧出がないことが重要と考えている。 これらを考慮した結果、予稿執筆時点では、沈み込んだ海山の斜め前方(北東)が最適であろうと考えている。圧縮応力が卓越し、流体移動による低熱流量とスロー地震の発生の可能性が高いと想定される。なお、IODP3(次期国際深海掘削計画)で掘削予定の地点は、同じく沈み込んだ海山の北東側を想定している。OFS等の計測により、8月8日の日向灘地震に起因する地殻変動などが検出されるかもしれない。それが南海トラフ地震域に及ぼす影響を評価するためには、そもそも震源域の状態(応力や流体圧など)を知ることが必須である。本調査は、そのような基礎データ取得に主として貢献する。