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[S08-20] 地震の初期破壊プロセスと全体プロセス:P波初動再考
巨大地震も小規模な破壊すべりから始まる。地震の予測可能性とは、その小規模な破壊すべり=初期破壊プロセスから、最終的な性質について何が言えるか、という問題でもある。地震の初期破壊プロセスについての議論、特にP波初動から最終規模を推定可能かという議論は1990年頃から続いているが、近年の詳細な分析によれば、少なくとも地震破壊プロセスの減速が検知できないと、最終サイズの予測はできないという結論に落ち着きつつある。P波初動には最終サイズがわからないとしても、他のさまざまな情報が含まれている。P波初動のみでの震源決定法(B-Delta法)を提案したOdaka et al (2003), 束田他(2004)は、P波初動には震源距離の情報が含まれていることを示した。正確には震源から観測点までの地震波散乱の情報が含まれる。さらに震源の放射パターンの情報が含まれているし、何らかの地震成長モデルを仮定するなら、応力降下量の情報を得ることができる。しかしP波初動は、いまだ十分に活用されていない。本研究ではB-Delta法を拡張して、P波初動から観測点のサイト特性と地震イベントごとの応力降下量を相対値として推定する。2004年から2020年までのF-netメカニズム解の推定された地震のうち、深さ30 km以浅、かつ観測点網内部に発生した約2000イベントを対象に、気象庁の検測値が利用可能なHi-netの観測記録から0.1 s間のP波初動を抽出する。個々の波形に対して放射パターンを補正し、品質調整ののち、B-Delta法同様に地震波の立ち上がりを直線近似し、その傾きをデータとして得る。このデータから観測点のサイト項と地震の応力降下量に関係したイベント項を推定する。予想通りイベント項は最終的な規模にはほとんど依存しない。一方で深さとともに増加する傾向にある。この傾向は応力降下量が深さ依存するためだと解釈できるが、媒質の地震波速度の深さ依存性の影響も含まれる。サイト項には九州や伊豆地方で小さく、中部から近畿で大きな値を示すという地域性がみられる。今回扱った地震の多くはYoshida and Kanamori (2023)によって、SH波を用いた地震波エネルギーや継続時間の推定がなされている。イベント項と地震波エネルギーの相関はあまりないが、イベント項は規格化した継続時間や地震の複雑さを表すパラメターREEFと相関を示す。これは破壊初期の応力降下量が大きな場合には、破壊完了までの時間が短くなり、破壊プロセスが単純になることを示唆している。この傾向はある程度は地震発生場の性質であり、ここの破壊プロセスの違いを反映したものとは断定できないが、それも含めれば地震の限定的予測可能性を示す結果といえる。