日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08P] PM-P

2024年10月22日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S08P-14] 複数の断層が連動した海洋プレート内横ずれ大地震の震源過程の特徴

*井上 尚滉1、八木 勇治1、奥脇 亮1、山口 諒1 (1. 筑波大学)

これまで海洋プレート内地震の複数断層を破壊する複雑な震源過程について多く報告されてきた。例えば、2018年アラスカ湾地震では、複数断層の連鎖的な破壊様式が報告されている (e.g. Yamashita et al., 2021) 。海洋プレート内には破砕帯や海洋プレート形成時に生じた弱面が存在しているため、これらの弱面が地震発生時に連動する可能性がある。複数の断層が連動する地震を理解するためには、断層形状の時空間変化を含む詳細な震源過程を推定する必要がある。断層形状が不明な場合の多い海洋プレート内地震を解析するには、従来の有限断層インバージョン法のような断層面を設定する手法は適切ではなく、高自由度な震源過程インバージョン手法が必要となる。

 本研究では、海洋プレート内で発生した大地震に対しポテンシー密度テンソルインバージョン (PDTI; Shimizu et al., 2020) を適用して震源過程を推定した。一般に、グリーン関数の不確定性をデータの共分散行列へ導入することで、強い拘束条件を与えずに尤もらしい解を得ることができる。PDTIはこの定式化を利用し、断層すべりを5つの基底ダブルカップル成分の重ね合わせで表現する高自由度な震源過程モデリングを実現しており、結果として、断層形状の時空間変化をも解くことができるようになった。加えて、時間適合的なスムージングを適用することで、安定かつ詳細な震源過程を得ることができる(Yamashita et al., 2022)。

 解析対象とする地震は、Global Centroid Moment Tensor (GCMT) カタログをもとに、モーメントマグニチュード (MW) 7.5以上かつ非ダブルカップル成分50 %超の横ずれ断層型地震とした。具体的には2000年南インド洋地震 (MW 7.9) 、2000年スラウェシ島東部地震(MW 7.5)、1998年バレニー諸島地震(MW 8.1) の3つである。波形データは震央距離が30º ~ 90ºの遠地実体波P波の鉛直成分をSAGEよりダウンロードして使用した。震源付近の速度構造モデルはCRUST-1.0 (Laske et al. 2013) を用いた。地球内部構造の不均質性によるP波到達時刻のずれは、P波初動を手動で読み取ることで補正した。 2000年南インド洋地震と2000年スラウェシ島東部地震では、GCMT解の節面を参考に垂直なモデル面を設定した。1998年バレニー諸島地震では、米国地質調査所が報告した余震分布を参考に非矩形の水平なモデル面を設定した。

 解析により得られた2000年南インド洋地震のモーメントテンソル解は、48 %の非ダブルカップル (NDC) 成分を含む左横ずれ断層型を示し、地震モーメントは9.5×1020 N m (MW 7.9) 、破壊継続時間は25秒である。破壊は震源から北西及び南東方向へバイラテラルに進展し、破壊が北西方向に進展するにつれて、走向が反時計回りに 約170 ºから約150 ºへ変化していくことがわかった。

 2000年スラウェシ島東部地震のモーメントテンソル解は、43 %のNDC成分を含む右横ずれ断層型を示し、地震モーメントは4.0×1020 N m (MW 7.7) 、破壊継続時間は32秒である。震源付近で開始した破壊は、0〜7秒まで逆断層型のメカニズムで南西方向に伝播し、その後、横ずれ断層型のメカニズムに変化しながら南西方向へ破壊が伝播するが、震源から南西に約60 km離れた地点で11〜15 秒の間停滞したのち、16 〜22 秒には南西方向へ伝播が再開する。

 1998年バレニー諸島沖地震のモーメントテンソル解は、70 %のNDC成分を含む左横ずれ断層型を示し、地震モーメントは3.6×1021 N m (MW 8.3)、破壊継続時間は100秒である。震源付近で開始した破壊は、0〜24 秒間で横ずれ断層型の破壊が北と西の2方向へ伝播する。このうち西方向への破壊伝播は、震源から西に90kmの地点で24〜28 秒の間停滞したのち、28〜44 秒には西と南の2方向に伝播する。南方向の破壊は56 秒まで続き、72〜96秒には震源から西に約230km進んだ地点で横ずれ断層型の破壊が発生した。

 本発表では、以上の3つの地震の解析結果をもとに、断層形状が変化する部分に着目し、どのように断層が連動しているのかについて議論する。