[S08P-15] モーメントテンソルおよび震源時間関数の波形インバージョンからみる火星の低周波火震S1022aの特徴
1.はじめに
2018年に地震計が備わった火星探査機「InSight」が火星に着陸し、2022年12月のミッション終了まで、約1300個の火震が観測された (Lognonné et al. 2023)。
InSight Marsquake Service(MQS)が検知した各火震は、データの質をもとに質が良いものからQuality A、B、C、Dに分類されている。Quality Aに分類された火震は14個あり、震央決定がされ、Mwは3~5程度である(MQS 2023)。
私たちは、これらQuality Aの14火震のP、S波の波形データを調べ、その結果、S1022aとラベル付けされた火震が他の火震と異なり特定の低周波数に卓越していることをみつけた(小谷・久家、地震学会秋季大会2023)。小谷・久家(同2023)は、S1022aのP波のvertical成分、S波のtransverse成分の変位振幅スペクトルにおいて、いずれも、0.2Hz付近にピークをもち、0.4~0.5Hz付近で急激に値が下がり、0.5Hz以上では火震がない時間より小さくなること、この特徴はP、S波のvertical、radial、transverseの全成分に見えている一方で、S1022a以外のQuality Aの火震には見られないことを報告した。
低周波火震S1022aの特異性は、その特徴を踏まえると、地震計周辺の地下構造より震源に由来する可能性が高いと考えられる。そこで、本発表では、P、S波波形に対しモーメントテンソルおよび震源時間関数のインバージョンを実施し、特徴の原因を考察する。
2.モーメントテンソル&震源時間関数インバージョン
解析には、S1022aのP波Vertical、Radial成分、S波Vertical、Radial、Transverse成分の0.1-0.5Hz変位波形を使用した。火星内部構造モデルKKS21GP(Stahler et al., 2021)に対するグリーン関数をSAGE Facility IRISWS syngine Web Serviceから取得し用いた。
震源の深さを0~50kmで変化させて、まず震源時間関数をデルタ関数と仮定しモーメントテンソルインバージョンを行った。P波Radial、S波Vertical、Radial成分の波形を合わせることは難しく、P波Vertical、S波Transverse成分でも、初動5s以降の波形のmisfitが大きくなる。理論波形のスペクトルをみても0.2Hzのピークは再現できていない。また、震源の深さによってメカニズム解は大きく変化する。
他方で観測波形をより説明するように、モーメントテンソルと共に、時間長20sの震源時間関数を、非負条件がある場合とない場合で求めた。非負条件の有無によらず、特にP波Vertical、S波Transverse成分で初動20s程度の観測波形が合うようになり、P波Radial、S波Vertical、Radial成分でも波形フィットの改善が見られた。理論波形のスペクトルでは、全成分で0.2Hz付近にピークが見られた。メカニズム解は震源の深さによって変化するものの、非負条件の有無に関係なく震源時間関数にはピーク間隔約4~5秒の2~4個のピークや振動からなる関数が推定された。これはS1022aの約0.2Hzで振動が卓越する特徴を説明するためだと考えられる。また、求められた震源時間関数で顕著なピークや振動が見られる時間は約10秒間である。
3.特徴の原因は何か
震源時間関数が0.2Hzで振動するような震源モデルの可能性として、Julian(1994)の火山性微動モデルが挙げられる。Kedar et al. (2021)は、各々0.35、0.6HzでピークをもつQuality Bの2つの火震を、このJulian(1994)のモデルで説明することに試みた。本研究でも、Julian (1994)のモデルで変数を調整して0.2Hzに顕著なピークをもつようなモデルを探したところ、該当するモデルはある一方、0.2Hzより高周波にも複数のピークをもつ特徴が見られることがわかった。この特徴はS1022aのスペクトルと合わず、高周波のピークを小さくする地下構造等が同時に必要になるかもしれない。
この他の火山性微動モデルや非火山性の震源モデルも検討する必要があるが、S1022aのスペクトルのピークと共に、震源時間関数の主な継続時間が約10秒であるという特徴も満たさなければならない。
謝辞
IRISのデータとInSight Mars SEIS Data Serviceのデータとカタログ、SAGE Facility IRISWS syngine Web Serviceのグリーン関数を使用した。記して感謝する。
2018年に地震計が備わった火星探査機「InSight」が火星に着陸し、2022年12月のミッション終了まで、約1300個の火震が観測された (Lognonné et al. 2023)。
InSight Marsquake Service(MQS)が検知した各火震は、データの質をもとに質が良いものからQuality A、B、C、Dに分類されている。Quality Aに分類された火震は14個あり、震央決定がされ、Mwは3~5程度である(MQS 2023)。
私たちは、これらQuality Aの14火震のP、S波の波形データを調べ、その結果、S1022aとラベル付けされた火震が他の火震と異なり特定の低周波数に卓越していることをみつけた(小谷・久家、地震学会秋季大会2023)。小谷・久家(同2023)は、S1022aのP波のvertical成分、S波のtransverse成分の変位振幅スペクトルにおいて、いずれも、0.2Hz付近にピークをもち、0.4~0.5Hz付近で急激に値が下がり、0.5Hz以上では火震がない時間より小さくなること、この特徴はP、S波のvertical、radial、transverseの全成分に見えている一方で、S1022a以外のQuality Aの火震には見られないことを報告した。
低周波火震S1022aの特異性は、その特徴を踏まえると、地震計周辺の地下構造より震源に由来する可能性が高いと考えられる。そこで、本発表では、P、S波波形に対しモーメントテンソルおよび震源時間関数のインバージョンを実施し、特徴の原因を考察する。
2.モーメントテンソル&震源時間関数インバージョン
解析には、S1022aのP波Vertical、Radial成分、S波Vertical、Radial、Transverse成分の0.1-0.5Hz変位波形を使用した。火星内部構造モデルKKS21GP(Stahler et al., 2021)に対するグリーン関数をSAGE Facility IRISWS syngine Web Serviceから取得し用いた。
震源の深さを0~50kmで変化させて、まず震源時間関数をデルタ関数と仮定しモーメントテンソルインバージョンを行った。P波Radial、S波Vertical、Radial成分の波形を合わせることは難しく、P波Vertical、S波Transverse成分でも、初動5s以降の波形のmisfitが大きくなる。理論波形のスペクトルをみても0.2Hzのピークは再現できていない。また、震源の深さによってメカニズム解は大きく変化する。
他方で観測波形をより説明するように、モーメントテンソルと共に、時間長20sの震源時間関数を、非負条件がある場合とない場合で求めた。非負条件の有無によらず、特にP波Vertical、S波Transverse成分で初動20s程度の観測波形が合うようになり、P波Radial、S波Vertical、Radial成分でも波形フィットの改善が見られた。理論波形のスペクトルでは、全成分で0.2Hz付近にピークが見られた。メカニズム解は震源の深さによって変化するものの、非負条件の有無に関係なく震源時間関数にはピーク間隔約4~5秒の2~4個のピークや振動からなる関数が推定された。これはS1022aの約0.2Hzで振動が卓越する特徴を説明するためだと考えられる。また、求められた震源時間関数で顕著なピークや振動が見られる時間は約10秒間である。
3.特徴の原因は何か
震源時間関数が0.2Hzで振動するような震源モデルの可能性として、Julian(1994)の火山性微動モデルが挙げられる。Kedar et al. (2021)は、各々0.35、0.6HzでピークをもつQuality Bの2つの火震を、このJulian(1994)のモデルで説明することに試みた。本研究でも、Julian (1994)のモデルで変数を調整して0.2Hzに顕著なピークをもつようなモデルを探したところ、該当するモデルはある一方、0.2Hzより高周波にも複数のピークをもつ特徴が見られることがわかった。この特徴はS1022aのスペクトルと合わず、高周波のピークを小さくする地下構造等が同時に必要になるかもしれない。
この他の火山性微動モデルや非火山性の震源モデルも検討する必要があるが、S1022aのスペクトルのピークと共に、震源時間関数の主な継続時間が約10秒であるという特徴も満たさなければならない。
謝辞
IRISのデータとInSight Mars SEIS Data Serviceのデータとカタログ、SAGE Facility IRISWS syngine Web Serviceのグリーン関数を使用した。記して感謝する。