09:00 〜 09:15
[S09-01] 北海道函館市付近における浅部の低周波地震と深部の高周波地震：周波数特性の定量的指標を用いた評価
地震予知総合研究振興会が設置・運用する地域地震観測網AS-netによって，北海道函館市付近において地殻内の深さ10 kmより浅部で低周波地震と通常地震が混在する地震活動が確認された．この付近には深部低周波地震の活動領域も存在する．この特異な地震活動について詳細な調査を行うことは，低周波地震一般の発生メカニズムの解明や，地殻内地震との関係の解明のためにも非常に重要である．そこで地震予知総合研究振興会と弘前大学は2018年10月から当該地域で臨時地震観測を開始した．本研究では，臨時観測記録による震源再決定を行い，各イベントの周波数特性を定量的指標により評価した結果と合わせて，地震活動のメカニズムを探る．
地震の周波数特性として，低周波地震の検出に用いられる2指標を用いる．いずれも地震記録S波部分のフーリエ振幅スペクトルを用いる．指標のひとつはピーク周波数fpで，振幅スペクトルが最大となる周波数である．もうひとつは周波数指標FI（Frequency Index）で，スペクトル振幅のうち高周波数帯域の平均値を低周波数帯域のそれで割って対数をとったものである．対象イベントは，函館付近の浅部・深部の活動領域を含む領域で2018年10月から2022年8月に発生したすべての地震とする．
得られたfpとFIを比較したところ，fpが小さい（低周波数側である）イベントではFIも小さくなった．これは，同指標を用いて日本全国の地殻内で低周波地震の検出を行ったNakajima and Hasegawa (2021)の結果と同様である．Nakajimaらはfp < 4 HzかつFI < -0.75を低周波地震としているが，本研究で地震波形の特徴から目視により低周波地震と判断された浅部イベントのうち約半分，深部イベントの一部はこの基準から外れる結果となり，低周波地震としての特徴が必ずしも顕著ではないことを示している．
臨時観測による震源分布を用いてfpおよびFIの分布をみると，浅部の活動域では，fpおよびFIの大きなイベント（通常地震）が，そうでないイベント（低周波地震）と極めて近いものの，棲み分けた分布となった．この通常地震は，観測波形が酷似する繰り返し地震を含み，それらはほぼ同じ場所で発生したとみられる．この領域の通常地震の繰り返しは2015-16年にも発生し，こちらはYoshida et al. (2020)により地殻流体の関与が示唆されている．
一方，深部低周波地震活動では，fpやFIが大きく通常地震に近いイベントがいくつか検出された．これらの多くは深部の活動領域の最上部で発生したとみられるが，深部イベントは連続発生することもあり震源位置の不確実性が高い．深部高周波イベントは波形も通常地震に近く，震動継続時間も低周波イベントより短かった．また，初動付近は高周波数成分が強く，その後はより大振幅の低周波数成分が卓越するイベントもみられた．そのようなイベントは浅部活動域には存在しなかった．
深部でも低周波イベントと高周波イベントが発生するということは，深部の活動でも流体の関与が考えられる．ただし深部イベントの観測記録は浅部イベントと異なる伝播経路の影響を受けており，従来のFI等を用いて両者の単純な比較はできない．とはいえ深部にもかかわらず明らかに高周波の地震波が出ているのは間違いなく，その発生メカニズムについて，今後，発生深度の精度向上や伝播経路の影響の検討などを通して追求していく方針である．
謝辞
本研究では，気象庁，防災科学技術研究所，北海道大学，東北大学および青森県による地震観測データを使用しました．記して感謝いたします．
参考文献
Nakajima, J. and A. Hasegawa, (2021), Prevalence of shallow low-frequency earthquakes in the continental crust. J. Geophys. Res., 126, e2020JB021391.
Yoshida, K., A. Hasegawa, S. Noguchi and K. Kasahara (2020), Low-frequency earthquakes observed in close vicinity of repeating earthquakes in the brittle upper crust of Hakodate, Hokkaido, northern Japan, Geophys. J. Int., 223(3), 1724-1740.
地震の周波数特性として，低周波地震の検出に用いられる2指標を用いる．いずれも地震記録S波部分のフーリエ振幅スペクトルを用いる．指標のひとつはピーク周波数fpで，振幅スペクトルが最大となる周波数である．もうひとつは周波数指標FI（Frequency Index）で，スペクトル振幅のうち高周波数帯域の平均値を低周波数帯域のそれで割って対数をとったものである．対象イベントは，函館付近の浅部・深部の活動領域を含む領域で2018年10月から2022年8月に発生したすべての地震とする．
得られたfpとFIを比較したところ，fpが小さい（低周波数側である）イベントではFIも小さくなった．これは，同指標を用いて日本全国の地殻内で低周波地震の検出を行ったNakajima and Hasegawa (2021)の結果と同様である．Nakajimaらはfp < 4 HzかつFI < -0.75を低周波地震としているが，本研究で地震波形の特徴から目視により低周波地震と判断された浅部イベントのうち約半分，深部イベントの一部はこの基準から外れる結果となり，低周波地震としての特徴が必ずしも顕著ではないことを示している．
臨時観測による震源分布を用いてfpおよびFIの分布をみると，浅部の活動域では，fpおよびFIの大きなイベント（通常地震）が，そうでないイベント（低周波地震）と極めて近いものの，棲み分けた分布となった．この通常地震は，観測波形が酷似する繰り返し地震を含み，それらはほぼ同じ場所で発生したとみられる．この領域の通常地震の繰り返しは2015-16年にも発生し，こちらはYoshida et al. (2020)により地殻流体の関与が示唆されている．
一方，深部低周波地震活動では，fpやFIが大きく通常地震に近いイベントがいくつか検出された．これらの多くは深部の活動領域の最上部で発生したとみられるが，深部イベントは連続発生することもあり震源位置の不確実性が高い．深部高周波イベントは波形も通常地震に近く，震動継続時間も低周波イベントより短かった．また，初動付近は高周波数成分が強く，その後はより大振幅の低周波数成分が卓越するイベントもみられた．そのようなイベントは浅部活動域には存在しなかった．
深部でも低周波イベントと高周波イベントが発生するということは，深部の活動でも流体の関与が考えられる．ただし深部イベントの観測記録は浅部イベントと異なる伝播経路の影響を受けており，従来のFI等を用いて両者の単純な比較はできない．とはいえ深部にもかかわらず明らかに高周波の地震波が出ているのは間違いなく，その発生メカニズムについて，今後，発生深度の精度向上や伝播経路の影響の検討などを通して追求していく方針である．
謝辞
本研究では，気象庁，防災科学技術研究所，北海道大学，東北大学および青森県による地震観測データを使用しました．記して感謝いたします．
参考文献
Nakajima, J. and A. Hasegawa, (2021), Prevalence of shallow low-frequency earthquakes in the continental crust. J. Geophys. Res., 126, e2020JB021391.
Yoshida, K., A. Hasegawa, S. Noguchi and K. Kasahara (2020), Low-frequency earthquakes observed in close vicinity of repeating earthquakes in the brittle upper crust of Hakodate, Hokkaido, northern Japan, Geophys. J. Int., 223(3), 1724-1740.