日本地震学会2024年度秋季大会

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一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09] AM-1

2024年10月21日(月) 09:00 〜 10:15 A会場 (4階国際会議室)

座長:上野 友岳(防災科学技術研究所)、野口 科子((公財)地震予知総合研究振興会)

10:00 〜 10:15

[S09-05] 2016年熊本地震の前震と本震後に発生した地震活動におけるせん断歪エネルギー変化の特徴

*上野 友岳1、齊藤 竜彦1 (1. 防災科学技術研究所)

地震活動の活動度は地震発生数や地震発生レート(例えばKnopoff et al., 1996),積算モーメント解放量やその増加率などでも評価され(例えばSavage and Simpson, 1997),断層運動などによる応力変化との関係性が指摘されている(例えばKing et al., 1994).そこで,我々は応力や歪から推定されるせん断歪エネルギー変化量で地震活動を評価する試みを行う.本研究では2016年熊本地震に着目し,前震発生後から本震発生前までの地震活動(前震の余震)と本震後7年間の地震活動(余震)についてせん断歪エネルギーを求め,その変化量と空間分布の特徴を明らかにする.
 地震を引き起こす原動力は弾性リソスフェアのせん断応力であり,地震活動を定量化するためには,地震活動によってリソスフェアから失われるせん断歪みエネルギーを調べることが重要である.地震発生によるリソスフェアのせん断歪みエネルギーの変化量を見積もるためには,断層運動に加え,背景応力場が必要である.本研究では,背景応力場の応力の主軸方向と応力比,そして,差応力を100MPaと仮定した.また,熊本地震の前震 (MW 6.1),本震 (MW 7.1)の断層として,一様すべりの矩形断層を仮定した.前震の余震(24イベント)や本震の余震(240イベント)は,F-netモーメントテンソル解をもとに断層を設定した。
 見積もったせん断歪みエネルギー変化は,前震,前震の余震,余震は~-1015 J程度,本震は~-1016 Jであり,本震以外のせん断歪みエネルギー変化量は,本震の1割程度であった.なお,前震の余震によるせん断歪エネルギーの変化量は前震と同程度であり,これは2016年熊本地震の前震活動の特徴である.また,前震活動のせん断歪エネルギー変化の空間分布は,前震と似たような分布となった.これは前震の数時間後に発生したMw6.0の地震の影響であると考えられる.一方,本震と余震のせん断歪エネルギー変化の空間分布は見かけ上似ていない.このように,せん断歪エネルギー変化の空間分布の特徴は前震の余震と余震で大きく異なる.また,前震,本震のせん断歪エネルギー変化の空間分布とそれぞれの余震活動の震源分布を比較すると,断層から離れ,せん断歪みエネルギーが増加している領域で地震数が多いことも確認でき,Noda et al. (2020)の結果とも調和的であった。ただし,前震の余震活動によって前震のせん断歪エネルギー変化を解消していない.これらのことを総合的に解釈すると,せん断歪エネルギー変化に与える影響が小さい地震が,前震のせん断歪エネルギー変化の増加域で多く発生していることが考えられる.そして,2016年熊本地震の一連の活動が開始する前に蓄えられていた歪エネルギー量が,前震やその余震活動では解消しきれず,本震が発生したと考えられる.