日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09] AM-2

2024年10月21日(月) 10:30 〜 11:45 A会場 (4階国際会議室)

座長:汐見 勝彦(防災科学技術研究所)、齊藤 竜彦(防災科学技術研究所)

10:30 〜 10:45

[S09-06] 南海トラフにおける力学的固着:歴史地震・長期的スロースリップイベント・将来起こりうる大地震

*齊藤 竜彦1、野田 朱美2 (1. 防災科学技術研究所地震津波防災研究部門、2. 気象庁)

力学に基づき多様な大地震を想定する研究開発に取り組んできた.例えば,相模トラフにおける応力蓄積域を力学的固着パッチとしてGNSS解析によって同定し,元禄・大正関東地震とスロースリップのすべり分布モデルを構築した.そして,これらイベントの力学的固着パッチへの影響を考慮したうえで,将来起こりうる大地震の破壊シナリオとして6つのすべり分布モデルを構築した (Saito & Noda 2023 BSSA).南海トラフにおいては,力学的固着パッチを同定したものの (Noda et al. 2018 JGR, Noda et al. 2021 JGR; Saito & Noda 2022 JGR),歴史地震活動および長期的スロースリップイベントが力学的固着パッチに与える影響の定量評価は未完であった.そこで本研究では,南海トラフにおける歴史地震,長期的スロースリップイベントのすべり分布モデルを構築,力学的固着パッチに与える影響を評価したうえで,今後起こりうる大地震のすべり分布モデルを構築する.
 GNSS解析による力学的固着域推定の解像度は海域で低下する.そのため,本研究では,スロースリップや浅部微動の発生域を考慮することで,力学的固着の位置と空間の拡がりを設定した.具体的には歴史地震のセグメント構造から5つのパッチ(室戸沖(Mu), 紀伊半島沖(Ki), 熊野灘(Ku), 遠州灘(En), 東海 (To))を,豊後水道長期的スロースリップに対応するパッチ(Bu)を設定した.その後,GNSSデータのインバージョン解析によって,それぞれのパッチの応力蓄積速度を推定した.
 得られた力学的固着モデルを使って,長期的スロースリップイベント,歴史地震,および,今後起こりうる大地震の破壊シナリオとしてすべり分布モデルを構築する.豊後水道のパッチ(Bu)へ蓄積される6年間ぶんの応力を解放することで,豊後水道スロースリップイベントの規模Mw 7を再現できる.また,パッチ (Mu, Ki, Ku, En, To) への応力蓄積を歴史地震の発生履歴から見積もり,5つの力学的パッチの連動パターンから多様な断層破壊を想定する.特に,パッチMu-Ki-Ku-Enの連動破壊によって1707年宝永地震を, Ku-En-Toにより1854年安政東海地震を,Mu-Kiによって1854年安政南海地震を,Ku-Enによって1944年昭和東海地震 (Mw 8.1)を,Mu-Kiによって1946年昭和南海地震 (Mw 8.4)のすべり分布モデルを作成した.比較的高い信頼度で推定されてきた昭和東南海・南海地震のすべり分布およびモーメントマグニチュードを,本研究で提案する手法によっておおよそ再現することができる.この手法では,すべりが起こる範囲を設定する必要がある.すべりが海溝まで達するとした場合,達しない場合と比べ,モーメントマグニチュードがおよそ0.1から0.2程度大きくなる.
 さらに,2026年時点で蓄積されている応力蓄積量を見積もり,この応力解放によって起こりうる大地震を合成した.5つの力学パッチが全て破壊する場合 (Mu-Ki-Ku-En-To,Mw 8.44), 安政東南海地震型(Ku-En-To, Mw 8.14),南海地震型(Mu-Ki, Mw 8.31)の破壊シナリオを含む大地震の破壊シナリオを提案することができる.
 今後,昭和・安政地震の地震記録・津波記録等を利用し,力学的固着モデルの検証を行えるようにすることが重要である.また,将来的に海域GNSS観測点が増えれば,より直接的な検証と改良を期待できる.