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[S09-15] 日本海溝北部における浅部微動分布とS波速度構造の空間相関
日本海溝北部では浅部微動が深さ約13 kmのプレート境界等深線(Koketsu et al. 2012)に沿って分布する(Tanaka et al. 2019; Nishikawa et al. 2019)。しかし、微動分布はプレート走向方向に連続的ではなく、微動の空白域が存在する。本研究では、日本海溝北部における浅部微動分布を規定する要因を明らかにするため、常時微動表面波を用いたトモグラフィー解析により同領域のS波速度構造を推定した。使用するデータは、2006年10月〜2007年6月と2007年10月〜2008年6月にそれぞれ青森県沖と岩手・宮城県沖で実施された自己浮上型海底地震計を用いた海底地震観測による連続記録である。観測点数は88点、観測点間隔間は約20 kmであり、S-netに比べてより高密度である。地震計水平成分の方位を推定・補正後、常時微動相互相関関数の全観測期間平均を計算し、周期10〜20秒においてレイリー波基本モード・1次高次モードとラブ波基本モードを抽出した。まず青森県沖の観測データを用いて抽出した表面波の位相速度からS波速度構造を推定した結果、微動分布と推定したS波速度構造に良い相関が見られた。微動はプレート境界及び上盤内のS波速度が低い領域のみで発生しており、低S波速度領域の広がりはプレート走向・傾斜方向に微動分布と一致する。この低S波速度領域は、海溝から100 km 程度・深さ20 km程度まで存在し、沈み込む海洋プレート堆積層からの脱水深度(Hyndman & Peacock 2003; Nishikawa et al. 2023)と対応することから、海洋プレート堆積層から脱水した流体を反映していると考えられる。また、岩手・宮城県沖の観測データも含めた解析から得られた位相速度マップからも、岩手県沖と宮城県沖で発生する微動発生域において低速度であることが示された。以上のことから、日本海溝北部では、沈み込む海洋プレート堆積層から排出された流体が浅部微動発生に寄与していると考えられ、その流体分布がプレート走向方向に不連続な浅部微動の分布を規定している可能性がある。