11:45 〜 12:00
[S09-21] クーロン応力変化を用いた関東地方の海溝型地震サイクル中に変化する地震活動のモデル化
関東地方周辺では,過去の地震履歴から元禄関東地震及び大正関東地震といった相模トラフ沿いの海溝型大地震の前にM7程度の地震が複数回発生したことが知られている(中央防災会議,2013).このように,その地域を代表する断層での大地震が長期間に渡ってその周辺の地震活動に影響を与えるような傾向は,西南日本やサンフランシスコ湾岸地域でも観測されている.多くの先行研究では,観測された地震活動の時間変化を説明するための指標としてクーロン破壊応力変化(ΔCFS)が使用され,その有効性が実証されてきた(例えば,Hori and Oike,1999).本研究では,相模トラフ沿いの海溝型大地震サイクルの応力変化が関東地方周辺の地震活動の時間変化に与える影響をΔCFSに基づいて評価した.
モール・クーロンの破壊条件では,クーロン破壊応力(CFS)が断層強度を超えた時に地震が発生する.多数の断層からなる断層群があり,それぞれの断層におけるCFSが0から断層強度まで一様に分布している場合,単位時間あたりの地震発生数はクーロン応力の増加速度に比例する(例えば,Ader et al.,2014).そのため,単位時間あたりのCFSの過去の最大値からの増分をクーロン破壊速度(CFR)と定義すると,CFRが大きいほど地震の発生頻度が高まると言える.
応力の計算領域は,東経138.4〜142度,北緯34.4〜36.6度,深さ0〜80kmの範囲とし,多様な地震メカニズム解を考慮するために,1997年から2023年の期間のM3.5以上のF-netのメカニズム解(福山ほか,1998)に対して1年間隔のCFRを計算した.ただし,計算負荷を低減するために計算領域内の格子点(0.2°間隔)上で応力テンソルを計算し,セントロイド位置が最も近い格子点の応力テンソルを用いて各メカニズム解に対するCFRを近似した.
媒質は半無限マクスウェル粘弾性層の上に厚さ60 kmの弾性層がある2層構造を仮定し,応力変化の計算には粘弾性応答の半解析解(Fukahata and Matsu’ura,2006)のソースコードを使用した.粘弾性層での粘性率は1.0×1019 Pa sとし,この時のマクスウェル緩和時間は約5.28年である.応力源は,相模トラフ沿いの海溝型大地震サイクル,2011年東北地方太平洋沖地震,長期的な定常応力載荷の3つを考慮した.相模トラフ沿いの固着による応力変化は,Nishimura et al.(2018)のバックスリップ速度のうち,深さ30 km以浅をバックスリップで与えた際の時間無限大の解を定常成分として累加する.相模トラフ沿いの海溝型大地震は,200年毎に1923年大正関東地震と同規模程度の大地震(以降,大正型地震とする),1800年ごとに1707年元禄関東地震と同規模程度の大地震(以降,元禄型地震とする)が発生し,元禄型地震の発生時には大正型地震は発生しないものと仮定した.元禄型地震のすべり域はバックスリップ領域の全域,大正型地震のすべり域は東経約140度以西の領域に対して,地震間に蓄積したバックスリップを全て解放するように地震時すべりを与えた.次に,2011年東北地方太平洋沖地震による応力変化は,茨城県沖の最大余震を含む4つの矩形断層モデルを仮定し,地震時すべりを与えた.最後に,長期的な定常応力載荷は,CFS速度を1 kPa/yearとして与えた.これらの応力源を考慮して,各メカニズム解に対する地震サイクル中の1年毎のCFRの時間変化を計算した.
1923年大正関東地震から次の海溝型大地震までの地震活動を評価するために,本モデルの地震サイクルの中における元禄型地震の次の大正型地震からの200年間ついて着目した.空間的なCFRの時間変化の傾向を調べるために,1年毎に各メカニズム解のCFRを最近傍の格子点上で累積し,さらに同一緯度経度の格子点のCFRを合計することで,水平格子点上のCFRの時間変化を計算した.各水平格子点上の1年毎のCFRを50年間隔で累積すると,大正型地震から150年後以降(西暦2073年から2123年に相当)で伊豆半島東方沖付近や東京都及び神奈川県西部でCFRが急激に増加する傾向にあることが分かった(Fig. 1).ただし,本モデルでは長期的な定常応力載荷としてCFS速度を一律1 kPa/yearで仮定しており,伊豆マイクロプレートの境界となっている伊豆半島東方沖付近のような地域では,地震活動の時間変化の傾向を正しく評価できていない可能性が考えられる.今後の課題として,このような応力載荷速度の地域的な違いを考慮する必要があると考えられる.
謝辞:本研究は,京都大学・東京工芸大学・清水建設・大崎総合研究所の共同研究「レジリエンス&サステナビリティを考慮した建物性能評価」の一部として実施しました.また,粘弾性応答の計算には深畑幸俊教授から頂いたプログラムを改変して使用しました.メカニズム解のデータは防災科学技術研究所(F-net)を使用しました.図の作成にはGMT6(Wessel et al.,2019)を使用しました.ここに記して感謝いたします.
モール・クーロンの破壊条件では,クーロン破壊応力(CFS)が断層強度を超えた時に地震が発生する.多数の断層からなる断層群があり,それぞれの断層におけるCFSが0から断層強度まで一様に分布している場合,単位時間あたりの地震発生数はクーロン応力の増加速度に比例する(例えば,Ader et al.,2014).そのため,単位時間あたりのCFSの過去の最大値からの増分をクーロン破壊速度(CFR)と定義すると,CFRが大きいほど地震の発生頻度が高まると言える.
応力の計算領域は,東経138.4〜142度,北緯34.4〜36.6度,深さ0〜80kmの範囲とし,多様な地震メカニズム解を考慮するために,1997年から2023年の期間のM3.5以上のF-netのメカニズム解(福山ほか,1998)に対して1年間隔のCFRを計算した.ただし,計算負荷を低減するために計算領域内の格子点(0.2°間隔)上で応力テンソルを計算し,セントロイド位置が最も近い格子点の応力テンソルを用いて各メカニズム解に対するCFRを近似した.
媒質は半無限マクスウェル粘弾性層の上に厚さ60 kmの弾性層がある2層構造を仮定し,応力変化の計算には粘弾性応答の半解析解(Fukahata and Matsu’ura,2006)のソースコードを使用した.粘弾性層での粘性率は1.0×1019 Pa sとし,この時のマクスウェル緩和時間は約5.28年である.応力源は,相模トラフ沿いの海溝型大地震サイクル,2011年東北地方太平洋沖地震,長期的な定常応力載荷の3つを考慮した.相模トラフ沿いの固着による応力変化は,Nishimura et al.(2018)のバックスリップ速度のうち,深さ30 km以浅をバックスリップで与えた際の時間無限大の解を定常成分として累加する.相模トラフ沿いの海溝型大地震は,200年毎に1923年大正関東地震と同規模程度の大地震(以降,大正型地震とする),1800年ごとに1707年元禄関東地震と同規模程度の大地震(以降,元禄型地震とする)が発生し,元禄型地震の発生時には大正型地震は発生しないものと仮定した.元禄型地震のすべり域はバックスリップ領域の全域,大正型地震のすべり域は東経約140度以西の領域に対して,地震間に蓄積したバックスリップを全て解放するように地震時すべりを与えた.次に,2011年東北地方太平洋沖地震による応力変化は,茨城県沖の最大余震を含む4つの矩形断層モデルを仮定し,地震時すべりを与えた.最後に,長期的な定常応力載荷は,CFS速度を1 kPa/yearとして与えた.これらの応力源を考慮して,各メカニズム解に対する地震サイクル中の1年毎のCFRの時間変化を計算した.
1923年大正関東地震から次の海溝型大地震までの地震活動を評価するために,本モデルの地震サイクルの中における元禄型地震の次の大正型地震からの200年間ついて着目した.空間的なCFRの時間変化の傾向を調べるために,1年毎に各メカニズム解のCFRを最近傍の格子点上で累積し,さらに同一緯度経度の格子点のCFRを合計することで,水平格子点上のCFRの時間変化を計算した.各水平格子点上の1年毎のCFRを50年間隔で累積すると,大正型地震から150年後以降(西暦2073年から2123年に相当)で伊豆半島東方沖付近や東京都及び神奈川県西部でCFRが急激に増加する傾向にあることが分かった(Fig. 1).ただし,本モデルでは長期的な定常応力載荷としてCFS速度を一律1 kPa/yearで仮定しており,伊豆マイクロプレートの境界となっている伊豆半島東方沖付近のような地域では,地震活動の時間変化の傾向を正しく評価できていない可能性が考えられる.今後の課題として,このような応力載荷速度の地域的な違いを考慮する必要があると考えられる.
謝辞:本研究は,京都大学・東京工芸大学・清水建設・大崎総合研究所の共同研究「レジリエンス&サステナビリティを考慮した建物性能評価」の一部として実施しました.また,粘弾性応答の計算には深畑幸俊教授から頂いたプログラムを改変して使用しました.メカニズム解のデータは防災科学技術研究所(F-net)を使用しました.図の作成にはGMT6(Wessel et al.,2019)を使用しました.ここに記して感謝いたします.