13:30 〜 13:45
[S09-23] 統計モデルを用いた大地震前の前震活動加速現象に関する全世界的調査
大地震の前駆現象に関する研究は、地震の予測可能性を議論する上で極めて重要である。特に、大地震前に発生する前震活動は、これまで活発に研究されてきた。例えば、Bouchon et al. (2013)は、環太平洋のプレート境界で発生する大地震多くで、その直前に前震発生数が加速度的に増加したと主張した。また、Nishikawa & Ide (2018)は、2008年に茨城県沖で発生したM6.9のプレート境界地震の数日前に、加速的な前震の群発活動があったと報告している。さらに、数値シミュレーションや室内岩石実験においても、大地震の直前に前震発生数が加速度的に増加することが示唆されている(McLaskey, 2019; Ito & Kaneko, 2023など)。しかし、Bouchon et al. (2013)に関しては、地震活動のクラスタリングの影響を十分に考慮できていないことなどが、その後、批判されている(Felzer et al., 2015)。また、Nishikawa & Ide (2018)も、解析対象が茨城県沖の地震活動に限られており、同様の加速現象が、他の大地震においてどの程度一般的であるのかは不明である。
そこで、本研究では、世界標準の地震活動統計モデルであるETASモデル(Ogata, 1988)を用いて、大地震前の前震活動について全世界的調査を実施した。前震活動を評価するために、数値シミュレーションや岩石実験の結果を参考に、大地震前の前震活動の加速を表す項(=L/(Teq - t + d)q)をETASモデルに新たに加えた。この項は、逆大森則に類似しており、大地震(本震)発生時刻に至るまでの地震発生レートの加速を記述する。ここで、tは時刻、Teqは本震発生時刻、L, d, qは新たなモデルパラメータである。
さらに、本研究では、上記のモデルに基づき、前震活動の特徴を定量化する新たな指標を定義した。まず、地震発生時刻における地震発生レート(定常な背景レート、余震発生レート、前震発生レートの合計)のうちの前震項の割合を評価することで、「前震確率」(各地震が前震項から生じた確率)を定義し、それを各地震に対して計算した。次に、計算された前震確率が50%を上回る地震を前震と定義し、その個数を「前震個数」とした。また、本震発生時刻から遡り、全前震の半数が含まれる期間を「前震50%期間」と定義し、前震活動を特徴づける時定数とみなした。以降の解析では、前震個数と前震50%期間を用いて、前震活動を定量化する。
本研究では、上記の新たなモデルと指標を、ANSS地震カタログに記載されている、2000年から2024年に発生した全世界のM6.5以上の大地震(366個)に適用した。具体的には、大地震の震央から100km以内で、大地震前の10年以内に発生したM4.5以上の地震の活動を解析した。ここで、解析対象とは別の大地震の余震活動による影響を排除するため、Maeda (1996)の余震活動継続時間に関する式を用いて、対象の大地震が、それよりも大きな地震の余震活動期間内に発生していた場合は、解析から除外した。
その結果、366個の大地震のうち、18個(約4.5%)の大地震の前に、前震活動の加速現象と解釈できる活動が観察された。ここでは、前震個数が5個以上、前震50%期間が10日未満となった前震活動を、顕著な加速を示すものと評価した。例えば、Nishikawa & Ide (2018)で解析された、日本海溝沈み込み帯における2008年の茨城県沖の地震や、2008年にバヌアツ沈み込み帯で発生したM7.3のプレート境界地震は、特に顕著な前震活動の加速を示した。2008年の茨城県沖の地震は前震個数15個、前震50%期間0.025日を記録し(L=0.42, d=0.042日, q=2.1)、2008年のバヌアツの地震は前震個数10個、前震50%期間0.05日を記録した(L=0.73, d=0.061日, q=1.7)。また、バヌアツ沈み込み帯では、前震活動の加速現象と解釈できる現象が、他にも多数見られた。
上記の解析に加えて、地震活動の加速現象が大地震前に特有の現象であるか検証するために、小地震前の地震活動に対しても同様の解析を現在実施している。また、加速現象の偶然性を評価するため、ETASモデルから合成された地震カタログに対しても同様の解析を実施予定である。
以上のように、本研究は、前震活動の特徴を定量化し、評価するための新たな解析の枠組みを提案するとともに、全世界の前震活動の特徴を明らかにするものである。
そこで、本研究では、世界標準の地震活動統計モデルであるETASモデル(Ogata, 1988)を用いて、大地震前の前震活動について全世界的調査を実施した。前震活動を評価するために、数値シミュレーションや岩石実験の結果を参考に、大地震前の前震活動の加速を表す項(=L/(Teq - t + d)q)をETASモデルに新たに加えた。この項は、逆大森則に類似しており、大地震(本震)発生時刻に至るまでの地震発生レートの加速を記述する。ここで、tは時刻、Teqは本震発生時刻、L, d, qは新たなモデルパラメータである。
さらに、本研究では、上記のモデルに基づき、前震活動の特徴を定量化する新たな指標を定義した。まず、地震発生時刻における地震発生レート(定常な背景レート、余震発生レート、前震発生レートの合計)のうちの前震項の割合を評価することで、「前震確率」(各地震が前震項から生じた確率)を定義し、それを各地震に対して計算した。次に、計算された前震確率が50%を上回る地震を前震と定義し、その個数を「前震個数」とした。また、本震発生時刻から遡り、全前震の半数が含まれる期間を「前震50%期間」と定義し、前震活動を特徴づける時定数とみなした。以降の解析では、前震個数と前震50%期間を用いて、前震活動を定量化する。
本研究では、上記の新たなモデルと指標を、ANSS地震カタログに記載されている、2000年から2024年に発生した全世界のM6.5以上の大地震(366個)に適用した。具体的には、大地震の震央から100km以内で、大地震前の10年以内に発生したM4.5以上の地震の活動を解析した。ここで、解析対象とは別の大地震の余震活動による影響を排除するため、Maeda (1996)の余震活動継続時間に関する式を用いて、対象の大地震が、それよりも大きな地震の余震活動期間内に発生していた場合は、解析から除外した。
その結果、366個の大地震のうち、18個(約4.5%)の大地震の前に、前震活動の加速現象と解釈できる活動が観察された。ここでは、前震個数が5個以上、前震50%期間が10日未満となった前震活動を、顕著な加速を示すものと評価した。例えば、Nishikawa & Ide (2018)で解析された、日本海溝沈み込み帯における2008年の茨城県沖の地震や、2008年にバヌアツ沈み込み帯で発生したM7.3のプレート境界地震は、特に顕著な前震活動の加速を示した。2008年の茨城県沖の地震は前震個数15個、前震50%期間0.025日を記録し(L=0.42, d=0.042日, q=2.1)、2008年のバヌアツの地震は前震個数10個、前震50%期間0.05日を記録した(L=0.73, d=0.061日, q=1.7)。また、バヌアツ沈み込み帯では、前震活動の加速現象と解釈できる現象が、他にも多数見られた。
上記の解析に加えて、地震活動の加速現象が大地震前に特有の現象であるか検証するために、小地震前の地震活動に対しても同様の解析を現在実施している。また、加速現象の偶然性を評価するため、ETASモデルから合成された地震カタログに対しても同様の解析を実施予定である。
以上のように、本研究は、前震活動の特徴を定量化し、評価するための新たな解析の枠組みを提案するとともに、全世界の前震活動の特徴を明らかにするものである。