10:30 〜 10:45
[S12-01] 熱弾性不安定と局所的な温度弱化摩擦に起因する高速摩擦時の動的弱化における試料サイズ依存性に関するシミュレーション
室内摩擦実験と大地震が繰り返す天然の断層挙動を繋げる上で、岩石摩擦のスケール依存性の解明は非常に重要な課題である。Tsutsumi and Shimamoto (1997) による高速摩擦実験以来、実験室の条件で摩擦発熱が重要となる 0.1 m/s 程度以上の高速摩擦時の摩擦強度の急激な低下(動的弱化)に関して、cm サイズの試料に対して多くの実験的研究が行われてきた(例えば Di Toro et al., 2011)。Yao et al. (2016) は母岩の熱物性を変化させた摩擦実験を行い、動的弱化が滑り速度よりもむしろ温度上昇に伴う現象であることを突き止めた。一方 Yamashita et al (2015) は長さ1.5 m、幅 0.1 m を持つ大試料の摩擦実験を行い、動的弱化が 0.01 m/s 程度の比較的低速で発生する事を報告し、摩擦面における垂直応力 σ の不均質によって局所的な動的弱化が発生した可能性を議論した。最近 Noda (2023) は、垂直応力の不均質がそれに伴う摩擦発熱と熱膨張の不均質により自発的に増大する「熱弾性不安定」(Thermoelastic instability, TEI (Barber, 1967; Dow and Burton, 1972))に着目し、臨界滑り速度 Vcr が試料サイズに反比例し、室内実験で用いられる速度範囲内となる事を指摘した。ただし、摩擦実験で実際に発生する動的弱化は V/Vcr = 10 程度で発生しており、より詳細な議論のためには数値シミュレーション等を援用した研究が必要であった。本研究では TEI を効率的に計算する手法を開発し、局所的には温度弱化の性質を持つ摩擦面に対して数値シミュレーションを行い、摩擦実験中における TEI の可能性をより定量的に議論する。
2つの半無限媒質の境界に平面の摩擦面を設定し、面外方向の一様滑りを考える。熱弾性に関しては uncoupled thermoelasticity の2次元準静的面内問題を考える。試料サイズのプロキシとして、摩擦面に垂直な周期境界を間隔 W で仮定する。Noda (2023) は σ の時間発展に関して、スペクトル境界積分法を多数のメモリー変数を用いて近似する事により常微分方程式の逐次積分として計算する手法を見出した。今回はこれに加え、温度 T の時間発展の計算を、スペクトル法と摩擦面と垂直方向の波数を対数的に取る (Noda and Lapusta, 2010) 工夫を用いて実装した。また摩擦面は引張の垂直応力を支えないので、各時間ステップにおいて静的熱弾性問題を解き局所的な開き分布についても計算した。
Yamashita et al. (2015) の摩擦実験と同様の σ の平均値 6.7 MPa、および総滑り量を 0.4 m とした数値計算を行った。初期の垂直応力不均質として、Hurst 指数 0 で 0.1 m の波長の振幅を平均値の 2.5% として数値計算を行った。摩擦係数は常温で 0.75、温度弱化の割合は 3×10-4 /K とした。その結果、W = 1 mm では V = 0.1 m/s でも動的弱化は発生せず、不均質の存在しない場合の一様解とほぼ変化が無かった。W = 1 cm では V = 1.8×10-2 m/s (V/Vcr = 1.44) 程度、W = 0.1 m では V = 7.9×10-3 m/s (V/Vcr = 6.43) 程度で一様解からの乖離(弱化)が認められたが、弱化が顕著になるにはより大きな V が必要となる。特に、弱化は部分的な摩擦面の開きが発生した辺りから目立つ様になった。部分的な開きは σ の不均質の振幅が σ の平均値と同程度になった事を示しており、不均質の振幅が重大となった事の現れと解釈する事ができる。ただし今回の数値計算では摩擦抵抗は σ に比例するので、σ 不均質のみでは一様解からの弱化を引き起こす事は出来ない。また線形温度弱化を仮定しているので、T の不均質のみでは弱化の原因とならない。摩擦が温度弱化の性質を持つ場合、TEI によって引き起こされる σ と T 正の相関が、一様解からの弱化の原因となる。本研究によって摩擦実験中に TEI が発生している事が強く示唆された。今後、摩擦実験中の温度分布や垂直応力の分布の測定等を通じた実証が重要な課題である。
2つの半無限媒質の境界に平面の摩擦面を設定し、面外方向の一様滑りを考える。熱弾性に関しては uncoupled thermoelasticity の2次元準静的面内問題を考える。試料サイズのプロキシとして、摩擦面に垂直な周期境界を間隔 W で仮定する。Noda (2023) は σ の時間発展に関して、スペクトル境界積分法を多数のメモリー変数を用いて近似する事により常微分方程式の逐次積分として計算する手法を見出した。今回はこれに加え、温度 T の時間発展の計算を、スペクトル法と摩擦面と垂直方向の波数を対数的に取る (Noda and Lapusta, 2010) 工夫を用いて実装した。また摩擦面は引張の垂直応力を支えないので、各時間ステップにおいて静的熱弾性問題を解き局所的な開き分布についても計算した。
Yamashita et al. (2015) の摩擦実験と同様の σ の平均値 6.7 MPa、および総滑り量を 0.4 m とした数値計算を行った。初期の垂直応力不均質として、Hurst 指数 0 で 0.1 m の波長の振幅を平均値の 2.5% として数値計算を行った。摩擦係数は常温で 0.75、温度弱化の割合は 3×10-4 /K とした。その結果、W = 1 mm では V = 0.1 m/s でも動的弱化は発生せず、不均質の存在しない場合の一様解とほぼ変化が無かった。W = 1 cm では V = 1.8×10-2 m/s (V/Vcr = 1.44) 程度、W = 0.1 m では V = 7.9×10-3 m/s (V/Vcr = 6.43) 程度で一様解からの乖離(弱化)が認められたが、弱化が顕著になるにはより大きな V が必要となる。特に、弱化は部分的な摩擦面の開きが発生した辺りから目立つ様になった。部分的な開きは σ の不均質の振幅が σ の平均値と同程度になった事を示しており、不均質の振幅が重大となった事の現れと解釈する事ができる。ただし今回の数値計算では摩擦抵抗は σ に比例するので、σ 不均質のみでは一様解からの弱化を引き起こす事は出来ない。また線形温度弱化を仮定しているので、T の不均質のみでは弱化の原因とならない。摩擦が温度弱化の性質を持つ場合、TEI によって引き起こされる σ と T 正の相関が、一様解からの弱化の原因となる。本研究によって摩擦実験中に TEI が発生している事が強く示唆された。今後、摩擦実験中の温度分布や垂直応力の分布の測定等を通じた実証が重要な課題である。