[S12P-01] 2016年鳥取県中部地震余震域における空間応力バターン推定
山陰地方は日本において活発な地震活動が見られる地域の1つであり,M6および7クラスの地震が繰り返し発生している.しかし,こういった地震活動が見られる原因については不明瞭な点が多く,この地域の応力場について調べることは重要であろう.ここでは近年開発した手法により,近年同地域で発生した地震の1つである2016年鳥取県中部地震の余震域における応力空間パターンを求めることを試みた.
データは京都大学防災研究所の満点および0.1満点システム[飯尾・他, 2017; IIo et al., 2018]や東京大学地震研究所による臨時観測点及び気象庁や防災科学技術研究所の定常観測点によって得られたP波初動(押し引き)である[Iio et al., 2020].解析対象地域は2016年鳥取県中部地震の本震震央を囲む東西・南北40kmの領域とした.満点および0.1満点システムを稼働した2016年10月22日午前6:33より同年12月15日までに得られたものの中から比較的読み取り精度のよいものとしてP波の理論走時と実際のものとの差(O-C time)が0.2秒以内,またS波については読み取りがされていればO-C timeが0.5秒以内のものを選んだ。結果として残された13,783個の地震(余震)から得られた392,227個のP波初動データを解析した
手法にはIwata[2018]を改良した岩田[2023]を用いた.Iwata[2018]は事前にメカニズム解を求めずP波初動から直接応力場を推定するHoriuchi et al.[1995]やAbers et al.[2001]の考え方を,ベイズ推定の枠組みにより,応力場の空間パターンを平滑化拘束条件の下で先験的な領域分けを行うことなく連続的に求められるよう拡張したものである.Iwata[2018]は応力場の空間パターンを,スプライン間隔一定の3次B-スプラインで表現していたが震央位置を頂点とするドロネー三角形分割に基づくスプラインを導入することで空間解像度を向上したものが岩田[2023]である.なお、ここでの「応力場」とは最大(σ1)・中間(σ2)・最小(σ3)主応力軸の向きのことである.
推定結果として,各震央で推定されたσ1軸の水平面内における方位角(Azimuth, 真北から時計回りに測った角度)を図(a)に示す.なおσ1軸の水平面からの鉛直方向への傾き(plunge)は98%以上の位置において±25度以内であり,概ね水平であると言える.図(a)に示されるようにσ1軸は全体的に西北西-東南東方向であり,山陰地方全体の平均的な応力場(例えばIio et al.[2018])と調和的である.しかし,北北西-南南東方向に走る本震断層の南東端(x=4, y=-3近辺)および北西端(x=-3, y=6近辺)では東西あるいは東北東-西南西方向と,反時計方向に回転している.なお推定誤差(図(b))は概ね10°未満であることから,この「回転」は有意である.
2016年鳥取県中部地震本震の断層運動は左横ずれで,伸張場となる主断層の南東端と北西端で期待される応力回転の向きは反時計方向となる.上述の「回転」はこれと合致している(Iwata[2018]のFig.11も参照).またIio et al. [2021, 2023]では,これらの領域における余震の地震のメカニズム解とそれを元にした応力インバージョンから同様の回転が生じていることが示されており,それらと調和的である.なお、図1(a)にはこの「回転」以外にも細かい応力場の空間変動が見られ,これらについては今後の精査・考察が必要である.
参考文献
Abers et al., 2001, JGR, doi:10.1029/2001JB000437.
Horiuchi et al., 1995, JGR, doi:10.1029/94JB03284.
飯尾・他, 2017, 京都大学防災研究所年報, 60B, 382-389.
Iio et al., 2018, Tectonophys., doi:10.1016/j.tecto.2017.12.007.
Iio et al., 2020, EPS, doi:10.1186/s40623-020-01161-x.
Iio et al., 2021, Comm. Earth Env., doi:10.1038/s43247-021-00231-6.
Iio et al., 2023, GJI, doi:10.1093/gji/ggac521.
Iwata, T., 2018, JGR, doi:10.1002/2017JB015359.
岩田貴樹, 2023, 日本地球惑星科学連合2023年大会, SCG56-P04.
データは京都大学防災研究所の満点および0.1満点システム[飯尾・他, 2017; IIo et al., 2018]や東京大学地震研究所による臨時観測点及び気象庁や防災科学技術研究所の定常観測点によって得られたP波初動(押し引き)である[Iio et al., 2020].解析対象地域は2016年鳥取県中部地震の本震震央を囲む東西・南北40kmの領域とした.満点および0.1満点システムを稼働した2016年10月22日午前6:33より同年12月15日までに得られたものの中から比較的読み取り精度のよいものとしてP波の理論走時と実際のものとの差(O-C time)が0.2秒以内,またS波については読み取りがされていればO-C timeが0.5秒以内のものを選んだ。結果として残された13,783個の地震(余震)から得られた392,227個のP波初動データを解析した
手法にはIwata[2018]を改良した岩田[2023]を用いた.Iwata[2018]は事前にメカニズム解を求めずP波初動から直接応力場を推定するHoriuchi et al.[1995]やAbers et al.[2001]の考え方を,ベイズ推定の枠組みにより,応力場の空間パターンを平滑化拘束条件の下で先験的な領域分けを行うことなく連続的に求められるよう拡張したものである.Iwata[2018]は応力場の空間パターンを,スプライン間隔一定の3次B-スプラインで表現していたが震央位置を頂点とするドロネー三角形分割に基づくスプラインを導入することで空間解像度を向上したものが岩田[2023]である.なお、ここでの「応力場」とは最大(σ1)・中間(σ2)・最小(σ3)主応力軸の向きのことである.
推定結果として,各震央で推定されたσ1軸の水平面内における方位角(Azimuth, 真北から時計回りに測った角度)を図(a)に示す.なおσ1軸の水平面からの鉛直方向への傾き(plunge)は98%以上の位置において±25度以内であり,概ね水平であると言える.図(a)に示されるようにσ1軸は全体的に西北西-東南東方向であり,山陰地方全体の平均的な応力場(例えばIio et al.[2018])と調和的である.しかし,北北西-南南東方向に走る本震断層の南東端(x=4, y=-3近辺)および北西端(x=-3, y=6近辺)では東西あるいは東北東-西南西方向と,反時計方向に回転している.なお推定誤差(図(b))は概ね10°未満であることから,この「回転」は有意である.
2016年鳥取県中部地震本震の断層運動は左横ずれで,伸張場となる主断層の南東端と北西端で期待される応力回転の向きは反時計方向となる.上述の「回転」はこれと合致している(Iwata[2018]のFig.11も参照).またIio et al. [2021, 2023]では,これらの領域における余震の地震のメカニズム解とそれを元にした応力インバージョンから同様の回転が生じていることが示されており,それらと調和的である.なお、図1(a)にはこの「回転」以外にも細かい応力場の空間変動が見られ,これらについては今後の精査・考察が必要である.
参考文献
Abers et al., 2001, JGR, doi:10.1029/2001JB000437.
Horiuchi et al., 1995, JGR, doi:10.1029/94JB03284.
飯尾・他, 2017, 京都大学防災研究所年報, 60B, 382-389.
Iio et al., 2018, Tectonophys., doi:10.1016/j.tecto.2017.12.007.
Iio et al., 2020, EPS, doi:10.1186/s40623-020-01161-x.
Iio et al., 2021, Comm. Earth Env., doi:10.1038/s43247-021-00231-6.
Iio et al., 2023, GJI, doi:10.1093/gji/ggac521.
Iwata, T., 2018, JGR, doi:10.1002/2017JB015359.
岩田貴樹, 2023, 日本地球惑星科学連合2023年大会, SCG56-P04.