日本地震学会2024年度秋季大会

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C会場

一般セッション » S14. 地震予知・予測

[S14] PM-1

2024年10月23日(水) 14:00 〜 15:00 C会場 (3階中会議室302)

座長:庄 建倉(情報・システム研究機構統計数理研究所)

14:00 〜 14:15

[S14-01] 古地震更新過程に関する尤度幾何平均推定値BPT分布ばらつきパラメータの偏り

*井元 政二郎1、森川 信之1、藤原 広行1 (1. 防災科学技術研究所)

はじめに
 古地震時系列に対するBrownian Passage Time (BPT) 分布モデル更新過程解析において,尤度幾何平均推定値を用いた地震発生確率の算出を我々は提案している.ここで,尤度幾何平均推定値は発生年不確定な時系列において想定できる地震間隔を全て用いたモデルパラメータの推定である.尤度幾何平均推定値に基づく地震発生確率(尤度幾何平均確率)は,不確定期間から地震発生年を無作為に抽出して作成された無作為抽出時系列による地震発生確率の平均値(抽出列平均確率)をよく近似する [井元・他 (地震,2024)].この近似において,標本数の影響に注目する.BPT分布でばらつきを表すパラメータ(ばらつき)について,Nomura et al. (2011) は小標本では真の値に比べ最尤推定値が偏ることを報告している.尤度幾何平均推定値は極めて多数の時間間隔を用いて最尤法で決定されている.これに対して,上の近似例では無作為抽出時系列の標本数は3個である.標本数の差に起因するばらつきパラメータ偏りの差は,上の近似に影響すると考えられる.本稿では,尤度幾何平均推定値ばらつきパラメータの偏りについて検討する.

偏りの原因
 小標本におけるBPT分布モデル最尤推定値のばらつきについて,Nomura et al. (2011) は式 (1)(表1)を導いている.ここで,左辺は真のばらつき値で右辺^付は最尤推定値,nは地震間隔数である.この補正について次の様に考察できる.ばらつきの最尤推定値は,式 (2a)(表1)あるいは (2b)(表1)で与えられる.ここで ti は第i番目の地震間隔である.式 (2a) 右辺第1項は地震間隔平均値と地震間隔逆数平均値との積となっている.両者の平均値を求める際に同じ組合せの地震間隔を用いているので,相加平均と相乗平均の関係から1以上となり,全ての地震間隔が等しい場合を除いて右辺は正となる.式 (2a) を展開した式 (2b)では, n2 個 の ti/tj のうち n 個は i=j で1となって寄与は 0 となる.i=j 以外の n(n-1) 個は ti/tj+tj/ti を組とする n(n-1)/2 組の和となり,各組は常に2を越えるため正の寄与がある.n(n-1) 個分の寄与を n2 個の寄与として平均するため求める値が (n-1)/n 倍されてしまう.BPT分布のばらつきが 0で無い場合には式 (2b)で ti=tj となるのは皆無(極めて稀)のはずであるが,式 (2b) には稀な例が標本数だけ含まれてしまう.
 尤度幾何平均推定値の平均間隔とばらつきについて解析解が導かれている [井元・他(地震,2023)].そこでは,式 (2a) の tiと 1/tj の代わりに式 (3) (4)(表1)で表されるi番目地震間隔の平均値とj番目地震間隔逆数の平均値が用いられる.これらの平均値を用いて,尤度幾何平均推定値の平均間隔とばらつきは式 (5)(表1)で表される.式 (5) に含まれる ti の平均と逆数の平均との積は,同一地震として複数の発生年があるので1より大きな値となり,ばらつきの算出に寄与する.この点が,地震発生年が確定している場合と異なっている.その寄与の大きさは不確定期間の長さに関係するため,一般的な補正式として表現することは出来ない.このため,式 (2a) から寄与の分を予め減じておくことで,式 (1) と同様の補正式として式 (6)(表1)を得る.ここで下付文字Cにより補正後の値を区別する.

実例
 六甲・淡路島断層帯淡路島西岸区間について,ばらつき値補正の効果を調べる.図1a において,期間200年の条件付き確率の推移を尤度幾何平均確率(赤線)と抽出列平均確率(青線)とで比較する.図1bで,地震間隔積算分布を尤度幾何平均推定値(赤線)と抽出時系列の平均(青線)で比較する.この図において両者がよく一致しており,図1a の両確率の乖離も僅かである.図2a は補正済みばらつき値を用いた条件付確率の比較を示す.図1a に比べ,乖離が小さい.図2b において,尤度幾何平均確率と抽出列平均確率の乖離を補正の前後で比較する(細線:補正前,太線:補正後).補正により両者の乖離が小さくなっていることが分かる.