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[S15-10] 強震動生成メカニズムの理解に向けた動的震源インバージョン手法の性能検証
これまで,運動学的震源インバージョンなどにより規模の大きな地震の震源過程が推定され,それらと強震動の生成メカニズムとの関係が議論されてきた.また,そのような運動学的震源モデルを満足しつつ観測波形も再現する動的震源パラメータの値とその空間分布(動力学的震源モデル)が主に動的破壊シミュレーションを用いて推定されてきた.一方,近年,マルコフ連鎖モンテカルロ法を用いることで,観測記録から動力学的震源モデルを推定する手法(以降,動的震源インバージョンと呼ぶ)が提案されている(例えば,Gallovič et al., 2019).
本研究では,強震動生成メカニズムと動的震源パラメータとの関係解明に向けて,Gallovič et al. (2019) を参考に動的震源インバージョン手法を構築し,手法の適用性確認のため,仮想的な震源モデルを用いたテスト計算を行っている.本手法は,具体的には,適当な確率分布に基づく動的パラメータの新たな値の提案,その動力学的震源モデルに基づく波形の合成・評価,およびメトロポリス・ヘイスティングス法に従った動的震源パラメータの値の確率的な更新を繰り返し実行することで,最終的に断層面上の点における動的震源パラメータの値についての事後分布を推定する.ここで,推定すべき動的震源パラメータは,摩擦構成則を規定する初期せん断応力,ピーク摩擦係数および臨界すべり変位量である.動的震源パラメータの新たな値は,震源モデルの過度な変動に伴う尤度の急変を避けるため,現状の値を中心とする正規分布からなる提案分布から生成した.尤度関数は観測波形と合成波形の残差二乗和とモーメントマグニチュードの残差二乗から構成した.合成波形は,動的破壊シミュレーションにより得られるすべり時間関数と予め計算されたグリーン関数とのたたみ込み積分を計算することで求める.動的破壊シミュレーションは差分法によるソースコードfd3d_TSN (Premus et al., 2020) を用いて行い,グリーン関数は離散化波数法 (Bouchon, 1981) および透過・反射係数行列 (Kennett and Kerry, 1979) により計算した.今回のテスト計算は平成28年熊本地震の最大前震(4月14日,MJMA6.5)への本手法の適用を想定しており,Asano and Iwata (2016) とF-netのメカニズム解を参考に仮定した1枚の鉛直矩形断層上における3種の動的震源パラメータの分布を与えた仮想的な断層モデルを設定した.破壊開始点はdouble-difference tomography法により再決定された位置 (Mitsuoka et al., 2020) を与え,この断層モデルに基づく合成波形を擬似観測波形としてインバージョンに使用した.また,動的破壊シミュレーションとグリーン関数の計算には,「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」により作成された三次元速度構造モデル(浅野・他,2019)と全国1次地下構造モデル (JIVSM; Koketsu et al., 2012) から構成した観測点毎の一次元速度構造モデルを用いた.今後は,得られる各動的震源パラメータの事後分布と仮想的な震源モデルでの値との比較から,本手法による動的震源パラメータの推定精度を定量的に評価し,用いる観測波形の周波数帯の影響なども検討した後,実際のデータに適用する.
Asano and Iwata. (2016). EPS, 68, 147.
浅野・他.(2019). 日本地球惑星科学連合2019年大会,SSS13-09.
Bouchon. (1981). BSSA, 71, 959–971.
Gallovič et al. (2019). J. Geophys. Res., Solid Earth, 124, 6949–6969.
Kennett and Kerry. (1979). Geophys. J. R. astr. Soc., 57, 557–583.
Koketsu et al. (2012). Proc. World Conf. Earthq. Eng., Paper No. 1773.
Mitsuoka et al. (2020). J. Geophys. Res., Solid Earth, 125, e2019JB018515.
Premus et al. (2020). SRL, 91, 2881–2889.
本研究では,強震動生成メカニズムと動的震源パラメータとの関係解明に向けて,Gallovič et al. (2019) を参考に動的震源インバージョン手法を構築し,手法の適用性確認のため,仮想的な震源モデルを用いたテスト計算を行っている.本手法は,具体的には,適当な確率分布に基づく動的パラメータの新たな値の提案,その動力学的震源モデルに基づく波形の合成・評価,およびメトロポリス・ヘイスティングス法に従った動的震源パラメータの値の確率的な更新を繰り返し実行することで,最終的に断層面上の点における動的震源パラメータの値についての事後分布を推定する.ここで,推定すべき動的震源パラメータは,摩擦構成則を規定する初期せん断応力,ピーク摩擦係数および臨界すべり変位量である.動的震源パラメータの新たな値は,震源モデルの過度な変動に伴う尤度の急変を避けるため,現状の値を中心とする正規分布からなる提案分布から生成した.尤度関数は観測波形と合成波形の残差二乗和とモーメントマグニチュードの残差二乗から構成した.合成波形は,動的破壊シミュレーションにより得られるすべり時間関数と予め計算されたグリーン関数とのたたみ込み積分を計算することで求める.動的破壊シミュレーションは差分法によるソースコードfd3d_TSN (Premus et al., 2020) を用いて行い,グリーン関数は離散化波数法 (Bouchon, 1981) および透過・反射係数行列 (Kennett and Kerry, 1979) により計算した.今回のテスト計算は平成28年熊本地震の最大前震(4月14日,MJMA6.5)への本手法の適用を想定しており,Asano and Iwata (2016) とF-netのメカニズム解を参考に仮定した1枚の鉛直矩形断層上における3種の動的震源パラメータの分布を与えた仮想的な断層モデルを設定した.破壊開始点はdouble-difference tomography法により再決定された位置 (Mitsuoka et al., 2020) を与え,この断層モデルに基づく合成波形を擬似観測波形としてインバージョンに使用した.また,動的破壊シミュレーションとグリーン関数の計算には,「平成28年熊本地震を踏まえた総合的な活断層調査」により作成された三次元速度構造モデル(浅野・他,2019)と全国1次地下構造モデル (JIVSM; Koketsu et al., 2012) から構成した観測点毎の一次元速度構造モデルを用いた.今後は,得られる各動的震源パラメータの事後分布と仮想的な震源モデルでの値との比較から,本手法による動的震源パラメータの推定精度を定量的に評価し,用いる観測波形の周波数帯の影響なども検討した後,実際のデータに適用する.
Asano and Iwata. (2016). EPS, 68, 147.
浅野・他.(2019). 日本地球惑星科学連合2019年大会,SSS13-09.
Bouchon. (1981). BSSA, 71, 959–971.
Gallovič et al. (2019). J. Geophys. Res., Solid Earth, 124, 6949–6969.
Kennett and Kerry. (1979). Geophys. J. R. astr. Soc., 57, 557–583.
Koketsu et al. (2012). Proc. World Conf. Earthq. Eng., Paper No. 1773.
Mitsuoka et al. (2020). J. Geophys. Res., Solid Earth, 125, e2019JB018515.
Premus et al. (2020). SRL, 91, 2881–2889.