[S15P-12] 太平洋プレートのプレート間地震を対象とした加速度応答スペクトル予測式の構築に向けて(1)
1.はじめに
地震動は震源や伝播経路、サイトの特性の影響を強く受ける。Matsu'ura et al.(2020)は、日本の場合には沈み込むプレートの構造が特徴的に伝播経路特性に影響を及ぼしているという認識のもと、マグニチュードや震源距離、サイト特性に加え観測点直下のプレート上面深度も変数とする震度の予測式を構築し、震源距離1000km程度までの広範囲の震度予測の有効性を示した。田中・他(2023)は、Matsu'ura et al.(2020)と同様の考え方に基づいて地震毎に加速度応答スペクトルSa(h=5%)の予測式を求め、予測値と観測値との残差を平野毎に整理し、Vs30(表層30mの平均S波速度)やD1400(Vs 1400m/s以上となる層の上面深度)と地盤増幅の関係性が地域によって異なる可能性を述べた。本検討では、田中・他(2023)の検討の続きとして、太平洋プレートのプレート間地震を対象とした加速度応答スペクトルの予測式の構築を試みる。
2.検討方法
後述する地震について、K-NET及びKiK-netで観測された水平動の地表記録から求めたBoore(2010)によるRotD50の加速度応答スペクトルSa(h=5%)に対して予測式の推定を行った。対象周期は0.5, 1.0, 2.0, 3.0, 5.0秒の5点である。震源距離300kmまでの記録、震源規模が大きい2地震は300km以上の観測点の記録も使用した。予測式のモデルは田中・他(2023)の式に、Mw依存項をMwの一次式、すなわち Aw Mw + Ac の形で加えたものとし、回帰係数Aw, Ac, b, β, d, gV, gDを求めた。
3.使用したデータと検討結果
最初に、Matsu'ura et al.(2020)のType I の地震等の18地震(Mw=6.2~8.7)で回帰を実施した(ケース1)。得られた回帰係数を使って求めた予測値と観測値との残差を検討した結果、平均的には観測値を良く再現できていることが確かめられた。田中・他(2023)と同様、Matsu'ura et al.(2020)による震度の予測式では考慮する必要のなかったD1400と残差との間に明らかに関係性があること、回帰係数は周期によって異なることも確認された。
しかし、回帰係数の推定結果の妥当性を確認するために既往研究と比較したところ、係数AwがMorikawa and Fujiwara(2013)のModel 2やSi et al.(2022)を大幅に下回る結果となった(図1参照)。また、中規模地震に適用した結果、Mw6.5以下の地震では残差が負となる傾向が見られた。
そこで、Mw5.5 以上のプレート間地震の中から発生場所に大きな偏りが無いよう新たに20地震(Mw5.5~6.5)を選択し、上記18地震と合わせた38地震で再度回帰分析を行った(ケース2)。既往式との整合性が大幅に向上し(図1)、残差とMw・断層最短距離・プレート上面深度・Vs30・D1400との関係は、推定予測式が中規模地震に対しても説明性があることを示した。このうちの残差とMwとの関係を図2に示す。ケース1ではMwが小さい地震で残差が負となっているが、ケース2では小さい地震も残差の絶対値が小さくなっていることがわかる。
なお、図2の各図の右端は2011年東北地方太平洋沖地震(F-netによるMw 8.7)であるが、いずれの周期においてもケース2で残差が悪化する結果となった。使用した回帰式はMw 5.5~8.7の範囲を1次式でモデル化したが、図2の結果を考慮すると、東北地方太平洋沖地震をデータセットに含めたMorikawa and Fujiwara(2013)やSi et al.(2022)のように2次式あるいは傾きの異なる2つの1次式でのモデル化を検討する必要性が考えられる。
4.今後に向けて
震源特性のモデル化の他にも、以下について改良の余地があることが分かっており、あわせて検討を進めていきたい。周期1秒以下の短周期で、残差が大きかった西日本や関東平野南部の観測点を回帰から除外する試みも行い、東北地方の残差が改善する傾向がみられた。しかし、北海道北部では残差が悪化し、観測を過小評価する結果となった。北海道北部は日高山脈の影響を受けている可能性があり、予測式中のVs30とD1400を関数とするサイト特性の評価の改良により観測値の説明性が向上するものと考えられる。一方、周期2秒以上の長周期では、北海道と本州で残差の傾向に違いがみられた。北海道付近と東北地方付近のそれぞれで起きた地震の特徴の違いを考慮する検討が必要かもしれない。
謝辞:本研究は、文部科学省による「地震調査研究推進本部の評価等支援事業」の一環として実施された。
地震動は震源や伝播経路、サイトの特性の影響を強く受ける。Matsu'ura et al.(2020)は、日本の場合には沈み込むプレートの構造が特徴的に伝播経路特性に影響を及ぼしているという認識のもと、マグニチュードや震源距離、サイト特性に加え観測点直下のプレート上面深度も変数とする震度の予測式を構築し、震源距離1000km程度までの広範囲の震度予測の有効性を示した。田中・他(2023)は、Matsu'ura et al.(2020)と同様の考え方に基づいて地震毎に加速度応答スペクトルSa(h=5%)の予測式を求め、予測値と観測値との残差を平野毎に整理し、Vs30(表層30mの平均S波速度)やD1400(Vs 1400m/s以上となる層の上面深度)と地盤増幅の関係性が地域によって異なる可能性を述べた。本検討では、田中・他(2023)の検討の続きとして、太平洋プレートのプレート間地震を対象とした加速度応答スペクトルの予測式の構築を試みる。
2.検討方法
後述する地震について、K-NET及びKiK-netで観測された水平動の地表記録から求めたBoore(2010)によるRotD50の加速度応答スペクトルSa(h=5%)に対して予測式の推定を行った。対象周期は0.5, 1.0, 2.0, 3.0, 5.0秒の5点である。震源距離300kmまでの記録、震源規模が大きい2地震は300km以上の観測点の記録も使用した。予測式のモデルは田中・他(2023)の式に、Mw依存項をMwの一次式、すなわち Aw Mw + Ac の形で加えたものとし、回帰係数Aw, Ac, b, β, d, gV, gDを求めた。
3.使用したデータと検討結果
最初に、Matsu'ura et al.(2020)のType I の地震等の18地震(Mw=6.2~8.7)で回帰を実施した(ケース1)。得られた回帰係数を使って求めた予測値と観測値との残差を検討した結果、平均的には観測値を良く再現できていることが確かめられた。田中・他(2023)と同様、Matsu'ura et al.(2020)による震度の予測式では考慮する必要のなかったD1400と残差との間に明らかに関係性があること、回帰係数は周期によって異なることも確認された。
しかし、回帰係数の推定結果の妥当性を確認するために既往研究と比較したところ、係数AwがMorikawa and Fujiwara(2013)のModel 2やSi et al.(2022)を大幅に下回る結果となった(図1参照)。また、中規模地震に適用した結果、Mw6.5以下の地震では残差が負となる傾向が見られた。
そこで、Mw5.5 以上のプレート間地震の中から発生場所に大きな偏りが無いよう新たに20地震(Mw5.5~6.5)を選択し、上記18地震と合わせた38地震で再度回帰分析を行った(ケース2)。既往式との整合性が大幅に向上し(図1)、残差とMw・断層最短距離・プレート上面深度・Vs30・D1400との関係は、推定予測式が中規模地震に対しても説明性があることを示した。このうちの残差とMwとの関係を図2に示す。ケース1ではMwが小さい地震で残差が負となっているが、ケース2では小さい地震も残差の絶対値が小さくなっていることがわかる。
なお、図2の各図の右端は2011年東北地方太平洋沖地震(F-netによるMw 8.7)であるが、いずれの周期においてもケース2で残差が悪化する結果となった。使用した回帰式はMw 5.5~8.7の範囲を1次式でモデル化したが、図2の結果を考慮すると、東北地方太平洋沖地震をデータセットに含めたMorikawa and Fujiwara(2013)やSi et al.(2022)のように2次式あるいは傾きの異なる2つの1次式でのモデル化を検討する必要性が考えられる。
4.今後に向けて
震源特性のモデル化の他にも、以下について改良の余地があることが分かっており、あわせて検討を進めていきたい。周期1秒以下の短周期で、残差が大きかった西日本や関東平野南部の観測点を回帰から除外する試みも行い、東北地方の残差が改善する傾向がみられた。しかし、北海道北部では残差が悪化し、観測を過小評価する結果となった。北海道北部は日高山脈の影響を受けている可能性があり、予測式中のVs30とD1400を関数とするサイト特性の評価の改良により観測値の説明性が向上するものと考えられる。一方、周期2秒以上の長周期では、北海道と本州で残差の傾向に違いがみられた。北海道付近と東北地方付近のそれぞれで起きた地震の特徴の違いを考慮する検討が必要かもしれない。
謝辞:本研究は、文部科学省による「地震調査研究推進本部の評価等支援事業」の一環として実施された。