[S15P-15] Characteristics of Predominant Periods of Near-fault Pulse-like Ground Motion measured based on Empirical Mode Decomposition
はじめに
断層近傍では強震動パルスが観測されることがあり、構造物に大きな被害をもたらすことが知られている。これまで断層運動とパルスの振幅との関係については多くの研究が行われ、マグニチュードや断層距離、震源と観測点の位置関係などのパラメータとの関係が議論されてきた(例えば、Somerville et al., 1997)。一方、断層運動とパルスの周期の関係について調べた研究は限られている。Somerville (2003)は、パルスの周期をマグニチュードの関数として表し、サイトによる影響について議論した。Mena and Mai (2011)は、パルスの周期とアスペリティの総面積との間に相関があることを明らかにした。Fayjaloun et al. (2017)は震源と観測点の相対的な位置関係がパルスの周期に影響することを発見した。本研究では、Next Generation Attenuation (NGA) - West 2の横ずれ断層型地震の断層近傍の強震波形データに対して、以下で述べる経験的モード分解(EMD)に基づく手法を用いてパルスの周期を測定し、断層パラメータとの関係について調べた。
手法
パルスの周期の測定は、Chen et al. (2019)が提案したEMDに基づく手法を参考にした。多くの研究では、パルスの形状を模した関数を仮定し、波形からその関数に合う部分を見つけることでパルスを抽出し、その周期を測定しているため、パルスの周期が仮定した関数に影響される可能性がある。しかし、EMDに基づく手法では、波形を複数の固有モード関数 (IMF) と呼ばれる振動モードに分解することでパルスを抽出するため、事前に関数を仮定する必要がない。Chen et al. (2019)では、EMDによって波形を複数のIMFに分解した後、基準を満たすIMFを重ね合わせることでパルスを抽出し、そのパルスに対してヒルベルト変換を行い、振幅が最大となる時刻の瞬時周波数からパルスの周期を求めている。ただ、EMDを用いて異なる周波数帯のIMFに分離した後、一部のIMFを重ね合わせ、その後ヒルベルト変換を用いて再び周波数の特定を行うという手順は、周波数解析の作業が重複しており、EMDの特性を十分に活用できていない。そこで、本研究では、分離したIMFのゼロクロッシングの時間差からパルスの周期を測定することにした。
データ解析
解析にはNext Generation Attenuation (NGA) - West 2データベースの横ずれ断層型地震の断層近傍で観測された64個の強震記録を用いた。まず、各速度波形の断層直交方向に対して、EMDに基づく手法を用いてパルスの抽出を行った。パルスの抽出は周期とエネルギー変化の基準を満たすIMFを選択することで行った。その後、抽出されたパルスを構成するIMFの最大エネルギーを含む半パルスのゼロクロッシングの時間差から周期を求めた。
結果
パルスの周期(Tp)を求めた結果、マグニチュードの増加とともに周期が指数関数的に増加することを確認した。これは先行研究と同様の傾向である。回帰式を求めたところ、log(Tp)=0.46Mw-2.59となり、傾きは自己相似性を仮定した場合の0.5に近い値となった。また、Vs30の値に基づいて岩盤サイトと土壌サイトに分け、サイトの影響を調べたところ、先行研究とは異なり、マグニチュードと周期の関係に大きな違いは見られなかった。
議論
先行研究ではパルスの周期とマグニチュードとの関係にサイト依存性が見られたが、横ずれ断層型地震と縦ずれ断層型地震の両方が含まれるデータベースを用いていた。そこで、本研究では縦ずれ断層型地震の断層近傍で観測された76個の強震記録に対しても同様にパルスの周期の測定を行い、サイトの影響を調べたところ、岩盤サイトの回帰式(Tp-Mw)の傾きが土壌サイトよりも大きくなり、先行研究と同様の結果が得られた。このことから、パルスの周期に対するサイトの影響は断層の種類によって異なる可能性がある。また、パルスの周期の断層距離に伴う変化を調べた結果、必ずしも明瞭な関係は見られなかったが、観測記録の多い特定の地震の記録に限定すると、断層距離の増加とともに周期が長くなる傾向が僅かに見られた。この傾向については今後詳しく調べる予定である。
結論
EMDに基づく手法を用いて、NGA-West2の横ずれ断層型地震の強震記録のパルスの周期を測定した。その結果、マグニチュードの増加とともに周期が指数関数的に増加することが確認できた。また、サイトの影響は見られず、断層距離の増加に伴い周期が長くなる傾向が僅かに見られた。
[謝辞]本研究の解析では、Next Generation Attenuation (NGA) - West 2の強震記録を使用させて頂きました。
断層近傍では強震動パルスが観測されることがあり、構造物に大きな被害をもたらすことが知られている。これまで断層運動とパルスの振幅との関係については多くの研究が行われ、マグニチュードや断層距離、震源と観測点の位置関係などのパラメータとの関係が議論されてきた(例えば、Somerville et al., 1997)。一方、断層運動とパルスの周期の関係について調べた研究は限られている。Somerville (2003)は、パルスの周期をマグニチュードの関数として表し、サイトによる影響について議論した。Mena and Mai (2011)は、パルスの周期とアスペリティの総面積との間に相関があることを明らかにした。Fayjaloun et al. (2017)は震源と観測点の相対的な位置関係がパルスの周期に影響することを発見した。本研究では、Next Generation Attenuation (NGA) - West 2の横ずれ断層型地震の断層近傍の強震波形データに対して、以下で述べる経験的モード分解(EMD)に基づく手法を用いてパルスの周期を測定し、断層パラメータとの関係について調べた。
手法
パルスの周期の測定は、Chen et al. (2019)が提案したEMDに基づく手法を参考にした。多くの研究では、パルスの形状を模した関数を仮定し、波形からその関数に合う部分を見つけることでパルスを抽出し、その周期を測定しているため、パルスの周期が仮定した関数に影響される可能性がある。しかし、EMDに基づく手法では、波形を複数の固有モード関数 (IMF) と呼ばれる振動モードに分解することでパルスを抽出するため、事前に関数を仮定する必要がない。Chen et al. (2019)では、EMDによって波形を複数のIMFに分解した後、基準を満たすIMFを重ね合わせることでパルスを抽出し、そのパルスに対してヒルベルト変換を行い、振幅が最大となる時刻の瞬時周波数からパルスの周期を求めている。ただ、EMDを用いて異なる周波数帯のIMFに分離した後、一部のIMFを重ね合わせ、その後ヒルベルト変換を用いて再び周波数の特定を行うという手順は、周波数解析の作業が重複しており、EMDの特性を十分に活用できていない。そこで、本研究では、分離したIMFのゼロクロッシングの時間差からパルスの周期を測定することにした。
データ解析
解析にはNext Generation Attenuation (NGA) - West 2データベースの横ずれ断層型地震の断層近傍で観測された64個の強震記録を用いた。まず、各速度波形の断層直交方向に対して、EMDに基づく手法を用いてパルスの抽出を行った。パルスの抽出は周期とエネルギー変化の基準を満たすIMFを選択することで行った。その後、抽出されたパルスを構成するIMFの最大エネルギーを含む半パルスのゼロクロッシングの時間差から周期を求めた。
結果
パルスの周期(Tp)を求めた結果、マグニチュードの増加とともに周期が指数関数的に増加することを確認した。これは先行研究と同様の傾向である。回帰式を求めたところ、log(Tp)=0.46Mw-2.59となり、傾きは自己相似性を仮定した場合の0.5に近い値となった。また、Vs30の値に基づいて岩盤サイトと土壌サイトに分け、サイトの影響を調べたところ、先行研究とは異なり、マグニチュードと周期の関係に大きな違いは見られなかった。
議論
先行研究ではパルスの周期とマグニチュードとの関係にサイト依存性が見られたが、横ずれ断層型地震と縦ずれ断層型地震の両方が含まれるデータベースを用いていた。そこで、本研究では縦ずれ断層型地震の断層近傍で観測された76個の強震記録に対しても同様にパルスの周期の測定を行い、サイトの影響を調べたところ、岩盤サイトの回帰式(Tp-Mw)の傾きが土壌サイトよりも大きくなり、先行研究と同様の結果が得られた。このことから、パルスの周期に対するサイトの影響は断層の種類によって異なる可能性がある。また、パルスの周期の断層距離に伴う変化を調べた結果、必ずしも明瞭な関係は見られなかったが、観測記録の多い特定の地震の記録に限定すると、断層距離の増加とともに周期が長くなる傾向が僅かに見られた。この傾向については今後詳しく調べる予定である。
結論
EMDに基づく手法を用いて、NGA-West2の横ずれ断層型地震の強震記録のパルスの周期を測定した。その結果、マグニチュードの増加とともに周期が指数関数的に増加することが確認できた。また、サイトの影響は見られず、断層距離の増加に伴い周期が長くなる傾向が僅かに見られた。
[謝辞]本研究の解析では、Next Generation Attenuation (NGA) - West 2の強震記録を使用させて頂きました。