[S18P-03] 最近の地震に関するスライド教材の作成 -試作後の改良点-
1. 背景
理科の教材として時事的なものを扱うことがある。これは、授業内容と世間で話題になっていることとのつながりを学生に知ってもらうことで、授業内容に関心を持ってもらい、理解を深めてもらうことを目的としている。
アメリカの EarthScope (旧 Incorporated Research Institutes for Seismology (IRIS))が、最近の地震についてteachable moment(「教える好機」と訳すことができる)のスライド教材を公開している。しかし、日本で発生した地震のうち、日本で大きく報道される地震でも、IRISのスライド教材が作られないことがある。そこで日本版のスライド教材を作成することにした。小林 (2018a, b) は、IRIS 版の作成方針を基に日本版の作成方針を検討し、以下の通りとした。
・日本で地学を学ぶ高校生や大学生を対象とする
・日本で発生した、新聞 1 面に掲載されそうな地震を取り上げる
・スライドの分量は、10 分前後で説明できるぐらいにする
・掲載情報は、地震の震源、マグニチュード、震度分布、被害の概要、面的な推定震度分布と震度遭遇人口、テクトニックな背景と過去の地震活動、震源メカニズム解、余震分布、地震波形、地震の特徴に応じた情報、とする
・地震発生から 12 時間以内の公開を目標にする
・作成時間は 1~2 時間程度とし、そのためあらかじめ 8~9 割雛形を決めておく
・教室でそのまま使え、カスタマイズ可能にする
・多くの人がアクセス可能な情報のみにし、出典を明記する
・個人の見解を控え、多くの地震学者が同意しそうな内容とする
以上の作成方針に基づき、これまで試作3件(小林, 2018a, b, 2019)を含む16件のスライド教材を公開した。本発表では試作以降に行った主な改良点を紹介する。
2. 改良点
2-1. フィードバック
利用者からのフィードバックを得ることを目的に、「間違い報告やお問合せ」と「スライド教材利用アンケート」の2つのウェブフォームを開設した。これまで「間違い報告やお問合せ」は4件、「スライド教材利用アンケート」は16件の回答があった。「間違い報告やお問合せ」により、指摘された間違いを修正し、訂正版を公開した。「スライド教材利用アンケート」によりスライド教材の利用実態を把握し、また要望があれば可能な範囲で改良につなげた。
2-2. テクトニックな背景の図
テクトニックな背景を説明する図については、IRISのInteractive Earthquake Browserで作成した図を利用していた。しかし、スラブの深さ分布や活断層分布がなかったことから、自作することにした。震源データは気象庁のものを、スラブの深さは気象研究所弘瀬冬樹さんがウェブで公開されているデータを、活断層は産業総合技術研究所の活断層データベースのものを利用した。
2-3. 地震波形
地震波形として、防災科学技術研究所(防災科研)強震観測網 K-NET, KiK-netの波形記録を震央距離で並べた図を作り、P波、S波の伝わる様子を紹介している。試作では防災科研のソフトウェアStrong Motion Data Analysis 2で描いていた。作業時間の短縮のため、awk スクリプトとGeneric Mapping Tools (GMT)のスクリプトの組み合わせで描くことにした。また、最近では気象庁の走時表を使った計算走時も示すようにした。
2-4. そのほかの改良点
当初は個人サイトの中の暫定的なページで公開していたが、新しいサイトを立ち上げてそこで本格的に運用することにした ( https://reijikan.sakura.ne.jp/retmj/ )。また、最近の利用者からの要望により、スライドの末尾に情報源のURLをまとめて載せることにした。
3. 今後の展望
テクトニックな背景の図については、現在は毎回作成している。しかし、普段使う教材としても良い図であるので、各地方の図をすべて作って公開することを目指す。これによってスライド教材作成時の作業時間の短縮にもつながる。
参考文献
小林励司 (2018a): 最近の地震に関するスライド教材の試作-2018年9月6日北海道胆振地方中東部の地震を例に-, 日本地震学会2018年秋季大会, S25-P27. (緊急セッション「S25. 2018 年 9 月 6 日北海道胆振地方中東部の地震」のため要旨なし)
小林励司 (2018b): 日本で発生した最近の地震に関するスライド教材の開発, 鹿児島大学理学部紀要, 51, 43-51.
小林励司 (2019): 最近の地震に関するスライド教材の試作 (2) -2019年1月3日熊本地方の地震(M5.1)の例と前試作からの改良-, 日本地球惑星科学連合2019年大会 , G03-07.
理科の教材として時事的なものを扱うことがある。これは、授業内容と世間で話題になっていることとのつながりを学生に知ってもらうことで、授業内容に関心を持ってもらい、理解を深めてもらうことを目的としている。
アメリカの EarthScope (旧 Incorporated Research Institutes for Seismology (IRIS))が、最近の地震についてteachable moment(「教える好機」と訳すことができる)のスライド教材を公開している。しかし、日本で発生した地震のうち、日本で大きく報道される地震でも、IRISのスライド教材が作られないことがある。そこで日本版のスライド教材を作成することにした。小林 (2018a, b) は、IRIS 版の作成方針を基に日本版の作成方針を検討し、以下の通りとした。
・日本で地学を学ぶ高校生や大学生を対象とする
・日本で発生した、新聞 1 面に掲載されそうな地震を取り上げる
・スライドの分量は、10 分前後で説明できるぐらいにする
・掲載情報は、地震の震源、マグニチュード、震度分布、被害の概要、面的な推定震度分布と震度遭遇人口、テクトニックな背景と過去の地震活動、震源メカニズム解、余震分布、地震波形、地震の特徴に応じた情報、とする
・地震発生から 12 時間以内の公開を目標にする
・作成時間は 1~2 時間程度とし、そのためあらかじめ 8~9 割雛形を決めておく
・教室でそのまま使え、カスタマイズ可能にする
・多くの人がアクセス可能な情報のみにし、出典を明記する
・個人の見解を控え、多くの地震学者が同意しそうな内容とする
以上の作成方針に基づき、これまで試作3件(小林, 2018a, b, 2019)を含む16件のスライド教材を公開した。本発表では試作以降に行った主な改良点を紹介する。
2. 改良点
2-1. フィードバック
利用者からのフィードバックを得ることを目的に、「間違い報告やお問合せ」と「スライド教材利用アンケート」の2つのウェブフォームを開設した。これまで「間違い報告やお問合せ」は4件、「スライド教材利用アンケート」は16件の回答があった。「間違い報告やお問合せ」により、指摘された間違いを修正し、訂正版を公開した。「スライド教材利用アンケート」によりスライド教材の利用実態を把握し、また要望があれば可能な範囲で改良につなげた。
2-2. テクトニックな背景の図
テクトニックな背景を説明する図については、IRISのInteractive Earthquake Browserで作成した図を利用していた。しかし、スラブの深さ分布や活断層分布がなかったことから、自作することにした。震源データは気象庁のものを、スラブの深さは気象研究所弘瀬冬樹さんがウェブで公開されているデータを、活断層は産業総合技術研究所の活断層データベースのものを利用した。
2-3. 地震波形
地震波形として、防災科学技術研究所(防災科研)強震観測網 K-NET, KiK-netの波形記録を震央距離で並べた図を作り、P波、S波の伝わる様子を紹介している。試作では防災科研のソフトウェアStrong Motion Data Analysis 2で描いていた。作業時間の短縮のため、awk スクリプトとGeneric Mapping Tools (GMT)のスクリプトの組み合わせで描くことにした。また、最近では気象庁の走時表を使った計算走時も示すようにした。
2-4. そのほかの改良点
当初は個人サイトの中の暫定的なページで公開していたが、新しいサイトを立ち上げてそこで本格的に運用することにした ( https://reijikan.sakura.ne.jp/retmj/ )。また、最近の利用者からの要望により、スライドの末尾に情報源のURLをまとめて載せることにした。
3. 今後の展望
テクトニックな背景の図については、現在は毎回作成している。しかし、普段使う教材としても良い図であるので、各地方の図をすべて作って公開することを目指す。これによってスライド教材作成時の作業時間の短縮にもつながる。
参考文献
小林励司 (2018a): 最近の地震に関するスライド教材の試作-2018年9月6日北海道胆振地方中東部の地震を例に-, 日本地震学会2018年秋季大会, S25-P27. (緊急セッション「S25. 2018 年 9 月 6 日北海道胆振地方中東部の地震」のため要旨なし)
小林励司 (2018b): 日本で発生した最近の地震に関するスライド教材の開発, 鹿児島大学理学部紀要, 51, 43-51.
小林励司 (2019): 最近の地震に関するスライド教材の試作 (2) -2019年1月3日熊本地方の地震(M5.1)の例と前試作からの改良-, 日本地球惑星科学連合2019年大会 , G03-07.