日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S19. 地震一般・その他

[S19P] PM-P

2024年10月21日(月) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (2階メインホール)

[S19P-02] 歪波形のコーダ部分における等方性の検証

*江本 賢太郎1、西村 太志2、中道 治久3、田口 貴美子2、廣瀬 郁2、中原 恒2、濱中 悟1、Bin Abdul Rahman Syed Idros1、米盛 航平1 (1. 九州大学、2. 東北大学、3. 京都大学)

地震波形の後半部分であるコーダは,伝播過程で媒質の不均質で散乱されて遅れて到達する散乱波によって構成されている.散乱波はさまざまな方向から観測点に到達するため,等方的な波動場となることが期待される.そのため,コーダ部分は空間一様なエネルギー場となり,サイト増幅の推定やコーダ波干渉法に用いられている.
光ファイバーケーブルを利用したDistributed Acoustic Sensing(DAS)による超高密度観測が近年行われるようになってきた.DASでは,ケーブルの任意の場所での歪や歪速度が時系列として出力される.これらは従来の地震計記録の空間微分に相当するため,媒質の不均質に敏感であるとされている.特に,高周波地震波は短波長不均質の影響を強く受け,強い散乱波により複雑な地震波形となるため,歪波形もより複雑なものとなる.多くの研究において,S波走時の2倍の時刻以降がコーダとして扱われてきた.これは経験則であるが,不均質に敏感な歪波形では,このコーダ開始時刻がどのようになるのかは経験的にもわかっていない.DASでは,ケーブルに沿った一方向の歪しか得られず,ケーブルへの入射角によって感度が異なる.コーダ部分が等方的になっていれば,ケーブル方向を無視した解析を行うことが可能となる.本発表では,2次元波動伝播シミュレーションにより,歪の等方性の時間変化の媒質不均質依存性を調べる.また,桜島で行ったDASのデータを用いて,ケーブル方位の違う部分で地震波の振幅を比較し,等方的になることを確認する.

不均質媒質として,特徴的スケール1 kmと5 km,ゆらぎのRMS値1 %, 5 %, 15 %の指数関数型自己相関関数で特徴づけられるランダムなゆらぎを考える.平均P波速度,S波速度をそれぞれ,6km/s,3.46km/sとし,2次元弾性体でのP-SVの運動方程式を有限差分法により解く.媒質のサイズは,一辺が約400kmの正方形とし,中心に震源時間関数(3Hz)の等方P波震源を設置する.震源から同心円上に30, 60, 90 kmに観測点を設置する.各距離においては10度間隔で36個の観測点が存在する.各観測点で,動径方向(R方向)とそれに直交する方向(T方向)の速度波形に加えて,RR成分,TT成分の歪波形を出力する.シードを変えた20個のランダム不均質媒質でシミュレーションを行い,統計的な特徴を調べる.

速度波形のR成分とT成分の振幅比は,P波到達後に1以下まで減少し後で増加に転じ,1に収束する傾向を示した.いずれの媒質でもS波走時の2倍となる時刻でほぼ1となったが,特徴的スケールが1 kmでゆらぎのRMS値が大きいほど1に近かった.一方,歪みのRR成分とTT成分の比は,P波到達後に単調減少し1に収束した.速度波形と同様の媒質依存性を示し,ゆらぎのRMS値が大きいほど収束速度が速い傾向が見られたが,その違いはわずかであった.また,速度波形の場合よりもばらつきが小さかった.

これらの結果は,特徴的スケールが小さいほど広角散乱が強く,ゆらぎのRMS値が大きいほど散乱が強いため,波動場が等方的になる時間が短い傾向にあると解釈できるが,その依存性は小さい.速度波形のR成分とT成分の比は,P波からS波への変換散乱によってT成分の方が一度大きくなっていると考えられる.一方,歪の場合にはTT成分の励起がT成分に比べて相対的に小さく,RR成分もTT成分のいずれもS波入射に対する感度がないため,速度の場合よりも比が安定し,ばらつきが小さいものと考えられる.そのため,歪のRR成分とそれを45度回転させた成分の比を調べると,速度のR成分とT成分の比と同様に比が1以下になってから増加する傾向が見られた.

2023年の11月から12月にかけて,桜島の野尻川沿いに敷設された光ファイバーケーブルを利用してDAS観測を行った.ゲージ長は10 m,チャンネル間隔は5 mである.ケーブルは道路沿いに埋設されており,90度曲がっている部分の前後それぞれ250 mの区間を解析に使用する.期間中に記録された地震のうち,近地で発生した5つの地震時の折れ曲がり前後で振幅比を2-4Hzの周波数帯で調べた.サイト増幅の影響を軽減するため,十分後半の時刻のコーダで振幅を規格化した.地震によりばらつきはあるものの,S波走時の2倍の時刻では,振幅比は1に近づくことがわかった.歪の場合でも従来の速度波形と同様に,S波走時2倍以降のコーダでは等方的になり,成分(ケーブル方向)の振幅の違いが見られなくなることが確認された.

DAS観測にあたっては,国土交通省九州地方整備局大隈河川国道事務所および桜島砂防出張所の方々にご協力いただきました.