日本地震学会2024年度秋季大会

講演情報

記念講演

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[S20] PM-1

2024年10月21日(月) 12:40 〜 14:40 A会場 (4階国際会議室)

座長:村井 芳夫(北海道大学理学研究院)、八木 勇治(筑波大学)

14:00 〜 14:20

[S20-03] [招待講演]多彩な機械学習アプローチによる地震・強震動・地殻変動解析

*岡崎 智久1 (1. 理化学研究所 革新知能統合研究センター)

講演者は、自然科学への応用研究が進展している機械学習を、地震学関連分野に積極的に導入してきた。大規模データへの深層学習モデルの適用に限らず、データ駆動型アプローチ(機械学習)とモデル駆動型アプローチ(物理モデル)を相補的に融合した高効率・高精度なデータ解析手法の研究を実施してきた。多彩な機械学習を駆使して様々な地震学分野の課題に取り組んでおり、特に以下の研究に関して成果を挙げている。
・強震動物理学×最適輸送理論
・地震テクトニクス×ベイズ逆解析
・地殻変動×物理深層学習

強震動物理学×最適輸送理論
震源断層を特定した地震動予測において、標準のハイブリッド法では長・短周期波形が独立に計算されるという課題がある。講演者らは過去の地震記録の学習により、数値計算により得られた長周期波形を広帯域波形に整合的に変換する機械学習モデルを提案した[1]。最適輸送理論に基づく経時特性の比較および非線形次元削減による潜在空間の構成により、記録数が限られた現実の状況下で深層学習より高効率・高精度の予測を実現した。本研究で強震動物理学に先駆的に導入した最適輸送距離は、地震波形の類似度評価において汎用性の高い指標である。

地震テクトニクス×ベイズ逆解析
測地データから歪み速度場を推定するためにABICに基づく基底関数展開の方法を提案した[2]。客観的に平滑化強度を決定できることに加え、従来よく用いられてきた手法と比べ高解像度かつ安定な連続場が得られることを定量的に示した。日本列島の広域的な歪み速度場を推定することで、新潟神戸歪み集中帯に加え、北関東~愛知の低歪み域や東北日本の火山配置に符合する点状の高歪み域などを高精度で明らかにした。本成果は日本列島における高解像度の歪み速度地図を提供しており、変形・応力場の研究において参照用としての価値も持つ。
 また、日本列島周辺の応力場の時空間変化を地震のCMTデータから逆解析により推定した[3]。特に、東北地方太平洋沖地震後に震源域の応力の時間変化が場所により異なることを明らかにした。従来の基底関数展開の方法では、時間変化を含めるとパラメタ空間が4次元となり計算量的に困難なため、計算量が解析次元に依存しないベイズ手法であるガウス過程を導入した。ここで,ガウス過程を逆問題に応用するために,推定する場が満たすべき共分散関係を新たに導出した。本手法により、従来は解析困難だった高次元の地球物理学データ逆解析が実行可能となった。

地殻変動×物理深層学習
地殻変動解析において、物理法則を組み込む深層学習モデル(physics-informed neural network, PINN)を提案した[4]。震源断層における変位場の特異性を極座標変換により解消し、非自明な断層形状・地形・地下構造において地震時変動の順解析を実施した。複雑な構造の解析には、従来の離散化手法では細分化されたメッシュ分割による大規模モデルが必要であるが、提案法では連続的な表現のためモデルを複雑化せずに高精度の解析を実現した。提案法は観測データを直接モデルに組み込めるため、陸海の測地観測など種々のデータを同化した地殻変動および地震発生評価の研究が可能となる。

Scientific machine learning (SciML)
これまで自然科学における深層学習の応用は、画像処理・自然言語処理などを目的に開発された汎用的モデル(convolutional neural network, transformer, etc.)を気象画像・地震波形などの観測データに活用する事例が主流であった。そこでは深層学習のスケール性や並列計算が着目され、自動化・高精度化・高速化といった性能を追求する方向に発展してきた。2020年頃よりPINNを代表として、深層学習に科学的知見を組み込むことで、限られた観測データから自然現象を解析するscientific machine learning (SciML)が、情報学と自然科学にまたがる学際的分野として活発に研究されている。SciMLの登場により、講演者は深層学習の別の側面に着目している。線形ソルバーや既存の逆解析・データ同化手法等と異なり、物理法則と観測データを損失関数として同等に扱い連続関数を最適化する。よって、構成法則や境界条件に関する知見が不完全である、観測データが疎で偏りがあるなど、従来手法では解析困難な課題に柔軟に対応できる可能性を持っている。SciMLの真価を見出すには機械学習の技術だけでなく、支配方程式の確からしさや観測データの特性など、対象となる物理現象への深い洞察と問題意識が重要になると考えられる。地震学者がSciMLに積極的に参入し、斬新な研究事例を蓄積していくことで、これまでと違った視点から地震現象の理解に迫れると期待している。

[1] Okazaki T, et al., Geophys. J. Int., 227(1), 333–349 (2021).
[2] Okazaki T, et al., Earth Planet. Space, 73, 153 (2021).
[3] Okazaki T, et al., J. Geophys. Res. Solid Earth, 127, e2022JB024314 (2022).
[4] Okazaki T, et al., Nat. Commun., 13, 7092 (2022).